義理2
橋「バレンタイン回が二回で終わると思った? 浅ましい。浅ましいわ。あなたの単純で短絡的な脳みそが妬ましいわね。ふはははは」
ガチャ
橋「久しぶりね」
『ああ、パルスィ、久しぶり』
橋「パルパルしてる?」
『えーと何の話かなあ』
橋「白々しいわね。世間一般では最高に妬ましいイベントよ」
『本命にはハナから期待してないから大丈夫』
橋「本当?」
『え?』
橋「本当に大丈夫だと言い切れる?」
『最初から期待してなければ少し楽だよ』
橋「絶対に本命は来ない、と?」
『うん、だって俺だからね』
橋「本当にそうかしら」
『………』
橋「心のどこかでは期待してるんじゃなくて?」
『…くっ…』
橋「今の時代、チョコを渡す理由なんていくらでもある。例えば、義理チョコや友チョコ、針入りチョコとかね」
『…たぶん最後おはぎ…』
橋「あなたのもとを訪れる者もゼロではないかもしれない」
『でもそれは義理だってちゃんとわかって…』
橋「いいえ」
『いや、わかってるって』
橋「もし誰かが来たら、あなたはこう思うはずよ」
『どう思うの?』
橋「わざわざ家まで足を運んでくれるなんて、俺に特別な感情を抱いているに違いない」
『お、思わないよ』
橋「好きまではいかなくても、好意はあるんだ、とね」
『…ぐぬぬ』
橋「そして次に、その子の表情を見てこう思うはずよ」
『どう?』
橋「あれ、なんかちょっと照れてない? え、まさか…まさかの?」
『…いや…』
橋「ってか、この子、こんなに可愛かったっけ? 恋する乙女はうんぬんかんぬんって…、とね」
『………』
橋「さらに、渡されたブツの包装を見てこう思うはずよ」
『まだあるんすか…』
橋「義理って言ったのにキレイなラッピング…これ本当に義理か?」
『…ぐ…』
橋「実は照れ隠しに言っただけで、本音は中の手紙に…、とね」
『………』
橋「包装紙が去年のお中元の使い回しとも知らずにね」
『…え、そうなの?』
橋「そんなもんよ」
『…そなんだ…』
橋「ちなみに今の、三つとも当てはまったら、勘違いプチ喪男よ」
『…おーけー、うん…』
橋「ちなみにイケメンモテ男の場合はどうだと思う?」
『まさか、そんな浅ましいことは考えないというのか…』
橋「違うわ」
『え、じゃあ何が…』
橋「それは…」
『それは…?』
橋「そもそも義理じゃない」
『くっそおおおおおおおおおおおおおおお!!』
橋「いいわよ、そう、その妬みよ」
『イケメンモテ男め…許さん…』
橋「それじゃあここで、イケメンあるある」
『…聞きたくねー』
橋「下駄箱いっぱいの本命チョコ」
『はい、イケメン爆発ー』
橋「教室を覗くと自分の机を囲んでる女子一同」
『はい、イケメン、タンスの角に小指ー』
橋「そしてイケメン君の姿を見ると真っ赤になって三々五々」
『はい、イケメン、下校中全部赤信号ー』
橋「机に入りきらない本命チョコ」
『はい、イケメン、ファミレスのドリンクバーで炭酸押したときやたら水ばっかり入るー』
橋「休み時間ごとに呼び出されて渡される本命チョコ」
『はい、イケメン、チャリの後輪の泥はねが歪んで、漕いだときやたらカシュカシュ音がするー』
橋「もちろん告白つき」
『はい、イケメン、スーパーで早いと思って並んだレジの列で一番前の人が、すいませんこれ戻してきます、とか言ってなかなか帰って来ないー』
橋「ま、彼らにはこれが普通ね」
『びっくりするほど格差社会』
橋「私のあとに続いて叫びなさい」
『オーケー、トム』
橋「妬ましいわー!」
『妬ましいわー!』
橋「パルパルパルー!」
『パルパルパルー!』
橋「パー(↓)ルー(↑)!」
『パー(↓)ルー(↑)』
橋「どう、妬みはすっきりした?」
『増幅しました…』
橋「やっぱり」
『わかってるならやらせないでね…』
橋「まあ、それはいいとして」
『よくないよ。俺のやるせない気持ちどうすんのさ』
橋「かわいそうなあなたに朗報よ」
『…何?』
橋「ここに偶然チョコがあるわ」
『偶然って…』
橋「どうせ誰からももらってないと思ってね。はい」
『え…』
橋「はい」
『…いいの、もらっちゃって?』
橋「ええ、かわいそうだから」
『…う…うん、ありがとう…』
橋「義理だけどね」
『この際、義理でも全然いいよ。ありがとう』
橋「さっそく食べるといいわ」
『…また激辛とかじゃないよね…』
パクッ
橋「わかってて食べるその根性、嫌いじゃないわ」
『っああ、やっはいかあい!』
橋「まあ、口直しにチョコ置いてくわ。じゃあね」
『やあねやなーい!』
橋「その中のひとつだけ激辛じゃないから。じゃ」
バタン
『くっほー、ろれだ…』
ぱくっ
『かあい!』
ぱくっ
『こえも、かあい!』
ぱくっ
『ああっ!』
ぱくっ
『かあい!』
ぱくっ
『どえだ!』
ぱくっ
『つぎで、しゃいご』
ぱくっ
『…もぐもぐ…』
『くっそ、じぇんぶ、かあいじゃねぇか!』
橋「はい、爆発! 爆発!」




