はつもーで
『んぅ…むにゃむにゃ…』
ピーンポーン
ガチャ
バタン
「お邪魔するぜー」
すたすた
『…すぅ…すぅ…』
「なあなあ、初詣でに行こうぜ」
ゆさゆさ
『…すぅ…すぅ…』
「起きろよー」
ゆさゆさ
『…んぅ…』
「おーい」
『…あれー魔理沙宴会に行ってたんじゃないのー…』
「昨日は萃香が暴れ始めたから、二人で抜け出したじゃないか」
『…ああそれで一夜をともにしたんだ…』
「いや、自分の家に帰ったな。寝ぼけてるのか?」
『…そら寝ぼけるよまだあけぼのじゃんー…』
「新年だし初詣でに行こうぜ」
『…あとでいいやん…』
「いいから行こうぜ。神社に行けばお節にありつけるしな」
『…いいよカレーで…』
「そんなのはダメだ。お節がいい」
『…むりーあけぼのだからおきれないー…』
「あけぼのでも起きれるってのー」
『いたずらに
日々を過ごして
気付いたら
何も出来ずに
年はあけぼの。
おやすみ』
「おい、おやすみじゃない。神社に行こうぜ」
『これがホントのジンジャーエール。おやすみ』
「………」
『とにかく布団から出たくないー』
「あ、あんなところにイヌミミの美少女が」
『…いや、釣られないからね』
「干支的にタツミミがよかったか?」
『…まあ、レアリティは高いね』
「じゃあこんな質問をしよう」
『なに?』
「米は好きか?」
『うん』
「人参は好きか?」
『うん』
「大根は好きか?」
『うん』
「茄子は好きか?」
『うん』
「カボチャは好きか?」
『うん』
「布団から出るか?」
『いいえ』
「なんで『うん』って言わないんだよー」
『絶対出ない。梃子でも動かない』
「行こうぜー」
『やだやだやだ』
「行ってくれないと」
『行ってくれないと?』
「………」
『………』
「とにかく行こうぜー」
『…思いつかなかったんかい』
「うーん…じゃあ、そうだな…」
『なに?』
「行ってくれないと噛む」
『暴力はんたーい』
「甘噛みする」
『…それはそれで勘弁してほしい…』
「じゃあ出かけようぜ」
『いーやー』
「おまえ…本当にこのままでいいと思ってるのか?」
『え、何が?』
「そんなんじゃ、いつまでたっても変われないぜ」
『…え?』
「私だって…応援してるんだぜ。今年こそ、アレを成し遂げる。そうだろ?」
『…魔理沙…』
「さあ、それなら、いつまでもこうしてるわけにはいかないな」
『えっと…』
「行こうぜ、初詣で」
『…うん。わかったよ』
………
『…ってか、アレって何』
「さあな。適当に言ったから」
『くっ…カッコいいセリフにだまされた…』
「寝ぼけてるのが悪いんだぜ」
『俺めっちゃすごい誓いを立ててたんだな、とかテンション上がってたのに…』
「そんな誓いは全然立ててない」
『俺の大事な時間を返せ!』
「惰眠の方がよっぽど時間の無駄遣いだな。っと、着いたぜ」
『お、早朝の神社は、何か神社っぽい』
「神社だからだな」
『いや、ちょっと神聖さが増してるっていうかさ』
「まあ、たしかに普段は神聖さが足りていないな」
『うーんまあ、そこまでは言わないけどね』
「そんなことより、とりあえずあれだ。お祈りをしよう」
『ああ、はいはい。お賽銭入れないとね』
「私も入れるから、くれ」
『え、普通自分の入れませんか』
「財布を忘れた」
『…まあ、いいけど。いくら入れんの?』
「十円くらいでいいんじゃないか?」
『そう? なら、はいよ』
「サンキュー」
『俺は五円玉をたくさん。ご縁がありますように、って』
「いや、五円はダメだ」
『え…なんで?』
「なんかその…安いから?」
『魔理沙より高額だよ』
「一枚あたりは私の方が高い」
『安い硬貨って入れたらダメなの?』
「…さあ…」
『え、どっち?』
「とにかく五円はダメだ」
『えー。じゃあ五十円にしよう。ご縁が十回ありま…』
「ダメだ」
『…何で?』
「えっと、真ん中に穴があるから?」
『穴があると、どうしてダメなの?』
「え…縁起が悪いとか…」
『そうかな?』
「そうだ」
『じゃあ五百円玉に…』
「おまえは犬か」
『え? えっ?』
「いや、なんでもない。とにかく十円にしよう」
『俺も?』
「ああ」
『うーん…まあいいけどさ…』
「よし、じゃあ早速投入」
チャリーン
パンパン
『え、早っ。二礼二拍手一礼じゃないの?』
「いいんだよ、フィーリングで」
『新年早々アバウトだなぁ』
「ほら、おまえも早く」
『うん』
ペコペコ
パンパン
ペコリ
「マジメか」
『これが普通だって』
「で、何を祈ったんだ?」
『いや、別に…』
「言えないようなことか?」
『そうじゃないけどさ。そう言う魔理沙は?』
「いや、別に…」
『言えないようなことなの?』
「いや、違うが。案外、おまえと一緒だったりしてな」
『えー、それはないと思うなぁ』
「で、何を頼んだ?」
『………笑わない?』
「笑わない笑わない」
『えっと…』
「うんうん」
『…世界平和…』
「………」
『………』
「………」
『…何その疲れきった表情』
「…いや、私が馬鹿だったんだ。すまん」
『…そうだよ。俺に面白いことを期待する魔理沙が悪い』
「まあ、面白いことを期待したわけじゃないが」
すたすた
「お、やっぱりあんたたちか」
『あ、おはよう霊夢』
「こんな早くから初詣でなんて、感心ね」
『魔理沙が行くって言って聞かなくてさ』
「おいおい。私を駄々っ子みたいに言うなよ」
「それより、ちゃんとお賽銭入れた?」
「もちろんだな」
「どれどれ」
『…いや、露骨に賽銭箱覗き込む巫女ってやだな…』
「あら、五円玉じゃないの?」
『うん、違うよ』
「あんたなら、ご縁がありますように、とか言いそうだけど」
『言ったけど、魔理沙が縁起悪いからやめれって』
「五円玉が? 別に縁起悪くないんじゃないの?」
「そうだったか?」
『やっぱり。じゃあ五円も入れておこう』
「いや、ダメだ」
『なんでさ?』
「ほら、そのー、霊夢を甘やかすな!」
「…あんたは私の何なのよ」
「まあ、それはいいとして」
「よくないわよ」
「お節を食べに来た」
『…ストレートだねぇ』
「はいはい、お節ね。紫が用意してくれるはずだから」
『実際作るのは紫さんじゃないよね?』
「そりゃそうでしょ。あの紫が料理するところなんて想像できないわ」
「邪魔なら、しそうだけどな」
「ま、とにかく、みんなまだ寝てるから、朝ごはんはもう少しあとよ」
『それで結局、昨日の宴会はいつ終わったの?』
「さあ。私は気付いたら寝てたし」
「だらしない巫女だな」
「あんたに言われたくないわよ。ってか、あんたたち昨日勝手に抜けたでしょ?」
「ああ」
『身の危険を感じて』
「忙しかったから、こき使おうと思ったのに」
『…帰ってよかった』
「…だな」
「ふふ、冗談よ」
『あ、ところで、おみくじ引きたいんだけど』
「え、おみくじ?」
「なんだ、ないのか?」
「な、あるわよ、もちろん。好きな数字を言ってちょうだい」
『じゃあ、俺は3で』
「それじゃ、私は…」
「あ、待って。一人ずつ」
「そ、そうか」
「まず、3を選んだあなた」
『はい』
「小吉です」
『あ、口頭なんだ…』
「妖怪たちにいじめられる一年となるでしょう」
「そんなこたぁ私でもわかるがな」
「健康について。今年は風邪をひく可能性があります。気をつけましょう」
『…うん、まあ』
「学問について。普通でしょう」
「ずさんなおみくじだな」
「転居、しない方がよい。待ち人、来てる」
『来てる!?』
「来たるじゃないのか?」
「こほん。金運、良好」
『あ、金運はいいのか』
「稼いだお金を賽銭箱に入れると、雪だるま式にお金が増えます」
「詐欺だ。新手の詐欺だ。神仏を騙った新手の詐欺だ」
「はい、次の方どうぞ」
『ああ、俺のは終わりなんだ…』
「じゃあ私は3番で」
『え…』
「あなたは末吉です」
『え…』
「…変わってるじゃないか」
「あ、さっきも3だっけ」
『………』
「まあ、問題ないわ。神はフレキシブルだから」
「いいのか」
「とにかく末吉。健康について。病気です」
「現在形かよ…」
「ひとりでは治せない病気です」
『あ~あ。手洗わないでご飯食べるから』
「最近はちゃんと洗ってるぜ」
「まあ、勇気があれば治るわ、たぶん」
「不安を煽ってお守りを買わせようって魂胆じゃないだろうな」
「違うわよ。お守りなんて売ってないから」
『いや、そこは売ってろよ…』
「とにかく次、部屋を片付けましょう」
「おい、お小言になってるじゃないか」
「金運、特に無し。ま、だいたいこんなことろかしらね」
『この神社すごいね』
「ああ。私も驚いた」
「ふう。めっちゃ神気使ったわ」
「このダメ巫女め」
「ちなみにひとり百円ね」
『…ちょっと騙されたような気もするけど、はい』
「はい、ありがと。しっかり未来に活かしなさいよ」
「こんなのどう活かせっていうんだよ」
「しっかり活かさないと、泣く羽目を見るわよ」
「そんな馬鹿なことが…」
ぐぅ~っ
『………』
「………」
「………」
『せんせー、僕じゃありません』
「私でもないわよ」
「………」
「…くすっ。そういえばお節を食べに来たんだったものね」
「…うぅ…」
「とりあえず上がっていきなさい」
『ほいほーい』
「…お、おじゃまするぜ…」
すた…
「ああ、そうそう」
『ん?』
「ひとつ忘れてたわ」
『え、何?』
「ほら、新年だから、ね?」
『ああ、そっか…』
ぺこり
「よろしくね」
『うん、よろし…』
「昨日の片付け」
『…そっちかよ…』
~紅魔館の新年~
文「咲夜さん、今年の目標は?」
咲「紅魔館、のっとる」
レ「えっ」




