紅魔館の聖夜
幻想郷のとある聖夜の、紅魔館での出来事である。
(泣けるお話です。皆さん、ハンカチのご準備を)
レ「ふふふ…」
ガラガラッ
レ「ふふ…ははは…あははははははは…」
ガサガサ
レ「来たわ…ようやく来たわ。この時が…待ちに待った…」
スポッ
レ「クリスマス・イヴがッ!」
バンッ☆
レ「さあ、パーティーだ。ドレスアップは完了した。招待状は幻想郷じゅうに出した。この紅魔館が、妖怪で、人間で、妖精で、満ち溢れる。いや、満ち溢れている、か? ふふっ、まあいい。気の短い連中のことだ、主の登場を待ちわびていることだろうよ。よかろう。ならば見せてやる。ここにいるのが、最強にして最凶、気高きヴァンパイア――」
ガチャ!
レ「――レミリア・スカーレットだぁっ!」
レ「………」
レ「………」
レ「…誰もいない…だと…」
レ「……いけない……ちょっと鼻水が出たわ……とんだサプライズだ……ん、サプライズ…そうか。サプライズか。私を驚かせるために幻想郷じゅうが徒党を組んだ…ふっ、なるほど面白い。よく考えたものだ。無数の妖怪が集まるはずのパーティーに、人っ子ひとりいないとは確かに驚いた。一本取られたよ。私の負けだ。私ひとりのためだけに幻想郷がひとつになるとは思いもしなかった。私がそこまで愛されているとはな。もういいから出て来いよ。いつまで隠れているつもりだ? パーティーが始められないだろう。早く出て来なさい。咲夜のディナーが冷めてしまうじゃない。さあ、マジで早く出て来て頂戴。ホント。冗談じゃなくて。え、何、パーティーしないの? やめる? やめんの? いいよ? 私はいいよ? 私はいいけど、あんたたちはいいの? ご馳走よ? マジすごい美味しいやつ。咲夜の。うん。いらないの? いらないんなら私が全部食べるけどいいの? いいんだね? 出てこないってことは、いいってことだかんね? あと3秒待ってあげる。3、2、1、ハイ終了ー。よっしゃ全部私のモンー。ゲッツ! ――なんてね☆…うん、え、ほんと誰も出てこない…の…?」
レ「………」
レ「…うん…」
レ「…参加者ゼロ…と」
レ「………」
レ「…一人だと屋敷が狭く感じるわね」
レ「…あれ…普通広く感じるんじゃ…」
レ「…とにかく咲夜に言わなきゃ。たくさんご馳走作って待ってるだろうから…」
すたすた
レ「咲夜ー、厨房にいるわよねー」
すたすた
レ「あれ、いない」
すたすた
レ「ん、これは手紙?」
ぴらっ
レ「なになに…」
「クリスマス女子会イン博麗神社に行ってきます。晩ごはんは大食堂に用意してあります」
レ「………」
レ「神道のくせにクリスマスとかぬかしてんじゃないわよ。だいたい女子会って言ったら私じゃん。呼べよ」
レ「…ってかむしろパーティー来いよ」
レ「………」
レ「…とりあえずごはん食べよ…」
すたすた
ギイッ
バタン
レ「………」
レ「…3人分しか用意されてない…」
レ「…あの子、バカだわ。2人しか来ないとでも思ったのかしら」
レ「…まあ、実際はゼロだったけど…」
レ「………」
レ「…そうだ。パチェ。パチェがいるじゃない。あれで我慢しとくかぁ」
すたすた
すたすた
すたすた
レ「パチェー…いるー? に決まってるか。何してるかしらね…こそーっと…」
ギギギ…
小「あのー、パチュリーさまー…」
パ「ん、なに?」
小「これを…」
パ「これは…髪飾り?」
小「はい。プレゼントです」
パ「プレゼント? どうして?」
小「え…もしかして忘れてますか?」
パ「何を?」
小「今日はクリスマスイブですよ」
パ「へぇ、そうだっけ」
小「はい!」
パ「まあ、だから何ってこともないわね。クリスチャンじゃないし」
小「ぶー。夢がないんだから…」
パ「なにも、むくれるほどでもないでしょ…」
小「むくれますー。せっかく咲夜さんに頼んでケーキも用意したのに」
パ「…へぇ」
小「せっかくシャンパンも用意したのに…」
パ「………」
小「せっかく…せっかく…ぐすっ…」
パ「わ…わかったわよ。祝えばいいんでしょ」
小「やった! いいんですか?」
パ「…急に元気になるわね」
小「それはもちろん、パチュリー様とのクリスマスイブですから!」
パ「…ふーん、そう…」
小「はいっ!」
パ「まあ…たまにはいいかもね…」
小「はい? 何かおっしゃいましたか?」
パ「い、いや別に…」
ギギギ…
…パタン…
レ「………」
レ「ってかさ…」
レ「私、パチェに手紙送ったよね? 送ったはずなんだけどなぁ…」
すたすた
レ「…今日のために準備した、このキュートなジャックオーランタンのかぶりものを、誰にも見せないわけにはいかない…」
すたすた
レ「しゃあない…フランだけにでも自慢しとこう…」
たたたたた…
レ「フラーン、見てこのかぶりもの、めっちゃかわいいでしょ、欲しいー? あげないよーwww」
レ「あら…」
レ「扉に掛札が…なになに…?」
「I'm 『out』 now」
レ「ええっと…今私はアウトです、と。なるほどね」
レ「………」
レ「ホンっトにアウトだよ、この馬鹿野郎ッ! 外出んなって言ってんだろボケナスがッ!」
ごっ!
レ「痛っ! うーわ金具のとこ殴った今! うーわめっちゃ痛いし! いぃったーい…!」
レ「いててて…」
レ「………」
レ「…まあ、一番イタイのは私、と…」
レ「………」
レ「…部屋に戻るか…」
とぼとぼ…
とぼとぼ…
ガチャ…
パタン…
ドサッ…
レ「ふぅー疲れた。ベッド最高…」
レ「あー…なんか散々だったなぁ…」
レ「あ、ってか、そうだ…」
レ「…クリスマス・イヴとかキリストじゃん。聖なるイベントじゃん。あっぶねー。祝うところだったよ。ヴァンパイアがクリスマス・イヴ祝うところだったわー。セーフ。よかったー。いやー、誰も来なくてほんっとよかったー。マジでパーティーの準備とかしちゃったよ、うっかり。あ、そっか。みんな来なかったのはそういうことかぁ。ヴァンパイアがイヴとか冗談だろ、みたいなね。それで来なかったのかー。みんなジョークだと思っちゃったわけね。ハイハイなるほどね。納得だわー」
レ「…ふぅ…」
レ「…そんなわけないって…あはははは…」




