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もっと東方寝巻巻。  作者: もっぷす
結晶アスタリスク
169/173

結晶アスタリスク *4

 魔理沙とハイタッチを交わすと西へ向かう。

 星さんを倒せて個人的には大満足ではあるが、いいことばかりではない。

 こちらが二対一ということは、残りは一対二になったわけで。星さんを撃破すると時を同じくして、一輪さんもまた討たれてしまった。

 敵ながら、星さんが見つかったことを察知する早さ、速やかに次の対応に移る決断力には感服する。


「相手どこだろ」


 敵の居場所がわからなくなった。

 先ほどまでの状況を考えると、端までは行ってないと思うが、もう中央付近にはいないだろう。


「油断するなよ」


 魔理沙はざくざくと音を立てながら歩みを進める。

 敵の作戦としては、こちらが通りそうな場所で待ち伏せするのが効果的だろう。もしかしたら今も、どこかから狙っているかもしれない。

 いくら忍び足でも雪を歩くと音は立ってしまう。ナズーリンは耳がよさそうだし、なかなかに不利だ。彼女の耳をごまかすのは骨が折れるだろう。

 居場所をつきとめるのですら難しいのに、待ち伏せしている相手に近づいて、雪玉を当てなければ勝ちはない。

 正直、待ち伏せが有効なのはこちらも同じだが、相手から仕掛けてくるとは思えない以上、我慢比べになってゲームが膠着し、ちょっと白けてしまう。


「何企んでるんだ。早く行くぜ」

「行くって、待ち伏せされてると思うけど」

「だろうな」


 だろうなって、と思いながら、魔理沙のあとをついていく。

 用心は怠っていないふうだが、どこか自信ありげに前へ歩く。


「私より三歩下がって来てくれ」


 何だろう。作戦があるんだ。

 黙って頷いた。

 先ほどよりも歩みは遅く。ときおり止まりすらする。それと、下?

 もしかして、足跡から辿ろうとしているのだろうか。

 もしそうならば。声を掛けようとすると魔理沙が手で制する。


 結局何も言わなかった。

 大丈夫だろうか。たぶん、それくらい敵も想定済みのはずだ。俺だって思いついた。

 でもやめた。格好の的だから。

 もう試合終盤だ。足跡なんてたくさんあるし、雪は白くて非常に見づらい。その上、どれが誰のかなんてほとんど分かったもんじゃない。足元に相当注意を向けなければ判別できないだろう。

 一方相手は待ち伏せのはずだ。こちらの姿を確認しやすく、今にも俺を、魔理沙を仕留めようとしている。

 不利なんてもんじゃない。そんな状況で雪玉を躱そうなんて不可能に近い。


「あ、おい! これってもしかすると……」


 転がる。

 パシャン。

 雪玉。


「見つけたんじゃないか?」


 魔理沙がいたずらっぽく、笑った。


 分かった。

 ようやく魔理沙の意図が分かった。

 魔理沙は足跡を追っていたし、足元ばっかりに集中していた。敵も待ち伏せしていたし、魔理沙は格好の的だった。

 魔理沙がやったのは、ただ避けたのだ。

 そういやいつも弾避けてるんだよなぁ。


「ナズーリンがそこ、聖がそっちだな」


 魔理沙が手近な木陰に走りながら、足跡を目で辿って指差す。

 俺も同じように、別の木の後ろへ身を隠す。

 全員、まあまあ近い。


 これで皆居場所が割れた。皆木の陰。平等で互角だ。

 俺の左に魔理沙、その正面がナズーリン、俺の正面が聖さん。

 位置はそれぞれきれいに正方形の頂点――とはいかず、ナズーリンが若干前にいる。ちょうど俺から三人が同じくらいの距離だろうか。

 囮の魔理沙を見守っていたときくらいの近さだ。


 魔理沙が魅せてくれたぶん、次は俺がやらないといけないだろう。

 何か考えよう。

 頭を使え。思い出せ。さっきのこと、朝のこと、いつものこと。使えそうなことは何でも。


 靴に雪入っちゃった、と口の中でつぶやくと、ナズーリンが鼻で笑う。みみざとい。


 よし、この作戦でいこう。

 ネズミは寒さに弱い。さっきだって、俺が魔理沙に近寄るのを待った方が避けにくかったはずだ。勝負をいている。その上、待ち伏せ作戦が不発に終わって焦っているに違いない。

 こっちは運動神経のよい魔理沙と、雪慣れしている俺。長期戦ならこちらに分はある。

 だから、短期決戦を持ちかければきっと敵は乗ってくると思っていた。

 当然警戒されるだろうが、今はお互い相手が目の前にいる対等な状況。ここからできるのはせいぜい小細工だけというものまた自明だ。だから、乗ってくるとほとんど確信していた。


「魔理沙、相打ち覚悟で勝負に出よう」


 魔理沙がどこか驚いたような表情を見せる。

 まあ、そうだろう。


「せーので、木陰から出てお互い正面の相手に投げる。でも静かにね」


 気持ち早口で伝える。

 怪訝そうな顔。

 彼女は口パクだけで、「聞こえてるぞ」と伝え、相手の方を顎で示す。

 小傘すこ事件でギリギリ聞こえる声の大きさを学んだが、俺から三人の距離は同じなのだ。


 でも構わない。俺はこくこくと二回頷くと、魔理沙の目を見返す。

 すると、魔理沙も同じように頷く。引くぐらい話が早い。

 向こうもナズが聖さんに目配せしているだろう。意図に気付かれる前に動く。

 ひと呼吸。


「せーのっ」


 飛び出す影。

 三つ。

 魔理沙はナズに、ナズは魔理沙に、俺は()()()、雪玉を投げた。


 ナズは目を丸くする。気づくのが遅すぎた。

 正面だけ警戒していたナズにあっけなく斜めからの雪玉が当たる。

 一方、ナズは魔理沙に見事命中。

 回避に専念するよう言っておけばと後悔する。


 二対()なんだから、焦る必要はなかったのだ。

 だって、聖さんは出てこない。俺の合図は魔理沙とナズーリンにしか聞こえてないから。

 朝の光景をはっきり覚えている。


 ――聖さんはかわいい耳あてをしているんだから!


 試合の動きに気づいた聖さんが雪玉を投げるが、俺はもう木陰。


「やられたよ。ナズーリン、ヒットだ」

「あーあ、当てるのに集中しすぎたぜ」


 ナズは仕留めたが、本当は魔理沙が敵弾を躱して二対一にしたかった。

 角度的に相手に当てやすい、木の左側から身を出したのがマズかった。右手で投げるために大きく木陰から出ることになってしまった。

 相打ち覚悟と俺が言ったことを後悔する。もっと上手い言い回しがあったのではないか。

 しかし、勝機は充分ある。魔法を使っていない聖さんの身体能力は普通の人間だ。


 たぶん、聖さんは何が起きたのかわからず、混乱しているはず。

 動揺しているうちに決着をつけよう。

 足音が立たないように、そっと木陰を離れる。

 相手は待ち伏せしていたのだ、おそらく雪玉のストックもあるだろう。

 攻め入るなら不利。

 だからチャンスは一回きり。一度で当てれば関係ない。


 視線を感じる。聖さんだけじゃない。

 他のみんなも見ているんだ。緊張する。いけるかな。

 一度きり。一回きり。失敗すれば負ける。


 深く息を吸い込む。冬のよく澄んだ空気が肺を冷ます。

 雪玉二つを掴む。短く息を吐く。


 地面を蹴り、木陰を大きく離れる。

 雪玉が来る。

 速くはない。

 体を右にひねり、躱す。

 減速せず、突っ込む。


 次の玉。

 右足で強く踏み切り左に跳ぶ。

 今度はこちら。

 そのまま左腕を振るう。


 力ない玉が聖さんの足元へ。

 一歩後ろへ。

 簡単に避ける。


 それでいい。

 左足に全体重を乗せ、本命である渾身の右腕を振るった。

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