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もっと東方寝巻巻。  作者: もっぷす
結晶アスタリスク
167/173

結晶アスタリスク *2

 そうきたか。


 隠れもしない魔法使いの姿を認め、読みが外れたことを悟る。

 待ちなのか、陽動なのか、そこまでは分からない。

 敵のブレーンの性格からして、攻め込むよりも迎撃に利を見出した可能は充分あるだろう。

 あるいは、無い知恵を絞って陳腐な囮を設け、策を練ったつもりになっているのかもしれない。

 ただひとつ間違いないのは、彼にしては早く決断を下したこと。

 だから読み違えた。作戦なんか必要ないと急かされる彼の姿を脳裏に浮かべてしまった。突撃あるのみと向こう見ずな連中の幻を追ってしまった。


「挟み撃ちにしよう」

 後ろの四人の視線が集まる。

 こちらの作戦は、敵が先手を取り攻め入って来ると読んだもの。フィールドの北端ぎりぎりを通って、相手の側面を取ることで各個撃破を目指し、あわよくば背後に回り込もうとしたのだ。

「ご主人様は気付かれないよう来た道の方、西に迂回しつつ南に回ってください。残りのメンバーで魔理沙を南に追い込みます。ただ、被弾しないことを最優先で」

 寅丸星はわずかに考えたのち、神妙に頷く。


 彼女の背を見送り、残り三人、聖、ぬえ、小傘に委細を伝える。

「魔理沙を陽動に使ったらしい。木の陰が多いからね。彼女に投げられる雪玉から、隠れている敵の位置を知ろうってことだろう」

 隠れている方と隠れていない方、当然有利なのは隠れている方だ。そのハンデを負って躱しきれる自信があるということか。

 リスクの大きい作戦ではあるが、放っておけば無謀に突っ込みそうな連中だ。何であれ戦略を練るのはそう悪い案でもないのかもしれない。


 ともかく。

「雪玉をたくさん用意する。ここに皆いると思わせたい。手数で押して、敵を南へ追いやるんだ。我々のいる北に注意を引きつけられるし、位置的にもご主人様から当てやすくなる」

 しゃがみ込み、雪玉を丸めながら小声で説明を続ける。

「ただ、我々の居場所は割れるから時間は掛けられない。魔理沙に当たるか、私が合図したらここを離れる」

 二人の目を見て、間違いのないよう、はっきりと伝える。

 ぬえと聖はどこか楽しそうな顔でこくこくと頷き、小傘は至極真剣な顔で雪を丸く固めていた。


「頼むぞ」




   * * *




「船長は好き勝手動いていいよ」


 言われた通り、試合開始から自由に動きはじめて数分、ようやく相手が魔理沙さんを狙い始めました。

 様子見のためかずいぶん動きがなくて、ちょうどしびれを切らしそうだったところです。

 どうやら投げられる雪玉の数から察するに、敵は皆固まって集中攻撃をしているご様子。

 相手は一箇所に集まった方がやりやすいのかしら。私は一人の方が動きやすいんですけど。


 そんなに投げたら居場所がバレバレだよ、とにんまりする心を抑え、足音が立たないよう早足に雪玉の出どころである北へ向かいます。

 たぶん、他の味方も北へ走っていることでしょう。一輪は東の方にいたので、開始からすぐに西の方へ来た私とは、魔理沙さんを間に挟むような位置関係になっているはずです。

 東西で相手を挟み撃ちできそうで、やはりチーム分けで戦力が偏りすぎたかなと、苦笑いしてしまいます。


 じゃくじゃくという足音はどこか涼やかで新鮮でしたけれども、積もっていた雪は歩きにくく、思ったよりも移動に時間が掛かることがわかりました。

 玉が当たったときは自己申告。その声が聞こえないということは、魔理沙さんは持ち前の身軽さをもって敵の雪玉を躱し続けているようです。

 一方相手の攻撃はというと、先ほどよりも手数は減っている模様。もう疲れてしまったのでしょうか。


 もう敵さんが見えてくるでしょうというとき、木の陰からびゅっと人が飛び出すのが見えました。

「しめた!」

 持っていた雪玉を投げます。

「ひぃ〜」

 人影は身をよじり、間一髪雪玉を避けました。が、そう長くは持たないでしょう。いえ、持たせてなるものか!


 背後を取られたら困るから先に敵の仲間を確認。と思ったら。

「あれ、誰もいない」

 もぬけの殻。

 一人ってことはないでしょう。もう逃げた?

 反対側に逃げたのかもしれない。


 まずは目先。

 閉じられた紫色の傘と、はためく真っ赤なマフラーを身に着けた彼女の後を追います。

 あとはおにごっこ。

 雨でもなければ小傘には負けないかな。

 荷物の差なのかじりじりと間隔は詰まっていきます。

 小傘もなかなか粘りますが、雪の深い方へ逃げてしまったがために徐々にペースが落ちてきました。


 唐突に、彼女はパッと大きな木の後ろに隠れます。

 逃げ切れないと判断し、いっそ撃ち合おうというのかもしれません。

 そっちがそのつもりなら受けて立ちましょう。

 いつでも投げられる体勢で慎重に射程圏内まで近づきます。


 小傘はひょこっと顔を出し、目だけで一瞬ぱちくりと覗いて、またひょっこり木の陰に戻ります。

 ああ、こういうのが彼のツボなんだろうな、なんて益体もないことが浮かびます。

 もう一歩。

 あとは横にずれて角度をつけるだけ。

「小傘ー、観念しなー」

 勝利の予感に口角が上がるその瞬間。


「えいっ」


 どさり、雪が落ちる。

 彼女の上に。

 小傘を覆うくらいの雪山ができた。


 木を蹴った。どうして?

 血迷った? 悪あがき?

 私に雪を掛けるには遠かった。

 結局、自分に雪の塊が降った。

 やっぱり悪あがき。

 粉のように舞い上がった雪を払うと、仕方ないから助けてあげようかなんて雪の小山に近づく。

 とどめを刺してからだけど。


 ぽすっ。


「え?」


 雪玉。

 当たった。

 当てられた。

 下を見ると確かに雪が付いている。

 前を見る。

 蓋を取るように雪山がかぱっと開く。


 最後に見たのは、()()()()傘を()()、いたずらっぽく片目をつぶって去っていく小傘の後ろ姿でした。

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