A Moonlit Night
妹「見た?」
『あ、妹紅いらっしゃい。何を見たって?』
妹「こっちこっち」
『え、なになに』
妹「はい」
『おー』
妹「どう?」
『綺麗な月だ』
妹「でしょ」
『風流だね』
妹「ちょっとお月見しない?」
『いいよ。うち縁側ないけど、どこでしようか』
妹「外はどう? 寒いかな」
『肌寒いと思うよ。でもちょっとやってみよっか』
妹「いいね」
『したっけちょっと待ってて。準備するから』
妹「うん」
『ブルーシートと座布団と毛布でいいかな』
妹「座布団って居間の?」
『あ、ごめん。ありがとう』
妹「どこにする?」
『家のすぐ横でいいよね』
妹「いいよ。ん、このへん平ら」
『はい、変態ですけど』
妹「この変態ら、じゃなくて」
『平らだからここに敷こうってことね』
妹「あ、少し風あるけど、ひとりで敷ける?」
『まあまあ、お任せあれ』
妹「ああ、角に石置くんだ。かしこい」
『はい、座布団置いていいよ』
妹「はいよ」
『毛布持ってくるから先始めてていいよ』
妹「あはは、先に始めるって言ってもねえ」
『まあまあ』
妹「手伝う?」
『え、何を?』
妹「お、早いね」
『月が逃げちゃうからね』
妹「千年以上あそこだよ」
『夜だけ夜だけ』
妹「どこ行くの?」
『お酒持ってくるよ』
妹「ふふ」
『もこー』
妹「行く行く」
『あ、いや常温でいいか聞きたかっただけなんだけど』
妹「いいよ。逃げちゃうから」
『月が?』
妹「夜が」
『なるほど』
妹「行こ」
『あれ、お猪口』
妹「持ったって」
『あ、ありがとう』
妹「きれいだね」
『ね』
妹「隠れないうちに、じゃあ」
『少し雲あるもんね』
妹「はい、座って座って」
『まって。徳利倒れそうだな』
妹「お盆に載せても?」
『うん、倒れそうというか、倒しそう』
妹「あー、少し遠くに置こっか」
『そうだね。こっち置くよ』
妹「ありがとう。じゃあ」
『はい』
妹「はい」
『うん』
妹「うん。はい」
『いいよ』
妹「え、まって。私が言うの?」
『あ、俺が言うの?』
妹「はい、じゃあ」
『カンパーイ』
妹「かんぱーい」
『うん、綺麗な月だ』
妹「月見てる?」
『え、普段見てるかってこと?』
妹「うん」
『いつもはあんまり見てないかな』
妹「何見てる?」
『えっ、えー、何見てるんだろ』
妹「人?」
『うーん、人よりはマンガとかゲームとかかな』
妹「そうなんだ」
『なんで?』
妹「ううん」
『ううん、って』
妹「ねぇ、楽しい?」
『え、楽しい、というのは?』
妹「うーん、こっち来てからって言うのかな」
『楽しいよ。楽しい。ん、前も言わなかったっけ?』
妹「そうだっけ。ごめんごめん」
『違ったっけ。なんかこんな、月の出てるときに、あれ?』
妹「おわび。はい」
『あ、ごめん。ありがとう。おっとと』
妹「ちょっと、お酒飲めるようになったね」
『ちょっとだけね』
妹「笑うことも増えたよ」
『そう、なのかな』
妹「うん」
『あ、妹紅もお酒』
妹「ありがと」
『なんか恥ずかしいな』
妹「どうして?」
『いやあ、なんか。なんか今日は、変わったこと訊くね』
妹「あはは」
『俺も変わったこと訊こうかな』
妹「ふふ、いいよ」
『あー、なんにしよ』
妹「何にする?」
『じゃあ、妹紅の、あー、いや』
妹「なになに」
『妹紅は月、よく見るの?』
妹「ん、よく見るよ。毎日かな」
『どうして?』
妹「どうして、かぁ。生きてるからかな」
『生きてるから、とは大きく出ましたな』
妹「ん」
『え、何がおかしいの?』
妹「あはは。いい月夜だね」
『んー、なんかアレだな。何か。寂しいな』
妹「寂しい?」
『なんでかはわからないけど。妹紅が変なこと言うからかな』
妹「ごめんごめん」
『何かあるの?』
妹「うーん、結構顔に出やすいね」
『妹紅が?』
妹「貴方が」
『俺? なんか変な顔してた?』
妹「疲れてる顔」
『疲れてる? のかなぁ?』
妹「いろいろなことがあって、疲れてるのよ」
『うーん、けっこう楽しんでると思うけどな』
妹「そっか。よかった」
『うん、妹紅もありがとう。毎日にぎやかで楽しいよ』
妹「それ、私のおかげ?」
『そりゃ、妹紅だけじゃないけどさ。でも妹紅に会ってなかったら、もっとつまんなかったのは間違いないね』
妹「ん」
『ん、お酒ね。ありがとう』
妹「はい」
『妹紅も。あ、あとちょっとしかない』
妹「いいよ」
『あ、でも全部は入らないわ』
妹「貸して」
『え、はい』
妹「ん」
『あっ、注いであげるから早く杯空けろってこと?』
妹「はやく」
『なに、妹紅、さっきの照れてんの?』
妹「照れてるから。はやく」
『うむむ。最高かよ。っしょ、っと』
妹「はい、最後」
『ありがとう』
妹「はぁ。風、すずしいね」
『だねぇ。思ったより暖かかったね』
妹「お酒も飲んでるし」
『それもあるね』
妹「ふぅ」
『あー、なんか妹紅の言ったとおりかも』
妹「なにが?」
『ちょっと疲れてるかも。前はずっと一人だったから。急に知り合いが増えて』
妹「うん」
『そりゃそうかー。平気なつもりだったけど』
妹「ふふ、なんかしてあげよっか?」
『なんかねぇ』
妹「肩もみとか、肩たたきとか、肩パンとか」
『あーあーあー、いや、あー、うーん』
妹「なに?」
『ひざまくら、してほしい』
妹「あー、なるほどね」
『怒ってます?』
妹「怒んないよ。どうしようかな、って」
『いや、ごめん。思いついただけだから』
妹「酔ってる?」
『まあまあね』
妹「明日覚えてる?」
『どうかな。覚えてるかもしれないし、記憶にないかもしれない』
妹「そっか。まあ、どっちでもいいや」




