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もっと東方寝巻巻。  作者: もっぷす
第5回
129/173

孤独の矜持に縋ること能わぬ少女のための

天「出掛けてあげてもいいけど?」


『…はい?』


天「一緒に出掛けてあげてもいいけど?」


『いや、いいよ』


天「はぁ?」


『別に出掛ける用事ないし』


天「あんたに拒否権があると思ってんの?」


『あー、今週末あたりおでん食べたいわぁ』


天「人の話聞きなさいよ」


『大根、卵、巾着、がんも』


天「聞いて!」


『なに?』


天「どこか行きたいところがあるなら、付き合ってあげるけど?」


『だから、無いよ、別に』


天「あるでしょ、少しくらい」


『強いて言えば、てんこちゃんのいない部屋』


天「そういうんじゃなくって!」


『なにさ、てんこちゃん元気だね』


天「暇なのよ。付き合いなさい、しもべとして」


『衣玖さんもいるなら行く』


天「いないけど」


『じゃあ申し訳ないけど』


天「なんでよ!」


『いや、だって』


天「あっ、もしかして、遠慮してる?」


『まあ』


天「別に自分がブサイクだからって、そんなに悩まなくていいのよ?」


『うんそうだねありがとう』


天「確かに、かわいい私と釣り合わないけど、今回は私が許可してあげるし」


『いや、どっか別のイケメンと行きなよ』


天「普通ならそうするところを、特別に、あんたと出掛けてあげるって言ってるの」


『なんで?』


天「暇だから」


『どうしてイケメンと行かないの?』


天「イケメンと出掛けるのは飽きたし」


『飽きたのか』


天「たまにはあんたみたいな残念系男子にも付き合ってあげようかな、みたいな?」


『ああ、お気持ちだけで十分です』


天「遠慮はいらないわ。どこ行く?」


『いやもうホント畏れ多いんで』


天「いいからいいから。どこがいい?」


『ホントマジめんどいんで』


天「そんなこと言って、本当は出掛けたいんでしょ」


『いや、今日はマンガ読むから』


天「またまたぁ。出掛けたい顔してるし」


『してないよ。あ、その四巻取って』


天「えー、どうしよっかな」


『あ、じゃあいっす』


天「ちょ、取る取る」


『あ、じゃあお願い』


天「ただし条件があります」


『やっぱいいわ』


天「いや聞くだけ聞いて聞くだけ」


『いや、もういいよ自分で取る』


天「ダメ、ちょ、ガード!」


『ちょっとどけて』


天「ここのマンガを取りたければ、これから出す試練に…」


『はいはい邪魔邪魔』


天「試練にクリアしたら取れるの!」


『ほら本棚の前からどけて』


天「汝に与えられし試練とは…」


『隙あり!』


天「よっ、残念。これぞ絶壁のガード!」


『鉄壁ね』


天「試練とは、この家を出て、お出掛けすることであ…」


『隙あり!』


天「ちょっ、やめなさいよ、脇んとこの隙間狙うの」


『逆が空いた!』


天「いや、ちょ、きゃふふっ。はい防御ー」


『ようし、今度は右!』


天「秘技、高速ハンドバリアー!」


『ならばこちらは、その腕が上がってから下がるまでの刹那を突くッ!』


天「ふふっ、無理無理」


『ゆくぞっ…』


天「だから無理だってぇ」


『ここだ! あぶし!』


天「ちょっ、あっはは、ミスってんじゃん!」


『あははは』


天「ふふ…」


『あはははははははははは』


天「ふふふふふふ…」


『あはははははははははは!』


天「あはははははははははは!」



『あー、くだらない! クソくらえだ!』



天「えっ、ちょ、えっ!?」


『何だこのゴミみたいなやりとり』


天「え、いや、あんただって楽しそうだったじゃん」


『本当あれだね、ゴミだね、ゴミ茶番』


天「はあ?」


『全っ然面白くもないし、何なんだろうね』


天「普通に二人でふざけてただけじゃん」


『別にかわいくもないし、微笑ましくもないし』


天「いや、あんたはかわいくないけど、私はかわいいし」


『もうこういう日常もどき茶番劇はやめようか』


天「はぁ? じゃあガチ異変でも起こすわけ?」


『そうじゃなくて、あ、でも女の子にボコボコにされるならちょっと…』


天「で、話は戻るけど、どこ行く?」


『そんな話は一回もしてない』


天「したし。出掛けるって」


『ああ、てんこちゃんがね』


天「と、あんたね」


『俺はマンガ読むって言った』


天「でもやっぱやめて、私と出掛けるって言った」


『言ってなすびー』


天「言ったまねぎー」


『にんじんー』


天「じゃがいもー」


『もずくー』


天「くるみー」


『みかんー』


天「はい、負けー。ざまー」


『うわー負けたー』





『次回もお楽しみに!』





天「勝手に終わらないでよ!」


『こんなことしてても時間の無駄じゃない?』


天「わかってるなら早く準備してよ」


『いや、俺はぐだぐだ言い続けるよ』


天「なんでよ。時間の無駄でしょ」


『うん。俺は時間の無駄でもいいもん』


天「よくないじゃん。私より人生短いんだからね?」


『あー…』


天「あんたの方が損してるから」


『たしかに』


天「だからほら、早く行くわよ」


『でもやだ』


天「なんでよ!」


『外に出たくない』


天「どうして?」


『めんどい』


天「面倒じゃないわよ」


『あと、女の子と出掛けるのキツい』


天「はぁ?」


『苦手なの』


天「ま、いいわ。とりあえず出掛けるわよ」


『だから出掛けないんだってば』


天「だーかーらー、この天子様が付き合ってあげるって言ってんのよ?」


『知ってるよ。聞いた上で断ってんの』


天「だから断るとかじゃなくて、出掛けるから付き合ってって言ってんの」


『だからいやだって言ってんの』


天「そうじゃなくて、だから、ああもう。い、一回しか言わないから、ちゃんと聞きなさいよ?」


『何さ?』


天「だっ、だから…」


『だから?』


天「だから、そのー、私が、あ、あんたと…」


『うん』


天「あんたと、で、デ、デ…、デー…、っデ…」


『デ?』



天「デっ…出掛けてあげるって言ってんの!」



『聞いたって、だからそれ』


天「っ違…デっ、デー…かけてあげるって、だからデっ…」


『何? 出掛けるは65535回聞いたよ』


天「そんなカンストするほど言ってない!」


『だいたい、デーかけてあげるって何?』


天「それは…出掛けるを天界ではそう言うの!」


『ふーん』


天「…なによ?」


『………』


天「なんで急に黙るのよ」


『飽きた』


天「じゃあ、出掛けてくれる?」


『…なんでだよ…』


天「ざーんねん。じゃあ、一人でデーをかけてくるわ」


『…どうぞ…』


天「いや、ウソウソ。ついてきていいわよ」


『行かないよ』


天「やだ。一緒に行こ?」


『ぶりっこしても行かない』


天「やだ。行かないとベッドの上で紙とか敷かないでミルフィーユ食べる」


『おどしても行かない』


天「なんでよ。別にいいでしょ。おごらなくていいし」


『あ、おごらなくていいんだ。でもめんどい』


天「行かないの?」


『行かないね』


天「他の人が誘っても?」


『うーん、相手によるかな』


天「私は?」


『行かない』


天「…そっか」


『うん』


天「あのさ…」


『何?』


天「そんなに、私と出掛けるの、嫌?」


『まあね』


天「…だよね」


『………』


天「うん、そっか。なんか、ごめん」


『え、あ、いや、てんこちゃんがいやなんじゃなくて、あの、今日は家でくつろぐ予定だったから、えっと…』


天「別にこの際だから言っていいわよ? あんたも私が嫌いだって」


『いや、嫌いじゃないよ。嫌いじゃない』


天「それにしては、本気で嫌がるじゃない?」


『本気で嫌なわけじゃないんだ。ごめん。言い過ぎた』


天「…なんか私も変な空気にしてごめん」


『いや、邪険にし過ぎたね。本当ごめん』


天「私はただ、本気で嫌ならあんまり言っても仕方ないと思っただけだから」


『本気で嫌ではないよ。本当に』


天「ま、嫌いじゃないって聞けただけでも良しとするわ」


『うん、そうして』


天「あ、言っておくけど」


『なに?』


天「私ね、貴方のこと」


『うん』


天「好き」


『………』


天「ではないけど、普通に相手してくれるのは感謝してやらないこともない」


『…どうしたの?』


天「まあ、あんたみたいなダメ男でもギリギリ私の役に立ててるってことよ」


『そう。それはよかった』


天「あと、私、嫌いって言われたらたぶん泣いてた」


『………』


天「なんてね」


『…はは』


天「さて、邪魔したわね。帰るわ」


『…待った』


天「…ん?」


『あー…まあ、なんていうかさ…』


天「なに?」


『出掛けよう』


天「え?」


『出掛けよう。どっか行こう』


天「別に、無理しなくていいわよ」


『行ってあげるじゃなくて、行こうって言ったの』


天「天子様、行ってくださいじゃないの?」


『行こう、天子ちゃん』


天「…ふーん。いいじゃない、そういうの」


『行きたいところとかある?』


天「うん」


『どこ?』


天「お団子屋さん」


『あ、俺もう行ったわ』


天「え、誰と?」


『一人で』


天「ならいいじゃん。行こ」


『何がいいのかわかんないけど』


天「お団子、お団子」


『団子好きなんだね』


天「普通かな」


『普通かよ』


天「じゃ、行くわよ」


『へいへい』


天「カバン持って」


『持ってないじゃん』


天「車道側歩いて」


『車道ないじゃん』


天「手」


『手はあるわ』


天「それは知ってる」


『じゃあ何さ』


天「ん」


『何、その手』


天「これからデーをかけるんでしょ?」


『そうだけど』


天「だから、手」


『手って言われても』


天「ああもう。見ればわかるでしょ」


『見るって…あ、てんこちゃん』


天「わかった?」


『てんこちゃんの手ってさ』


天「な、なによ」


『てんこちゃんの手…』


天「な、なに…」




『生命線、長っ!』




天「あんたほんと…」

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