くず餅「だれがクズやねん」
魔「えるしってるか」
『えるたそー』
魔「最近よく仙人が来るんだぜ」
『えっ、仙人って娘々?』
魔「いや、あのエロいほうじゃなくて別のエロい方だ」
『エロいんだ…』
魔「神社によく来ては霊夢に説教たれてる」
『ふうん。まあ、霊夢は変わり者だからねぇ』
魔「おまえが言うか」
『俺割と普通だよ』
魔「ドMだろ」
『いや、違うって』
魔「とにかくそいつがなかなかしつこくてな」
『ふうん。仙人ってやっぱ、なっがーい髭たくわえた超老齢のおじいさん?』
魔「いや、見た目は妙齢の女だが」
『へえ。あ、くず餅おかわりする?』
魔「もういらん。三回おかわりしたぜ」
『いやね、分量間違えてめっちゃできちゃって』
魔「自業自得だろ」
『そうだけど、日持ちしないしさ』
魔「そんなのどうでもいいんだよ」
『よくないんだけどな。あと三ガロンくらいあるし…』
魔「で、その仙人が、たしか山の方に住んでるとか」
『そうなんだ』
魔「髪がピンクで、頭と胸に肉まんつけてる」
『そんな巨乳を』
魔「私は憎まん」
『上手い、座布団一枚』
魔「で、修行とかしてるらしい。見たことはないが」
『ふうん。スポ根?』
魔「見たことないっての。ただ、すごい食べるぜ」
『霞を?』
魔「いや。甘いものだ」
『仙人って霞食べるんとちゃいますのん?』
魔「まだ修行中だからだろうな」
『ふうん。ま、どっちでもいいけど』
魔「おまえはもっと話に食いつけ」
『肉まんの話にゃ胸焼けしちゃうなぁ』
魔「貧乳好きめ」
『そうきたか』
魔「で、そのピチピチの美少女系仙人が」
『ピチピチって古くね?』
魔「おまえのことが気になるそうだ」
『え、目障りだからシめるってこと?』
魔「いや、もっとこう、なんというか色恋的な意味で」
『胸キュンってこと?』
魔「それも古いだろ」
『ってか、会ったこともないのに』
魔「会いに行くか?」
『いつ?』
魔「今」
『え、いいよ。めんどうだし』
魔「………」
『え、なに?』
魔「おまえはもっとこのテの話に食いつくべきだ」
『外出の話?』
魔「色恋とかオンナの話」
『ええ、いや、無縁だしなぁ』
魔「そんなだからおじいちゃんとか言われてるんだぜ」
『え、やっぱり?』
魔「自覚はあるのか」
『うん』
魔「まあ、途中からは嘘だ」
『どこからウソ?』
魔「おまえが好きってとこ」
『そんなこと言ったっけ?』
魔「なんだよ、私の話聞いてなかったのか」
『聞いてたよ。女性の仙人ってのは本当なの?』
魔「ああ。あと肉まんもな」
『わかった。覚えておくよ。ってか名前は?』
魔「名前か。たしか、華扇だったかな」
『華扇さんね。仙人の』
魔「で、少しは興味湧いたか?」
『うん、いや、もともと魔理沙の話を聞いてないわけではないよ』
魔「本当か?」
『うん。ただ、仙人って俺とは程遠いから』
魔「なんか最近話を流されてるような気がしてな」
『興味なきゃ食いつかないけど、話自体は聞いてるよ』
魔「ならいいが」
『それで、華扇さんがどうかしたの?』
魔「いや、おまえが話聞いてるか確かめただけだ」
『あ、そうなんだ』
魔「さすがにあんなねちっこい説教、おまえでも聞きたくないだろう」
『ふうん。ねちっこいのね』
魔「まあな。嫌がらせみたいなもんだ」
『いや、説教は別にさでずむではないかと』
魔「嫌なものは嫌だろ」
『まあ、そうかもしれないけど』
魔「じゃ、そろそろ私は帰るぜ」
『えっ、早っ』
魔「帰るっていうか、霊夢のとこに行くんだよ」
『なんかあんの?』
魔「おまえの悪口大会」
『ふうん。ひどいね』
魔「じゃあ、またな」
『この発言後に、またなって言える神経がすごい』
バタン
『………』
スタスタ
『ちょっと会ってみようかな』
バタン
………………
『………』
スタスタ
『…どこだよ…山の方って…』
スタスタ
『やっぱ無謀かな…』
華「そこの方、こんな山の中をどこへ行かれるのです」
『あ、ピンク…』
華「はい?」
『あ、いえ、山の方に』
華「守矢神社へ参拝というわけですか」
『いえ、このへんに仙人が出るって聞きまして』
華「動物か幽霊みたいな言い方…」
『もしや、あなたがその仙人の方ですか』
華「ええ、おそらく。行者の茨華仙です」
『おそらくということは、他にも仙人はいるんですか』
華「この辺りだと尸解仙や邪仙などが少々」
『その中でピンクの髪をした人っていますか?』
華「さあ、私は自分くらいしか心当たりはありませんね」
『なるほど。それではあなたが華扇さんというわけですね』
華「…さっき名乗りました」
『え、あ、わ、ホントだ』
華「あなたは注意力が足りないようですね」
『う、そのようですね』
華「あまり人の話を聞いていないと嫌われますよ」
『…はい』
華「ときに、あなたは私に用件があって来られたのですか」
『えっ、ええ、あー、まあ…』
華「何でしょう」
『…考えてなかった…』
華「はい?」
『え、あーっと、なんでも博麗神社の方で説教をされているとか?』
華「…どこからの情報ですか?」
『霧雨魔理沙という魔法使いの少女です』
華「ああ、知り合いなんですね。ええ。あの巫女は少々気が抜けてますからね」
『どんなふうにお話しになるんですか?』
華「は?」
『え、いや、えっと、どんな感じで説教をされるのかなぁ、と…』
華「…よくわからないのですが」
『いや、えっと、俺も仙人に興味がありまして、その、モノホンの方の説教ってどんなかなって…はは…』
華「…あなた、本当に仙人に興味あります?」
『嘘です』
ガシッ
グググググ…
『あだだだだだ…アンクルホールドはらめぇえええ!』
パッ
ドサッ
華「すみません、つい」
『いてて、もう、気持ちい…痛いじゃないですか!』
華「軽くイラッときまして」
『それは申し訳ないとは思いますけど』
華「それでは、本当の目的はなんですか」
『いえ、ただ一度お目にかかりたいな、と』
華「なるほど。彼女から話を聞いての野次馬と」
『そういうことになりますね』
華「くだらないわね。そんなことするくらいなら、もっとすべきことがあるのではないですか」
『といいますと?』
華「………」
『………』
華「…まあ、それは知りませんが」
『…天然か…』
華「こほん。とにかく、用事は済んだのでしょう」
『まあ、いちおうは』
華「他にも何かあるんですか?」
『いえ、もう少しお聞きしたいことが』
華「なんでしょう」
『その…、ひとつお訊きしたいのですが、もしやその頭の…』
華「!?」
『…いえ、何でもないです』
華「な、何なんですか、言いたいことは言ってください」
『え、でも…』
華「いいから言ってください」
『間違ってたら恥ずかしいですし…』
華「やはり…あなた、何か気づきましたね」
『気付いたというか何というか』
華「何ですか。別に取って食ったりはしませんから」
『そ、それじゃあ…その頭についてるふたつの…』
華「ツノ!? な、何を言ってるんですか?」
『え、え、何ですか?』
華「あなた、何が見えてるんですか?」
『え、いや、別に普通に見えてますよ』
華「普通に見えてる!? そんなバカな!」
『え、いや、どうしたんですか?』
華「ちょっ、鏡、鏡、鏡持ってませんか」
『え、いや、持ち歩いていないので』
華「え、私、見えてるんですか」
『え、な、何ですか』
華「普通に見えちゃってるんですよね」
『え、何か普通に見えちゃまずいんですかね』
華「あ、いや、よく考えればこいつには関係ないか」
『聞こえてますよ』
華「いえ、まあ、なんでもありません」
『そうなんですか。結構取り乱してましたけど』
華「ええ、なんでもありません。ですが今見たことは全て忘れなさい」
『何でもなくないですね』
華「忘れますね?」
『何をですか?』
華「とぼけないでください。貴方は秘密ひとつ守れないのか、と聞いているのです」
『ま、守ります。絶対に言いません。でも何のことを?』
華「これです、これ」
『その髪飾りがどうかしました?』
華「髪飾りではなく、その下です」
『耳ですか?』
華「いやそういう下じゃなくて、髪飾りに隠れてる部分という意味で」
『髪飾りの下に何か隠れてるんですか?』
華「…さっきからその話をしていたでしょう」
『え、そうでしたっけ?』
華「ああもう。じゃああなたは何の話をしているつもりだったというのです」
『その髪飾りのことって何ていうんでしたっけ、と』
華「これならツ…シニョンですけど」
『ああ、そうそう! プニョンペンかと思った…』
華「そんな、カンボジアの首都みたいな…」
『これですっきりしました』
華「はあ。え、それじゃあまさか」
『なんですか?』
華「あなた、このシニョンの下については何も気づいてない、と?」
『え、シニョンの下…耳ですか?』
華「いや、その下じゃなく…」
『じゃあなんですか?』
華「いえ、べつに」
『そうですか?』
華「それではまた機会があればお会いしましょう」
『あ、待ってください』
華「…まだ何か?」
『ええと、少しお願いが』
華「…何ですか?」
『あの、その、ちょっとうちに来ませんか?』
華「はぁ? まさか弱みを握ったと思って淫らな行為を…」
『いやいや、その、なんというか…』
華「なんですか」
『あの…えと…食べて…ほしいんです』
華「ほらやっぱり!」
『えっ』
華「エッチ! 変態! 色魔! 積極打法!」
『…はい?』
華「そういう…ゴニョゴニョなことしてもらいたくなったのではありませんか」
『…どういう?』
華「それにしても、食べてほしいとは、なんて軟弱な」
『…いや、あの…』
華「男なら、俺がいいことしてやるぜグヘヘとかあるでしょう」
『…え、ちょ…』
華「連れ込むならせめてリードするものではありませんか」
『…それはどういう…』
華「まったく腰が引けていて情けないったらない」
『…その…もしもーし…』
華「まったく最近の若い男はこんなだから…」
『…食べてほしいのは、くず餅…』
華「…え?」
『くず餅を食べてほしいんですけど…』
華「………」
『………』
華「………」
『………』
華「…い、いっ、いっ…」
『…い?』
華「………」
『………』
華「いただきますっ!!!」
『…華扇ちゃん…』




