メインクエスト『難破船の探索!』
この作品はフィクションです。実在の人物、団体、某狩ゲーなどにはいっさい関係ありません。
結局、昨日は(安全な)拠点を見つけれず、不寝番をする羽目になった零次は、眠い眼をこすりながら朝食の支度にかかる。
今朝の朝食は、昨日の蟹肉の残りをビニール袋から取り出し、蟹殻の上に乗っけてさっと焼く。それとヤシの実のジュース&殻の中についてる乳白色の胚乳をデザート代わりに削って食べる。
「不味くは無いが、いや、むしろ時間が経ってる分味が落ちてるが、それでも美味い。だけど、蟹肉からみなぎる感がなくなったな」
零次は蟹肉を右眼で視ると、ほとんど見られないほど色が薄まっている。
「よし、整理しよう。まず、右眼で視える色は魔力(仮称)と見て、おおむね間違ってないと思う。そんで、この辺りの動植物にそれが含まれている。それは、殺して、もしくは採ってから時間経過で失われていく。魔力の効用は、今のところ疲れにくくなったくらいか? いや、まてよ。ヤシのジュースはそこまで劣化しなかったな。植物だと、採った瞬間に死んでるわけじゃないからか? 死ぬと蓄えられた魔力が失われるという説を補強できるか……今のところ、魔力を摂取してもデメリットは見当たらない、どの道食べなければ死ぬし。ならば疲れにくいという恩恵を得るために、獲物はすぐに食べれそうな色の濃い部分を積極的に食べる。方針としてはこんなもんかな」
零次は声に出して今まで分かった事を整理していく。思いつきでも良いので、どんどん声を出して耳からもう一度頭に入れる。その中に、新たな気付きがないかを確かめる、それに伴い奇妙なことに気付いた。
昨日から超大型生物を避けて進めば進むほど、色が薄く視える気がする。実際に、遠視モードの右眼で来た道を振り返ると、確かに遥か彼方は目に見えて濃くこっちは薄い。
よく分からないものを信用しすぎるのも問題だが、(勘だけど)因果関係として間違ってないと思うのも確かだ。
つまるところ、ここはお約束の異世界で、お約束の魔力があり、お約束の能力でそれが見えているという所か。
昨日狩ったシオマネキもどきなら、地球でもありかな(あの巨体が地上で俊敏に動いていた時点でおかしいが)と思えるが、それと比較するのもおかしいほどの巨大生物を右眼で発見していた。目測であったし、どれほど右眼を信じていいものか迷うが、十中八九、十mは超えている。そして、零次の感想と言えば、
「陸上で十mを超えるとか、ないよなぁ……」
当然こうなる。
地球だと、あまりに巨体は物理的に不可能と言わざるを得ないが、流石はファンタジー、魔法重量軽減とか、魔法筋力強化とか、魔法なんかすげえ強化とか、とにかく魔法が付いてればなんでも解決!
そんな世界だと、頼もしく感じていたM870が、途端に頼りなく見えてくる。
シオマネキもどき? 程度なら倒せたが、あれがこの世界でどの程度か分からない以上、楽観は禁物だし、そもそも補給が望めない現状では、そのうち唯の棒以下に成り下がるのは目に見えている。
「最悪、この薄い方で、生活するしかないか? 決め付けるのはまだ早いか……」
たった一日ではまだまだ情報が少なく、出来る出来ないの区別が付かない内に、方針を断定するのは早いと思い直し、当面は比較的安全だと思われる方面を探索する事にした零次は、柿麻呂をモフモフしながら、気合を入れなおす。
「大型生物は居ないっぽいけど、油断は禁物! 行くぞ、柿麻呂」
「やって来ました因幡の国」
零次は少し高くなっている砂丘を越え、見下ろす風景に対しての第一声目が、やたら古いゲームのネタだった。
これは決して零次が不真面目な性格ではないくて、人間常に張り詰めたままだと持たないから、適度に緊張を和らげるために、ネタを挟んでいる訳だ(建前)。決して行けども行けども変わらない風景に飽きて、やっと変わり映えしたモノを見れて思わずネタが口について出た訳ではない(本音)。
その、変わり映えしたモノとは、
「これまた中世ファンタジーではお約束な帆船だな……」
湾に船体の半分以上乗り上げ、左舷を上に横転して座礁した帆船だった。
ぱっと見た感じ目を引いたのは、朽ちている部分がない事だった。このことから、座礁してそれほど日が経っていないことが分かる。他には人間、もしくはそれに準ずる知的生命体が居ると推測できるし、階段を見る限り体格もそれほど違いはなさそうだ。技術レベルにおいては、(現時点では)それほど期待できないかも知れない、と言ったところか。
それ以外は実際中に入って調べるしかない。ようやく待ち望んだ情報が手に入るのだ、多少の危険を冒しても調べるべきだった。しかも、都合が良いことに、階段は右舷に付いている。
要は、入り口が目の前にあり、簡単に入れるわけだ。
「メインマストの傍にも階段あるが、ぎりぎり海水が入ってないってところか。さて、どっちから入るか……せっかくだから? 赤くはないけど俺は船首側の穴を潜るぜ! ……準備出来たらね」
零次は甲板を一瞥し、船首側のフォアマスト付近と、真ん中より少し船尾側にあるメインマスト付近に階段を見つけた。ちなみに、船尾に有るマストはミズンマストと言う。
準備のため、一旦ここに荷物を置き、火種草が生えてた所まで引き返す。有用な植物なので、見かけたらチェックしていたので、ここから然程離れておらず、準備はものの五分ほどで終わった。単に木の棒の先端に――持ってくる途中の日差しで発火させないため――完全に枯れていない火種草を巻きつけただけの、なんちゃって松明を作っただけだが。
零次は松明作りのついでに採取した――立ち枯れた方の――火種草を、ビニール袋から取り出し、砂浜に置いて日の光に当て始める。
程なくして燃え上がり、自作した松明に火をつける。名付けた通り、火種として使ったわけだ。
松明が、ばちっばちっ、と音――すぐに燃え尽きてはと思い、まだ枯れていない水気を含んだ火種草を選んだため――を立てながら順調に燃えている。
この分なら大丈夫そうだと判断を下す零次は、柿麻呂にはここで待って居ろと指示を与え、爛々と目を輝かせ、全く疲れを感じさせず意気揚々と船内に乗り込んでいく。
格子状の甲板の床から差し込む光が船内を薄っすら照らし、九十度傾いたのも相まって余計に不思議な光景を演出していた。こういったことを体験できる施設はあれど、漫画やゲームでしか早々お目にかかれず、いかにも冒険然として、ますますテンションが上がっていく零次だった。
難破船内に降り立った零次は、思わず微かに漂う腐臭に顔をしかめる。頭によぎったのは、難破した船なので、死体から漂う腐臭かと、勘違いしたためだ。
実際は、
「なるほど、船首側の大部屋は食堂なのか……」
食料等からの腐臭だったわけだ。
零次の勘違いだが、食堂兼水夫部屋なのだ、隣はもちろん厨房だ。
部屋の中は足元に金属製の食器類と、干からびた料理らしきものが散らばっている。壁には、整然とテーブル――揺れ動く船なので固定されている――が並んでいる。
天井を見上げれば壁にぽっかり穴が開いている。船底への階段のようだ。
船尾側に目をやれば、右舷側に扉が開いていた。
「しかし、意外だな。ハエやネズミが居ない。居ないほうが良いから良いけど。後で食器類は頂くとして、先に他の部屋の探索だな」
とりあえずの行動指針を、先ほどより少し大きめの声で口に出して確認した零次は、どこから探索するかで迷う。結局は船底側は備蓄資材等があるだけだと推測し、先に船尾を調べるべく移動を開始する。
だが、当たり前の話だが、九十度傾いた船内は人が移動するなんて考慮なんてされているはずもなく難しかった。
食堂の扉の壁をよじ登り扉を抜けた先は、元は真ん中にあった扉が九十度ひっくり返ったため、とてもじゃないが手が届きそうに無い高さにあった。
「こりゃ登るしかないか……」
まず初めに零次が思いついたのは、肩に回し掛けていたロープを使い登って行くやり方なのだが、順調にいっても、巻上機の支柱に登りメインマストに移って、おそらくそこで終わってしまう。
メインマストから扉までおよそ二mもの距離が開いていて、何の支えもなしの中空でのこの距離は、扉を開けることすら困難だった。
扉の蝶番の軸の部分がこちらから見えているので、こちら側に引いて開ける扉なので、M870をマスターキー――M870を短銃身化した物を軍や警察が屋内の突入で扉の鍵代わりに使う事がある――代わりに使っても船尾側に傾いているので意味が無い。
「さて、船内にあるナニかを探して、ここを抜ける方法を探す。やれやれ、面倒くさいなー」
零次の口から愚痴が船内に響くが、顔は満面の笑みである。
零次はこの様な事が、生きているうちに味わえるとは思っていなかった。もし、出来る可能性があるとすれば、言わずと知れたVR技術だ。フィクションでは定番ネタにさえなりそうな人気ジャンルの一つだが、零次はこれを現実に実現するために、どのような技術が必要か――おそらく脳の研究が一番ネックになっていると思う――解らない。解らないという事は、予想がつかない。
それが実現できるのは、十年後か? それとも三十年後か? もしかすると百年後かもしれない。そして、もしそうだとするなら十年後、三十年後ならいいだろう、おそらく生きているはずだから。だが、五十年後、百年後ならどうか? 百年後なら、間違い無く死んでるし、五十年後に実現しても年寄りには、VRは脳に負荷がかかって制限されるかも知れず、最悪使用が出来ないだとしたらどうだ? たら、ればを言い出せば限が無いが、現状では十中八九、零次は生きている内には実現しないだろうと予想する。
あきらめていた事――VRなんて目じゃない――を現実に体験しているのだ。思わず笑みもこぼれるのも仕方が無い事だろう。
閑話休題、解決のためのナニかを探すべく零次は食堂に戻るが、そこで動きが止まる。
「てか、目の前にあるじゃん! やべ、寝不足で頭回ってない?」
零次が目をつけたのは、食堂に貼り付けられた机だ。
早速机を取り外すべく、徹夜中は暇だったので作った鋸――鋸蟹から剥ぎ取った鋸爪に木の棒を突っ込んで即席――を使い、貼り付けられた少し上辺りから切り外していく。
零次は取り外した机を、先ほどの部屋に戻ってどんどん階段状に積み上げていく。
扉の前までのルートを確保した零次は、他人に聞こえるように大きな声で完成の声を張り上げる。
「よっしゃー、完成です!」
すぐさま零次は身じろぎ一つせず耳を澄ます。
そのまま、一分、二分と過ぎていく。
零次は五分過ぎた頃に、盛大に息を吐き出しようやく動き出す。
「見事なまでに、何の気配もないな」
零次があからさまに音を立て、声を張り上げていたのは、何か居た場合の反応を見るためだ。
生き物が何かに気付いた時、全くの無反応というのはまずありえない。
ぶっちゃけ、零次はただの素人だ。気配を消し物音一つ立てず船内を探索するなんて、土台無理な話だ。ならば、こちらからあえて目立って反応を見るのも一つの手だ。
万が一でも死ぬような事があってはもったいなくて死んでも死に切れない。
そんな理由で、零次は思いつく限りの自分に出来る安全策を講じている。
零次は意を決し、ゆったりとした動作で扉のノブに手を掛け、そこから素早く扉を開け放ち松明を投げ入れ、火の光が暗闇を駆逐し狭い廊下を照らし出す。
照らされた廊下に対して、素早くM870を構えさっと見渡す。気分は特殊部隊の隊員(笑)でノリノリでやっている。もちろん、安全確保の観点から見れば、決して笑えない意味のあるものだが。
零次の視線の先には、右舷、左舷側に二つずつ扉があり、手前の右舷側の部屋の扉だけが開きっぱなしになっていて、突き当たりまでは流石に明かりが届かず見えなかった。
思わず、「やべ、部屋に落ちなくて良かった」と、ぼやきながら零次は左手で拾い上げ、M870は肩紐にかけ右手には剣鉈を握しめてから、慎重に奥に歩を進める。
大して広いわけでもないのですぐに突き当たりにぶつかり、目の前にはまたも扉が現れる。
「…………」
零次は無言のまま、先ほどの開いている部屋の中に松明をかざし覗き見る。
ごちゃごちゃとした部屋だった。
横転したせいか、本とビンがあちらこちらちらばっている。よく見てみると、丸窓がひび割れ部屋の五分の一ほど浸水している。
「船医の部屋かな? 薬は喉から手が出るほど欲しいが……」
毒と薬は紙一重。なんの知識もの無いまま迂闊に手は出せない。
「さてさて、残りの部屋に使えるものがあれば良いけどね」
次に調べたのが手前左舷部屋だが、扉を開けるのも一苦労だった。
先程の船医らしき部屋よりもっと雑然とした部屋で、扉の上にも様々なものが載っていて、開けるのに苦労する羽目になった。丸窓から差し込む光が部屋を照らし、より詳細に見て取れた。どうやら、散らばっているのは主に工具らしかった。
「船大工長の部屋かな?」
船内に工具を扱う――さらに個室を与えられるのはその長だろう――のがそれしか思いつかないが、合っていようが違っていようが、自分には関係ないと割り切っている零次。使える物は頂いていくのみだ。
三つ目の部屋――右舷奥の部屋は、特に変わり映えがしない部屋だった。
強いてあげるなら、酒瓶らしきものが浮いているくらいだろうか。やはりこちらも、丸窓から浸水している。
そして、問題の四つ目の部屋――左舷奥の部屋は、鍵がかかっていて入れなかった。
「まっ、とりあえず後回しだな。鍵が見つかればそれに越した事はないし」
にやりと意味深な笑みを鍵穴に向ける零次。ゲームじゃあるまいし、零次は鍵が見つかるなんて欠片も思っていないのだ。
どこの世界に難破した船の鍵が、船内で見つかるというのだろうか? 普通に考えれば海の藻屑と化していると考えるほうが、はるかに現実的だろう。
「そんな風に考えてた時期が僕にもありました」
最後の部屋に入った途端にこのセリフである、舌の根が乾かない内所ではない。だが部屋の中を見て取ると、他の部屋より内装等が明らかに良くなっているのを素人目でも見て取れる。
「船長室はこの上? だから、この部屋はNo.2の部屋かな? うわ、鍵くらいありそうで怖いな。ますます、ゲームっぽくなってきたな……」
しばし、探索中……
探索中……
「見つからんかった……」
現実はそこまで甘くなかった、と言う事だろうか。
零次は鍵が掛かっていたであろうフックを見つけたが、掛かっていたのは微細な文様が刻まれた金属板が二枚見つかっただけだった。
「ん~、これは取っとけば後で思わぬ形で役に立つとか、ってねーよ!」
零次は自分でボケて、自分でツッコミをいれることにより、フラグを圧し折りに掛かる。
「まあ、いいさ。問題はこの海図だ!」
鍵を探している内に見つけた海図は、ゲーム開始直後の世界地図のごとく、びっくりするほど真っ白だった。
文字が読めないので大まかにしか理解できないが、縮尺が小さい海図らしき物は、ほぼ真っ白だったのだ。
縮尺の大きな海図には、この船の本拠地か単にここに来る前に寄港した港かは読めないので分からないが、その辺りには事細かに記載されている文字や地形と言った情報が、(北を上とするかは分からないので)海図で言う右に行けば行くほどスカスカになっていく。
「ここらは未踏破領域って所か……って、拙い! 非常に拙いぞこれは!!!」
つまり、ここら辺を定期的に走る船が無いという事になる。そしてそれが正しいならば、ここは無人島どころか未開の地だった。さらにこれが意味するのは、何時頃ここに人がやって来るか分からない事だった。
もちろん、船を派遣するのだから、何某かの理由があるのは分かる。だが、文字が読めないので肝心の理由が分からず、その理由によってはすぐに来るかも知れないし、すぐに来ないかも知れない。全ては憶測で、結局次に来るのが何時なるのかはさっぱり分からない。
一ヶ月は無いとしても、早くて半年先か? いや、四、五年は見るべきか?
船の派遣がお手軽なお値段とも思えず、零次は早々次の船が来ると事は半ば諦め、命懸けの生活が当分の間続と覚悟しなければならなかった。
「ゲットした情報は悪いニュースでした(笑)……笑えねえよ!!!」
最後の望みを託して、零次はもう一度鍵の掛かった部屋に向かう。若干背中を煤けさせて。
結局鍵が見つからなかったが、無ければ無いで構わないのだ。これこそゲームと違い、扉が壊せないから絶対に鍵がないと開かないとか、そんな事は無いのだから。
先程はあきらめたが、M870を万能鍵代わりに使えばよいのだ。
扉が上側にあるので少々やり難かったが、零次はM870を構え鍵穴に向け撃ち押し開ける。
部屋の中を覗き見れば、鍵が掛かっていた割りに、がらんとして期待外れかと思いきや、部屋に鎮座する二つの品が強烈な存在感を放っていた。
一つ目は入り口から見て左右の壁に棚が並んでおり、右の棚に一箇所だけ巨大な剣がかかっている。
まさに、『それは剣と言うにはあま(ry』であり、直接対峙したわけではないが、超巨大生物が闊歩するこの世界において、通用する武器として確かな説得力を持っている。
二つ目は入ってすぐ右側に仰向けに鎮座する、兜から鉄靴まで一体化した、甲冑一式だった。
こちらは、素人目に見ても使われた技術が高い事が伺える。まず、稼動部分が蛇腹に作られ、見た限りでは実に動きやすそうだ。次に攻撃をそらすための曲面は実に滑らかで、これまた高い加工技術を窺わせる。最後に、ファンタジー世界の為、おそらく実用性のある複雑精緻な紋様が要所要所に装飾され、意味有り気に白い線で繋がっている。
零次がこの二つの装備品を見ての感想は、
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお、ぜーはーぜーはーぜーはぜーはーぜーはーぜーはぜーはーぜーはーぜーはぜーはーぜーはーぜーはぜーはー」
興奮しすぎて息を切らせた。
だが、これを見て興奮しない漢が居るであろうか? いや居るはずがない(反語)!
玩具を与えられた子供のようにはしゃぎながら零次は、武器と防具に飛びつく。
零次が最初に飛びついたのは大剣の方だ。武器棚に納まった大剣は、武器だけに厳重に鎖を巻きつけられ状態で施錠され容易に取り出せないようになっている。
鎖を外す方法をぱっと浮かばなかったので一旦保留にし、零次は鎧を調べる事にする。
鎧の着方なんて知ってるはずも無く、ましてや異世界の鎧、生半な事では着ることすら叶わないだろうと思っていた。
……そんな時代もありました。
つい先程見た憶えの有る紋様が、鎧の中程――人体で言う鳩尾辺り――に細工されている。そして、零次はポケットに入れていた金属板を取り出すと、鈍い金属音と共に兜の顎先が持ち上がる。次に、胸当て部分が前にせり出す。まだ変化は終わらない。最後に、肩幅と腕、脚周りが広がる。全体的に見て緩んだ感じか。
「これ、非接触型ICカードと同じとは……意外なところで妙にハイテクだな!」
零次にとって、この鎧を着ないという選択肢は無い。
いかに安全を重視しようとも、かの超巨大生物に対抗できなければ拠点の安全もままならない。
零次は徐に靴を(覚悟はあるか? イエス!)脱ぎ、上着を(生き抜く意志があるか? 応!!)脱ぎ、ズボンも(リスクを背負えるか? 承知!!!)脱ぐ。
と、厨二くさい内心と共に、その勢いのまま鎧の中に飛び込む。
即座に変化が現れる。
緩められていた手足が、零次にあわせて締まり縮む。さらに腰、肩、胴と零次の体格にぴったり合わさる。次いで、兜が降りてきて金属音と共に固定される。最後に、自分で面を下ろして装着を終える。
零次のテンションは鰻登りだ!
※(嬉しくて嬉しくて、言葉に出来ないとはこの事だ!)
零次が着込んだ甲冑は、だいたい金属と生物由来の素材が半々位だろうか? 日本の鎧の様に、金属や革等の複合素材を用いた物でも二十五kg位はあったそうだ。
それにも係わらず仰向けに寝そべった状態から、零次は軽快に手も使わず起き――飛び上がる。
「おいおい、ハイテクってもんじゃねぇぞ、鎧かと思ったら、強化服でした、ありがとうございました!!!」
零次の強化服と言う評価は、言い得て妙だった。
この世界の住人が、超常の野生生物に対抗する為の解にして、武器と合わせて唯一の直接的な超常を行使する方法だった。
零次は武器を止めている鎖に、色がほとんど無い事を確認すると、大剣の柄を掴み力任せに引き千切る。
「…………」
零次は出来ると思ったからやったのだが、実際出来てしまうと言葉が出なかった。
気を取り直して零次は掴み出した大剣の全体を見ると、これまた奇妙な剣だった。
湾曲した刀身の短弧側に刃があり、内反り――刀で言う峰に刃がある――のくの字型、要はククリナイフを大剣サイズにしたと言えば分かりやすいだろうか。その形状ゆえに、切っ先に重心があるため遠心力が乗り、超重量武器の特性を十二分に発揮出来るだろう。
もう一つ目に付くのが、所謂刀で言う切っ先三寸辺りに、埋め込まれた牙か爪かの素材と、その峰側に埋め込まれた素材不明の結晶が、獣の顎門と目を彷彿させる。
禍々しくも凶悪な見た目ゆえに、頼もしさを感じられる大剣だった。
「うむ、恐ろしく厨二くさい武器だな。だがそれが良い」
難破船を探索して武器と防具を入手するなんて、零次はあまりのご都合主義と言うかお約束と言うか、思わず笑ってしまう。
だが、勘違いしてはいけない。これは千載一遇の機会であって、これで終わったわけでもなければ、始まってさえいない。
この、武具を十全に使いこなして、やっとスタート地点に立てる。
少なくともこの位の心構えでないと、この弱肉強食の世界で生き延びれない、と、零次は肌で感じている。
もちろん? 零次は調子に乗らず、慎重に、冷静に、事を進める俺格好良い!!! とか思っているのは内緒だ(笑)
「さて、早速これの練習したいところだが……流石にそろそろ一旦寝たほうが良いか? ここで寝て、お約束でぶっつけ本番みたいな事にならないよな?」
零次の心配を余所に、事態は別の理由でオチてしまった。
「あれ? これ、どうやって脱ぐんだ!?」
メインクエスト 『難破船の探索』リザルト
『難破船の探索』クリア 試作型大剣【顎門】を手に入れた。試作型軽量化○○式動甲冑【ティヌウィスルーメンアルマ】を手に入れた。
※例のCMなんかでよく聞く歌ですが、友人に『俺の葬式に歌ってくれと』頼んだら、なぜか誰一人了承してくれませんでした。
どうでもいいですねw
次回予告!
本来この話で戦闘に入っていたはずなのに、装備入手で終わってしまった作者は、次こそ予定通りに進める事が出来るのか!?
次回「予定は未定(マテ」乞うご期待