プロローグクエスト
この作品はフィクションです。実在の人物、団体、某狩ゲーなどにはいっさい関係ありません。
※終わりにちょっとリザルトを追加しました。
――どこまでも澄み渡る青い空。
――照りつける太陽の光に白く輝く砂浜。
――薄青や蒼や藍に彩られながらも透き通る海。
――青々と茂る密林。
そこはまさに、一見すると絵に描いたかの様な南国の楽園。
その、楽園に不釣合いな青年――狩野零次と柴犬が、砂浜に倒れている。
不釣合いなのは、零次の顔が貧乏くさいからではなく、服装が控えめに見て秋用、下手すれば冬用の服装に見えるからだ。
さらに、一際目を引くのがジャケットだった。ド派手なオレンジのジャケットは、たくさんのポケットがなければライフジャケットに見えたかもしれない。
そんな厚着をした人間が南国の砂浜で倒れているのは、かなりシュールな光景だった。
じりじりと効果音が聞こえてきそうなほど、強烈に照りつける灼熱の日差しが、容赦なく一人と一匹を焼く。意識を失い浜辺に倒れて、時間にすれば一分経ったか経たないか程で、柴犬は気が付くと倒れた零次に近づき顔を舐める。零次の方も、微かに呻いた後、『あ』とも、『は』とも聞き取れる呼気を吐き出し、
「暑い! 暑過ぎる!?」
飛び起き篭った熱を吐き出すように叫ぶ。
そこに、柴犬が体をこすり付けるように寄って来る。
「って、柿麻呂……お前か」
零次は、意識をはっきりさせようと頭を振り右目をこすり、顔に付いた砂を払いながら起き上がり、強烈な日差しで焼けた砂浜にうつ伏せで倒れていたので、少々顔がひりひりし思わず顔をしかめながらジャケットと上着を脱ぐ。
その間、お座りの姿勢で待っている柴犬――柿麻呂は、黒毛と言われる毛色――四足と腹から胸にかけて以外が、ほぼ黒毛で割と良く見かられる――で、人間なら眉の辺りがちょうど日本の貴族の眉に似てるからという理由で、唯一知っている貴族の柿本人麻呂から名付けられた。その柿麻呂は零次に首を掻くように撫でられ、尻尾を千切れんばかりに振っている。
「起こしてくれたのか、ありがとな。よしよし」
起きた零次は、早速何が起こったのか? どうしてこうなったのか? という自然に思いつく疑問を今この時は考るのを止めた。
今、まず何よりも優先すべきは安全の確保。一見すると長閑で美しい自然だが、ここが安全である保障など、どこにもないのだから。
むしろ、自然とは正しく弱肉強食の世界だと、零次は身をもって知っている。
生きるということは、食べるということだ。そして、食べるということは、生き物を殺すということだ。そこに、善悪の区別はない。あるとすれば、小賢しい知恵をもってしまった人間が、勝手にそう呼んでいるだけだ。
もちろん、信仰する宗教の教義で食べられないや、単純に好き嫌いで食べないのなら問題ないのだが、『生き物を殺すのはかわいそうだから、植物しか食べない』や、『知恵のある動物を殺すなんて許せない』とか、『イルカや鯨を獲るのは野蛮』と、これほど傲慢な言い分もあるまい。
閑話休題、零次は生き残るために早速行動に移す。
まずは、自分の体のチェックから始まった。捻挫など、自覚症状がわかりにくいものもあるので、念入りに調べる。どこにも異常が見当たらずほっとするが、すぐに顔を引き締め柿麻呂のチェックに移る。柿麻呂にも異常が見当たらないのを確認して、ようやく安堵のため息を漏らす。
動くことに支障がないのを確認し終わったので、次は現状の確認だった。ポケットから携帯電話を取り出し、日付と時刻を調べる。
「日付は変わらず、時間も最後に確認してから三十分と経っていないか……」
携帯電話の時計は午後三時二十三分を指している。
「そして、当然圏外か……」
零次は無駄とは思いながら駄目元で無線(違法)を使うが、やはり応答――電波を受信できなかった――はなかった。そして、恐る恐る腰に付けてるハンドヘルドGPSに手を伸ばし電源をつける。薄々は気づいているが原因不明のエラーで、予想通り情報を取得できないでいる。
零次はこれ以上考えると恐くなるので、この件は一旦保留にし、所持品のチェックに移る。
まず、目を引くのが、日本で普通に暮らしていればお目にかかることのない物、零次の足元に転がっている無骨な銃――M870と呼ばれるショットガンだろう。このM870は、作動や排莢の確実性で優れ、レミントン社の製品らしく堅牢な構造となっており耐久性が高く、使用する場合は確実な対応ができると評判で購入を決め、かれこれ五年も愛用している。
零次はM870を拾い、砂を払いながら念入りに作動に問題はないか調べる。本来なら分解して、点検、整備、清掃等行いたいが、現状ではそれも難しく、せいぜい、前床を引いてみて引っ掛かりがないか確かめるか、銃口内に異物が入ってないかを調べることくらいしかできることがないが、それでもやらないよりは遥かにマシなので、迅速かつ丁寧に終わらせていく。
武器の準備を終え、残りの道具の確認に移る。
ガムテープを巻きつけたターボライター&予備のガムテープを巻きつけたオイルライター、ミネラルウォーター入りペットボトル500ml×2&ドイツ製の軍用水筒、不味くない(超重要)非常食×4、圧縮包帯&治療キット、弾帯&弾刺し&スラッグ弾×12、マルチツールプライヤ、各種用途別ナイフ、各種用途別ロープ、犬の引き綱、オレンジ色のタオル×4、ウエストポーチ、ポリ袋×10、目印テープ、狩猟会経由での依頼で行っていた山の地図。
確認した荷物を分けてゆく。すぐに使うもの――弾帯&弾刺し&スラッグ弾×12、剣鉈、水筒――を取り出し身に付けていく。残りのすぐに使わないものは、ジャケットのポケットとウエストポーチに、手早く詰め込めていき、ジャケットは暑いので羽織らず肩にかけて持ち歩く。
零次が起きてからここまでで十分と経っていないにもかかわらず、汗でびっしょりとなっていた。
よく聞く話で『人間は水を飲まなければ三日で死ぬ』とあるが、ここで勘違いしてはいけないのが、三日がタイムリミットではないということだ。ぶっちゃけその前に動けなくなる。そして、動けなくなれば死ぬだけなので、良くて二日、この日差しの中なら一日も持たないだろう。
「さてと、さっさと飲み水を確保しないと、このままじゃあミイラになっちまうな。てか南国っぽいから、南国特有のアレがあるか……あっ!?」
零次の目線の先に、南国特有の木が見える。ヤシの木だ。
幸いなことに毒のあるヤシの実は聞いたことがないので、早速登るためにウエストポーチからロープを取り出す。
ヤシの木の直径より少し長いくらいの輪を作り、足の甲を輪に通す。足縄といわれる木登りの技法だ。
零次は木に手をかけるとひょいと飛びつき、ロープの摩擦と足で木をはさみしっかりとホールドする。尺取虫のように交互に伸び縮みしながら、するすると危なげなく登っていく。
ヤシの実が手に届くまで近づき、とる前に柿麻呂に指示を出す。
「柿麻呂、離れてろ」
当然、犬に言葉は通じない。だが、犬は非常に優れた洞察力をもっている。主の身振り手振り、声の調子、目線である程度の意思を汲み取る。しかも、厳しく訓練された狩猟犬なので、なおさら主の指示を聞くようしつけられている。
指示にすぐさま反応を返す愛犬に満足げな視線を返し、零次は剣鉈を振りかぶる。力加減を計りながら、三度、四度と剣鉈を振るうと、一つ目のヤシの実が落ちていく。コツをつかんだのか、二度ほど剣鉈で切りつけるとヤシの実が落ちていく。ヤシの木になっている実は全部で三つ、最後の一つは採らずに降りていく。
零次には、根こそぎ採っていくという選択肢は存在しない。これは、師匠(零次が勝手に呼んでいる人)から山菜採りのマナーとして、徹底的に叩き込まれている。どのみち冷蔵庫も無いところでは、使いきれない分は腐らせるだけだ。
いい加減、暑さでどうにかなりそうなので、零次は落としたヤシの実と荷物を回収して、見晴らしが良く涼しい場所を探すため動き始める。木陰だけならすぐ目の前にある密林に入ればすぐに目的を達成できるが、とてもじゃないが安全とは言えない。今だここが何処かも分からない、何がいるかも分からない場所で、遮蔽物の多い密林の中での休憩は極力避けたい。もちろん、切羽詰った状態なら話は違うが、避けられるリスクは極力避けるのが鉄則だ。しかし、日差しは真上とまでは言わないものの僅かに西に傾き始めたくらいで、影ができる面積が非常に小さい。零次は仕方なく、密林の入り口付近の木陰まできて腰を下ろす。
零次はようやく、喉の渇きを潤すためにヤシの実を足で固定し、剣鉈を振りかぶり端を斬り飛ばす。後は、中身がこぼれないようにナイフでちまちま削り飲み口を開けていく。ヤシの実を自分で開ける作業は初めてなので、少し不安もあったが問題なくできたようだ。
「さてと、お味のほうはどうかな?」
ほんのり甘く、微かに塩味の効いた生温いフルーツジュース。喉が渇いてたのもあるだろうが、この生温いジュースを、零次はなぜか美味しく感じている? 事に戸惑いを隠せない。
「んんー、なんだろ。いや、不味くはないよ。でも、美味くも無いはずなんだけど……高い栄養ドリンクを飲んだ感じかな? こう、何って言ったらいいんだろうか……漲ってきたー!!! まさか、これが細胞に適合する食材か!?」
零次が漫画のネタまで使って異様にハイテンションなのは、訳も分かない状況に対する不安の裏返しではなく、生き残るための手段の一つだ。人は、終わりの見えない状況に対してストレスを溜めやすい。零次は体験したことがあるから、なおさら実感できる。
つまり、遭難が長いか短いか分からない現状で、いたずらにストレスを溜めるのは拙い訳だ。こんな状態でほんの少しでも、良い事と感じられたら、大げさに笑い、喜び、楽しむ。
そして、それを共有すれば、半分や倍になったりするらしいので、柿麻呂にも味わってもらうべく、零次は剣鉈を振るい、柿麻呂が飲みやすいように、ヤシの実の飲み口を大きく開けて目の前に置いてやる。
「ほら、柿麻呂。飲め飲め」
柿麻呂も喉が渇いていたのだろう、少々試すように匂いを嗅いでいたが、零次が頷き短く「(飲んで)良し」とつぶやくと貪る様に飲み始める。
その様を、零次は右目をこすりながら見やる。
「んじゃ、休憩がすんだら、現地の人か拠点にできそうなところを探すかね」
零次が休憩を終え、拠点探しを再開してから二時間が経過したが、人っ子一人見当たらないどころか人工物も見当たらず、無人島か未開の地かのいずれかだろう……と思う、いや思いたい。
今だ問題だらけだが、最大の懸念事項である水に関してある程度余裕が出来たからか、零次はこの状況についてどうしても頭によぎる。
常識で考えれば、不可能なのだから。
日本から一番近くてここの風景に近い国といえば、零次がすぐに思いつくのがフィリピンなのだが、それでも3,000km離れている。国際空港の成田から首都マニラまで飛行機で四時間かかる。
もちろん、零次が正確な距離と時間は知らないが、飛行機でも一時間や二時間でいける距離ではないのは分かる。
さらに、午後三時二十三分と確認した時点で三十分と経過していないにもかかわらず、太陽はほぼ真上にあったのだ。
これは時差が三時間ある事になる。ちなみに、時差が三時間だとインドあたりになり、零次が思ったよりも距離が離れていることになる。
そして、それだけの距離を三十分にも満たない時間で、日本の山奥から移動するなど時速12,000km、音速だとほぼマッハ10。これに必要な速度を出せる飛行機があるのか? 実は在る。
X-43と名付けられた、スクラムジョット試験機として三機のみ作られた無人機のみである。
しかし、仮にそれを使ってもどう考えても荒唐無稽であり、さらに気を失う直前の夢だと思っていた記憶では、万華鏡の様にバラバラに移っている光景が目に焼きついている。
今、落下しているのか? それとも、上昇しているのか? 一寸先も見通せないほど暗いのか? 目も開けていられないほど明るいのか? 茹だるほど暑いのか? 凍えるほど寒いのか? 全てが全て目まぐるしく移り変わり、どれほどの時間が流れたのか? わずか数秒か? それとも十分?
そして、気づけばあの砂浜にいたのだ。
これについて零次の出した答えは、
「なるほど、これが神隠しというやつか!?」
と結論を出したが、小声で『絶対に異世界トリップとか認めんぞ』『今さら珍しくもないし』等々、右目をこすりながら呟いている。
気を取り直して零次は、気合を入れて探し始めたが、更に、一時間、二時間経っても、未だにこれはと思う拠点を見つけられずにいた。
水に関してはヤシの実から取れるので、慌てて水場を探す必要はないが、拠点となる場所の近くに沢山ヤシの木があるに越したことはない。さらに外す事の出来ない条件が、風雨を凌げ、野生動物から身を守りやすい、と。
これこそ命にかかわる条件なので、そうそう妥協は出来ない。それで、後もう少し、後もう少しと、探し続けかれこれ四時間も彷徨っている有様なのだが。
一つ気になるの事が有る、それは、
「なんで、あんまり疲れてないんだ? あれから、ほぼぶっ通しで歩き続けてるのに? 柿麻呂、お前も元気そうだな……」
零次の視線と声音が、自分に向けられたと敏感に察知した柿麻呂は、嬉しそうに尻尾を振り視線を主に向ける。
「まあ、疲れないのは良いことだ。それよりも、そろそろ妥協して、日が暮れる前に野営の準備をしないとまずいな」
もちろん、原因は漲る(笑)ヤシのジュースだろうとは思うのだが、異世界トリップ否定派の零次は信じないフリをすることにした。
いくら信じようが信じまいが関係なく事態は動く、一部ではフラグとも言うらしい。
突如、巧妙に隠された砂穴から、零次の腰の高さまであるシオマネキ――シオマネキ特有の片方の鋏脚が異様に大きいが、あまりの体の大きさと鋏脚が鋏ではなく鋸状なので――もどきが躍り出る。
人など問題にならぬほど鋭敏な柿麻呂が、まったく反応できないほど見事な待ち伏せだった。距離にして2mもない状態での完璧なまでの不意打ちは、全く意味を成さなかった。
バンッ! と破裂音が響き渡る。
零次はすでに、M870を構え狙いを定め撃っていた。
放たれたスラッグ弾は狙い過たず、巨大なシオマネキもどきの目と目の間(眉間?)に着弾し、ハンマーで殴りつけたかのような衝撃を与える。
驚くべきことに、シオマネキもどきは、銃弾を眉間にくらっても皹が入った程度で止まっている。だが流石にダメージはあるのか、足に力がなく地に伏している。
零次は立射から膝射に変えて、止めを刺すべく冷静に、次弾を装填して同じ箇所にもう一度撃ち放つ。
シオマネキもどきにとって待ち伏せが災いしたか、近距離ゆえに正確に眉間に命中する。これにはシオマネキもどきも耐えられず、銃弾が眉間の甲殻を砕き、内部に銃弾に与えられた運動エネルギーを思う存分叩き付けた。
巨体ゆえ相当の体力がありそうではあったが、眉間を撃ち抜かれた事によって頭部神経節(節足動物の脳にあたる器官)を破壊され、文字通り虫の息だった。
「ふう、いまいち確信が持てなかったが、これは使えるな。最初は幻覚でも見え始めたかと思ったが……俺の右目がソ○ッドアイみたいになっとる!」
これまた零次は、自身の右目に起こった事を素直に喜んでた。そして零次の言葉通りしきりに右目をこすっていたのは、異様に遠くのものが見えたり、赤外線暗視ゴーグルをつけたかのように、鮮明に生物の姿がくっきりと目に浮かんでいたからだ。ちなみに幻覚かと思ったのは、明らかに巨大過ぎる生物を見かけたりしたからだ。
それもこれも、この巨大シオマネキもどきが現れたので、目が正常であると証明された。
改めて巨大シオマネキもどきを見てみると、体高1m、全長6m、と大きすぎる。
「食いでがあって、良さそうだな! しかし、スベスベマンジュウガニみたいでない事を祈るのみだな」
致死に至る可能性のある毒を含んでいる生物です、見つけても食べないようにしましょう! お兄さんとの約束だよ☆
「剥ぎ取りタ~イム。この鋸状の脚は、柄を付けたらそのまま鋸として使えるな」
零次にとって今の状況は某狩ゲーみたいで、興奮を隠し切れない。
そもそもが、彼が狩猟会に入ってまで、狩をするようになったのも某狩ゲーみたいに、獲物を仕留めるときどんな気持ちになるか、仕留めた獲物を自分で食べれるか知りたかったからだ。
だから、今の零次のテンションは最☆高☆潮(笑)
少々剥ぎ取り難くても、全く苦にせず、零次は嬉々として剣鉈(解体用ナイフがあるにはあるが、小さすぎて役に立たなかった)を振り解体していく。
「流石に生は拙いか……乾いた木が見つかると良いなぁ」
剥ぎ取りも一段落し、次は食べる段になるのだが、零次とて早々都合よく薪が見つかるとも思えず、さりとて脚だけでも結構な重量。とてもじゃないが、運べる重さではない。あーでもない、こーでもないとうなっていると、雲にさえぎられていた太陽が姿を現す。太陽が真上にあった時から四時間経ったのに、一向に衰える兆しの見えない日差しに『あれだけ強烈な日の光なら、沢山鏡集めたら焼けるんじゃね?』と、愚にも付かないことを考えていた。
変化は前兆はあれども、起こったときに気づくので、不意に訪れたように感じるだけだ。
それが目の前で起こった。
森の下草が、赤々と燃えている。
「は?」
樹高の高い木々に覆われていて、先ほどまで陰っていたので薄暗かった密林は、下草が赤々と燃えていた。
まだ、燃えていない方に目をやると、先ほどまで影になって分かり難かったが、青々とした下草に混じって真っ黒な草が生えている。実に太陽光を吸収しそうな草であった。
ちなみに、後に零次がモ○ハンの火薬草にちなんで、火種草と名付けた。
時系列では未来になるが、零次が観察して分かった火種草の生態について紹介しよう。
成長途中までは普通の緑色の葉なのだが、種が付くと立ち枯れていき、葉の色が真っ黒になる。これは効率よく太陽光を吸収し、燃えるためである。何故、わざわざ自分から燃えるのか? それは火で炙られる事が、火種草の発芽が条件の一つだからだ。実は地球でも存在し、山火事――正確にはかなりの高温とその後に適度な水分が必要――が発芽条件の一つとなっている種もある。
もう一つが、他の草木に勝つための戦略でもあり、己が生育するための土壌――焼かれた灰がそのまま肥料の役割を果たしている――を作るためでも有る。
火種草の生態は、天然の焼畑農法でもあり、違うともいえる。なぜなら、それは生態系に取り込まれており、決して環境を破壊する要因ではないからだ。
この辺りでは温暖湿潤で、短い雨季と乾季を除いてほぼ週に二回のペースで短時間の大雨が降る。つまり、気候が変わらない限り、外国のニュースで一月単位で山火事が続くということはない。
しかも、発芽にも生育にも大量の水が必要なため、乾季では種の状態で休眠している。
では雨季はどうか? これについては更に未来の話になるので割愛させていただく。
最後に、この火種草のどのように利用しているかというと、葉には非常に燃えやすい油が含まれており、名前のとおり火種や狩猟道具として使っいる。種は絞ると良質な油がとれ、食用油や道具の整備の油に使っている。
と、火種草一つとっても非常に有用で、零次が生き残るための重要な要素の一つでもあった。
「まあ、何はともあれ。ちょうど良く火種があるから使わせてもらうかな」
零次は生乾きの木であろうとも手当たりしだい手早く集めていき、ついでにまだ発火していない火種草も集める。
生木にナイフで細かい切傷をつけ、火種草を底に敷き木を格子状に組む。もう一つ、倒木を四本集め漢字の『井』状に組み上げ、真ん中の底に火種草と薪になりそうなものを手当たりしだい詰めていく。
『井』の真ん中に脚と――モン○ン風で言えば――胸殻を取り外され甲羅を下に乗せられる。見た目はまんまスケールのでかい甲羅焼きだった。
「さてと、焼くか!」
零次は暑いのを我慢してまだ燃えている――火勢は衰えてはいるが――密林に近づき、棒の先っちょに火をつけ――補給の当てがないので、ライターの燃料をケチった――二つの薪に火をつける。
二つの焚き火は生木を使ったわりに、火種草のおかげで勢いよく燃え上がる。
「楽でいいな。問題は、焼き蟹の為に串が欲しいところだが、さてさてどうしたもんかね」
その辺の木を削って串にする案は、当然、もちろん、却下した。
キャンプでBBQをするのに串を忘れたグループが、木を削って串にして使い、11人中7人死亡する事件があった。このことを憶えている零次は、毒があるのかないのか分からない未知のものについては、避けられる危険は極力避ける方針だ。
そこまで、未知のものに対しての危険性を考慮している零次が食べると決心したのは、食べないと死ぬというごく当たり前の事実だからだ。同一の食材では栄養のバランスも含め、味や飽きによるストレスを和らげるため、有る程度の回数をこなさなければならない。
迂闊な事に零次は、焚き火と言えば串焼きと言うか、モ○ハンの肉焼きの様に火にかけて直接炙るといった固定観念に縛られて、そもそも串を使う必要がないことに気づいていなかった。
「あっそっか。身を取り出して焼かなくてもいいのか」
漸く気づいた零次は、焚き火の周りに脚を足先から刺していく。
零次は火の勢いを調整しながら、薪をくべていく。その間、某狩ゲーの肉焼きの歌を、少し調子の外れた鼻ずさむ。
調理開始して五分ほどで辺りに、胃袋に直撃する良い匂いが漂い始める。
「おおおおお! 良いね良いね良いね!! テンション上がって来た!!!」
別におばちゃんを待っているわけではないが、しきりにまだかなまだかなとつぶやく零次は、スプーンフォーク付きナイフを握り締めそわそわしている。ついでに、柿麻呂もそわそわしている。
もういいだろ、いや、これだけでかいと生煮えかもしれん、とそわそわしつつもやはり食中毒が恐いため、我慢していたが、三十分も経った頃、脚から流れる肉汁を舐めたところで終わった。
「……」
零次は無言のままタオルを手に取り、焚き火で炙られている脚を一本取り外す。
身肉がむき出しになっている箇所へ、フォークを突き刺しぷりぷりと弾力があり、溢れ出る汁を滴らせる蟹肉を取り出す。
やはり無言のまま、零次はぱくりと食した。
「……」
まだ、無言のままだった。
黙々と、ひたすら、一心に食べ続ける。
柿麻呂は、伏せの姿勢でひたすら待ち続ける。口からよだれが垂れているが、それでも健気に待ち続ける。
これは意地悪しているわけではなく、犬は群れ社会の動物で、下位のものが主を差し置いて先に獲物にありつくなどありえないからだ。
脚の味に満足した零次は、次は蟹味噌に取り掛かる。
巨大な蟹の甲羅焼きは、純度100%の蟹鍋の様相を呈していた。
今度は、フォークでなくスプーンで目玉の蟹味噌をすくいとり、一口。
「うーまーいーぞーーー!!!」
零次はシオマネキもどきの蟹味噌を口に含むと、濃縮された旨味が口の中ではじけ、思わず放たれた一声がこれである。
ヤシの実の殻を使った皿に蟹肉と蟹味噌を載せて、柿麻呂にも食べる許可を与える。
すぐさま、猛然と食べ始める柿麻呂を見ながら、零次は楽観だとは知りつつも、何とかなりそうだと思い始めた。
こうして、彼らの異世界生活が始まった。
エピローグクエスト リザルト
『水を確保せよ!』クリア ポカヤシの実を飲み????を取り込み、????を得た!
『新たな能力を駆使し敵を発見せよ!』クリア 固有能力の??により??の千里眼が発動。????の色眼がこの世界に適応して発動に成功しました。????の魔術は必要条件を満たせませんでした。????は地球と変わらない物理法則のため何も得られませんでした。
『初戦闘を乗り越えよ!』クリア 小鋸蟹を見事倒した。小鋸蟹の肉と蟹味噌を食べることにより、????を大きく得た!
誤字、脱字等ありましたら連絡くだされば助かります。
駄文ではありますが、少しでも楽しんでいただければ幸いです。
感想をいただければ、作者はモティさんかダルシムさんの踊りで喜びます。
それでは次回予告!
「柿麻呂、実はお前、犬耳娘だったんだ!」「なんだって!?」
驚愕の事実に驚くそこに現れる謎の男。
「話は聞かせてもらった、人類は(ry」
果たして犬耳より猫耳を出したほうが人気が取れるのか!?
次回「ア○ルーの逆襲(嘘)」乞うご期待。