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改造人間サーズデイ  作者: 古月むじな
Ⅰ:怒れる雷、嗤う風
5/66

5.Duel/力と勝利

『あああああああああああああッ!!』

 エイプル・ファーストは絶叫しながら、フォークを薙刀のように構えてサーズデイに突進してくる。

「当たるかよッ!」

 サーズデイは右腕でフォークをいなし、エイプル・ファーストの脇腹めがけて回し蹴りをした。

『――ィああッ!』

「なにッ!?」

 だが、エイプル・ファーストは飛び上がってそれを回避し、そこからさらにサーズデイを踏みつけるように飛び蹴った。

「ぐ…………ッ!」

 元は少女とはいえ、怪人化したことで体重も増大しているのだろう。体重の載った飛び蹴りはサーズデイにそれなりのダメージをもたらした。

「ケッ……ついさっきまでヘロヘロだったくせによ……!」

 サーズデイは咳き込みながらエイプル・ファーストを見る。彼女はサーズデイを蹴ったあとふわりと着地し、そのまま後ろに跳ねるようにサーズデイから距離を取っていた。

(パワーは強くねえが、俊敏さ、身軽さでそれをカバーするタイプ……ってところか?)

 パワーは間違いなくサーズデイが勝っているだろうが、問題はスピードだ。サーズデイは俊敏性はあまりないがその分他の怪人を凌駕するパワーを持っている。しかし、どんなに力が強かろうと、攻撃が当たらなければなんの意味もない。

「相性は悪い……が」

 サーズデイは胸部の石からハンマーを出現させ、呟く。

「その程度、どうにでもなるッ!」

『――ぁあぅッ!?』

 エイプル・ファーストはぎょっとして身を伏せた――サーズデイが取り出したハンマーを構えるわけでも振るうわけでもなく、その豪腕を思い切り振りかぶってエイプル・ファーストに投げつけたからだ。

『…………ぅ、あう……』

 ズグシャアアアアンッ! と背後でアスファルトが粉砕する音を聴き、避けたのが正解だったことを察する。あんなものを食らっていたら、怪人の身体でもただでは済まなかっただろう。

「ケッ……外れたか。ま、駄目で元々、当たりゃラッキーでやってみただけだしな……」

 エイプル・ファーストが避けたことに特に驚きもせず、サーズデイは平然と呟いた。

 驚いたのはエイプル・ファーストの方だった。この状況で彼は何故ハンマーを投げたのか?

 もし彼女が人語を話すことが出来たなら、サーズデイにこう問いかけたことだろう。

(何を――考えている?)

(何故わざわざ武器を捨てるような真似を――?)

「どうしたァ? かかってこいよ雌犬」

 サーズデイは呆然とするエイプル・ファーストを挑発する。

「てめえが動かねえならこっちから行くぜ――――!」

『!!』

 だんッ、と地を蹴り、サーズデイはエイプル・ファーストに突っ込んでいく。振りかざされた右手の狙いは彼女の胸部。エイプル・ファーストはとっさに後方へ飛び、回避する。

(速く、なっている……!?)

(これが武器を捨てた狙いか――!)

 わずかだが、サーズデイのスピードが明らかに速くなっていた。

 胸部に収納していたハンマーを手放したことで持っていたハンマーの重さがなくなり、その分身軽に動けるようになったのだろう。

(…………だが)

(まだ、私の方が速い――――!)

『――――ぅああああああッ!』

 エイプル・ファーストはサーズデイの右側に回り、フォークでサーズデイの脇腹を突き刺した。

「ッ…………!」

 今度はいなされることもなくしっかり命中し、フォークの切っ先はサーズデイの脇腹に沈み込んだ。しかし、怪人は人間のように血を流さない。傷口から流れ出るのはサーズデイの身体から剥がれ落ちた砂だった。

(よし――!)

 脇腹からフォークを引き抜き、再度サーズデイから離れようとしたエイプル・ファーストだったが、引き抜く前にフォークごと腕を捕まれた。

『………………!』

「ケッ――これでもう逃げられねーな?」

(しまっ――――)

「――らあッ!」

 サーズデイはエイプル・ファーストの身体を引き寄せ、彼女の腹部にヤクザキックした。

『…………が、ぁ…………!』

 エイプル・ファーストは腹に風穴を開けられたかのような痛みに呻き、後ずさった。

「倒れなかったか……意外に頑丈だな」

 脇腹に刺さっていたフォークを抜き、放り捨てながらサーズデイは言う。傷口からは未だ砂が流れ落ちているが、あまり痛みは感じていないらしい。

『………………』

「ケッ……駄目だな、傷が塞がらねえ。さっさと終わらせねーとまずそうだな……」

(効き目は薄い、か…………だが)

 エイプル・ファーストは素早くフォークを拾うと、またもサーズデイに向かっていく。

「ケッ! またかよッ!」

 サーズデイはフォークの切っ先を受け流し、さらに先ほど蹴ったばかりの彼女の腹部にアッパーカットする。しかしエイプル・ファーストはそれをすんでの所でかわし、フォークの柄でサーズデイの脇腹を打った。

「がァ…………!」

『――――あああああああああッ!』

 痛みに怯んだサーズデイの脇腹に、エイプル・ファーストはさらにフォークをくい込ませる。ざり、ざりざりざり、と石が擦られるような音を出し、傷口が広がっていく。

「ぐゥゥ…………ッ!」

 サーズデイは呻きながらエイプル・ファーストを振り払う。傷口を抉られたのがかなりのダメージになったのだろう、荒い息を吐きながら脇腹を押さえている。

『ハァ…………ハァ…………』

 一太刀報いたエイプル・ファーストの方も、先ほどのダメージが回復しきっておらず、万全とは言い難い状態だ。

(あと少し……あと少しなんだ……ッ!)

 あと一撃食らわせることが出来れば、サーズデイを戦闘不能に追い込める。そう自分を奮い立たせ、エイプル・ファーストはフォークを握り締める。

(だから動け……私の身体…………!)

『…………ああああああああああああああああッ!!』

 雄叫びを上げ、エイプル・ファーストは

サーズデイに突っ込んでいく。二度に渡る攻撃でサーズデイが弱っている今、彼を倒す絶好の機会だった。

「何度もッ…………食らうかァアアア!」

 サーズデイは避けるかと思いきや、脇腹を押さえたまま逆にエイプル・ファーストに向かって走り出した。

 傷口を押さえる手とは反対の拳を握り締め、振りかざしているのを見ると、どうやらサーズデイもこの一撃で勝負を決めたいようだった。

(互いに手負い――どちらかの攻撃が当たれば、それがそのまま決着となる)

(お前は確かに強い。私が二回、同じ箇所を狙わなければ与えられなかったダメージを、たった一回、しかも徒手でやってのけた)

(だが――)

(――――その攻撃も、当たらなければ意味がない!)

『ああああああああああああああああッ!!』

「らああああああああああああああああああッ!!」

 怪人たちの影が重なり――――


 ――――ドゴォッ!!


 勝負は、決着した。



(………………なん、で………………)

 地に伏したのはエイプル・ファーストだった。構えていたフォークは紙一重でサーズデイに当たらず、彼女が倒れるのと同時にからんと地面に転がった。

(……私の攻撃は当たらなかった…………でも……奴の攻撃も、当たっていないはずなのに…………!)

 エイプル・ファーストは確かにその目で見ていた。サーズデイの拳がエイプル・ファーストに当たる前に、彼女に攻撃が当たっていた。

「ケッ…………」

 サーズデイはエイプル・ファーストを跨ぎ、彼女の後ろにあった何かを拾い上げた。半分地面にめり込んでいたそれは、先ほどサーズデイが放り投げたはずのハンマーだった。

(そうだ……! 私は奴に殴られたんじゃない! 奴に攻撃しようとした瞬間、後ろから殴られたんだ……!)

 だが、しかし、どうして。当然だが、この場にはサーズデイとエイプル・ファーストの二人しかいない。たとえ誰かがいたとしても、怪人となって強化された彼女の聴力・嗅覚でその存在を察知できるはずだった。真後ろから殴ったのなら、尚更。

(どこかに仲間が潜んでいて、隙をついてあのハンマーを投擲した……? いや、それならそんな回りくどいことをせずとも、最初から二対一でやればいい……)

「…………磁石」

 ふと、サーズデイが呟いた。

「科学ってすげえよな――人工的に磁石が作れんだ。理屈はさっぱりわからねーが……」

(磁石…………?)

 エイプル・ファーストは見た。ハンマーを握るサーズデイの拳が微かに光り、火花を散らしているのを――そしてハンマーの大部分が、金属によって構成されているのを。

(……電気……磁石………………電磁石!)

(おそらく奴は電気を操る能力を持っていて……自らの拳を電磁石に変えた!)

(拳から磁力を発し、ハンマーを引き寄せ……前方しか注目していなかった私を、背後から奇襲した!)

(わざわざ走り出したのも……私ではなく、ハンマーに近づくためか!)

「ほとんど偶然だ――てめえがハンマーの前に立ってなかったら、こんな回りくどいこと考えもしなかっただろうな」

 サーズデイはうつ伏せに倒れていたエイプル・ファーストの身体を蹴って転がし、仰向けにして言った。

「だが過程はなんにしろ……オレの勝ちだ」

『………………』

 エイプル・ファーストは不意に、彼に何か言わなければならないことがあるような気がした。

「ケッ、これでやっと終わりだ……」

 サーズデイはエイプル・ファーストの傍らに屈むと、彼女の胸部の石を掴んだ。

『………………サーズデイ、さん』

「………………!」

 口に出して、ようやく思い出す。目の前の男の名前と、言わなければならないこと。

『ありがとう…………』

「…………………………ケッ!」

 サーズデイはその言葉に答えずに、エイプル・ファーストの石を砕いた。

 身体が崩れ落ちるような感覚を味わい、しかしそれにまったく恐怖を感じず、むしろ解放感に満たされながら――エイプル・ファーストの意識は消えた。



 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎



『……アノ子負ケチャッタネ』

『さーずでいニ負ケチャッタネ……』

『ドウスルノカナ、うぇんずでいサマ』

『「カワリ」ハイクラデモイル、ッテ言ッテタヨ?』

『ジャア、大丈夫ナノカナ』

『大丈夫ダヨ、タブン』

『………………ネエ、フギ』

『ナアニ? ムニ』

『ボクタチニモ……「カワリ」ッテイルノカナ?』

『…………ワカンナイ』

『イナイトイイネ、カワリ』

『ウン』

『……行コッカ。ソロソロ、うぇんずでいサマガ待ッテルヨ』

『ホントニ待ッテクレテルカナ……』

『待ッテクレテルヨ。うぇんずでいサマダヨ?』

『ウン、ソウダヨネ……』


The Trailer→


『やめろ…………兄さんッ!!』


「夢……だったの?」


「遠流君にうちに住んでもらおうと思う」


「障害ねー……やけにセンパイのこと高く買うんスね?」


「あいつは強い。だが、あたしの方が強い」


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6.Dusk/明暗インターバル

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