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西国の神  作者: あすかK
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3、エリック・コーエン軍曹

 卓上に積まれた膨大な量の書類は西の大国エウリア君主国の抱える全ての問題を明文化したものであり、一朝一夕に読み切れるものではない。それでも秘書のまとめた要点のみを抜き出して目を通し、くる日もくる日も政務をこなすことに明け暮れた。そのために国城の中にわざわざ彼のための書斎が置かれていることも、勲章の一つのようなものである。——今や西国エウリアにこの人ありと言われた国務参謀、彼の名を、ワイズ・レヴィンという。

 嵐のように巫女が彼の書斎を出て行ってから数分後、書斎の扉がノックされた。

「——参謀、セレスト・アンダーソンです。失礼致します」

 明瞭な断りの文句の後に続いて書斎の中へと入って来たのは、ストレートなブロンドの髪を結んだ色白の女であった。目付きは鋭く女とは思えないほどの覇気があり、どことなく近寄り難い雰囲気さえ醸し出している。怜悧な参謀と呼ばれたワイズの右腕が女性秘書であると聞いて人は驚くが、セレストは彼に負けず劣らずの気迫を醸し出す。彼女を見る人は皆、なるほど、と納得した。これがあの参謀の右腕か、と。

「午後の業務についての連絡に参りましたが——どうかなさいましたか」

 書斎に入って背筋を伸ばしたセレストは、書卓の前に仁王立ちになっているワイズを見て無表情のまま問いかけた。いつもならば、午後の業務の前の休憩時間と言えど書卓に向かって書類を眺めているワイズが、今日は書類を放って突っ立っている。その光景を妙に思ったのだろう。

 ワイズは軽く溜め息を吐くと、卓上に置いた書類を手に取って揃え、椅子に腰掛けた。

「ついさっきまで巫女君がいらしていてな……」

「ああ……先ほどちらりとそこの廊下で後ろ姿を拝見致しました」

 即座に返ってきた彼女の答えに、嘆息した。本来、巫女というのは国城の敷地内にある神殿の奥に篭っているものであり、外界にそうそう姿を現すものではない。彼女は神の使いであり、下界の人間が安易に交わることのできる身分ではないのだ。しかし、今代の巫女はあまりにも、気安すぎる。——とは言え、一度だって神に祈りを捧げたことのないワイズは、彼女と対等に話をすることに畏れを抱くこともないのであるが。

「それで——なんだ? 業務の話を聞こう」

 ワイズの一日は多忙だ。これ以上風変わりな巫女にかまけている暇はない。書卓の上に肘をついた体勢で秘書を見上げると、彼女も異論はないらしく、「はい」と答えて革製の手帳をめくった。

「まずは刑部の視察に始まりまして——」

 流暢にワイズの予定やそれに関する業務の内容、そして今日の仕事終わりの目標などをすらすら述べていくセレストは、出来た秘書である。

 依然として政治の舞台においては圧倒的に男尊女卑であるこの西国エウリアにおいて、国務参謀の秘書として活躍する彼女は異例の存在であった。中には、国務参謀であるワイズとその第一秘書であるセレストは恋仲なのではないかなどと低俗な妄想をする者もいたが、当然ワイズはやましい想いがあって彼女を秘書に起用したわけではない。彼女を起用した理由は能力の高さと、そして、決して業務に私情を挟まない冷厳な性格だ。

「——以上ですが、何かございますか?」

 全てを読み終えて手帳からはずされた彼女の目線は冷徹そのものだ。感情を押し殺したその視線は、先ほどまでこの書卓の向かい側から身を乗り出して来たあのお転婆巫女とは真逆のものであり、ワイズを安堵させる。

「最初は刑部の視察と言ったな。……その前に少し寄りたいところがあるのだが、時間に余裕はあるか?」

「多少ならば……しかし、なるべく早くお越しください。刑部の人間は時間に厳しい」

「わかっている。何人か秘書を先に行かせておけ。セレスト、お前はすぐに書類審査に戻るように」

「……仰せのままに」

 軽く頭を下げたセレストは、要件のみを述べてさっさと書斎を出て行った。彼女ならば、ワイズの望む通り、否、望む以上に仕事の結果を出すだろう。そう思えるほど、ワイズの彼女への信頼は篤い。

 さて、と誰もいなくなった書斎の中でワイズはゆっくり立ち上がった。これから、午後の業務が始まる。しかし、ワイズにはその前に果たさなくてはならない用があった。そしてそれは絶大な信頼を預ける第一秘書セレストにさえ報告していない秘密裏の用事だ。

「——と、いうわけだ。いつもの場所で落ち合うぞ」

 ワイズは誰もいない書斎の中で小さな声で囁いた。当然、誰もいない空間の中では、それを聞く人間もいないはずである。——が。

 西国エウリアの政治の面舵を握る国務参謀、ワイズ・レヴィンには、秘書とは異なる秘密裏の右腕がいた。それはどれほど有能な秘書にもこなせない不可思議な『力』でもって、彼の下した任務を遂行する。

 この世界には、「巫力」と呼ばれる奇妙な『力』が存在した。それは、誰にでも扱えるものではない。その『力』を扱うことは生まれつきの才能であり、大方の人間は『力』を所持していなかった。故に、ほとんどの人間はその『力』の存在さえ知らない。ワイズも、その男と出会うまでは、『力』の存在を知らなかった。

「俺も今からすぐに向かう。どうせお前は城のはずれの馬小屋で昼寝でもしているんだろう。すぐに来るように」

 ワイズは言って、書斎の施錠をして外に出た。傍から見れば、ワイズが独り言を零しているかのように見えることであろう。だがしかし、彼が零しているのは決して独り言ではない。——ワイズの隠れた右腕的存在であるその男には、『力』があるのだ。故に彼は、その場にいなくとも、ワイズの言葉を聞き取ることができる。

 ひんやりと空気の冷たい石の階段を下り、小間使いさえ利用しないような寂れた扉を開くと、狭い空洞に出た。此処は昔武器庫に使われていたのだというが、国城が広く改築され、ここが政殿になった際に武器が置かれることはなくなってしまったのだという。もう数十年も昔のことだ。

 今は誰にも使われていない忘れ去られたこの空間に気付き、利用しようとしたのは今のところ、ワイズのみであるようだった。その証拠に、ワイズは一度たりとも、この場所で右腕の男と密会する際に第三者と鉢合わせてしまうようなヘマをしていない。

 その埃っぽい忘れ去られた空間に立ったまま待つこと数分間、その男はすぐに現れた。石の階段を下ってきたワイズとは逆に、階段を上ってこの旧武器庫の中へと姿を現す。

 ぎぃ、という音をたててその扉が開くと、姿を見せたのは、無精髭を生やした中年の男であった。軍服を纏っており、彼が軍人であることは一目で明らかである。

「——相変わらず、人使いが荒いな、ワイズ」

 今や国政の主要人物であるワイズ・レヴィン参謀のことを名前で気軽に呼び捨てることができる人物など、限られていた。最高権威である皇帝や、巫女、あるいは彼と同等の権力を持つ政治的主要人物くらいなものである。当然、一介の軍人が呼び捨てにして良い立場にあるはずもない。

 だが、ワイズは少しも気になどしなかった。何故なら、この男とは、国務参謀になる前から、否、ワイズが国家試験を受けて官僚になる前からの付き合いだ。

 ワイズは自分よりわずかに背の高いその男を睨みつけ、僅かに笑った。

「お前はそのためにこの城の中にいるんだろう、エリック」

 その無精髭の軍人の名を、エリック・コーエンという。彼はこの西国エウリアの軍隊に勤務する軍人であった。その位は軍曹である。人は彼をコーエン軍曹と呼ぶ。



 ワイズがコーエンと出会ったのは、今から二十年以上も昔のことである。かつて親を失い、住んでいた家も失い、孤児として修道院に暮らしていたワイズの前に現れたコーエンは、一風変わっていた。あまりにも物事を知り過ぎているのである。それは、いわゆる学術的知識の豊富な「博識」とは異なる。彼は、他人のことをなんでも知っていた。誰がどこでどんな話をしていただとか、どこで誰と誰が乳繰りあっていただとか、そういった世の中の物事の全てである。一体どうしてそんなにも物知りなのかと一種の恐れさえ抱いたが、やがて、それが彼の持つ『力』なのだと知った。

 ——巫力、と言うらしい。俺は一度出会った人間ならば誰でも、どこにいても、そいつの会話を盗み聞きすることができるんだ。

 そう告白してきたコーエンはワイズよりも五つ年上で、当時十八かそこらであった。その『力』の所為で家族から気味悪がられて離縁され、ほぼ捨てられたような状態なのだと、今はこの町で一人暮らしなのだと笑ったその男に、ワイズは興味を抱き、同時に使えると思った。もしも自分がいずれ国政を握る立場になったならば、この男の『力』を使わない手はない、と。

 そしてそれから二十数年が過ぎ、全てはワイズの思惑通りに進んだ。故に、今この男はワイズの隠れた右腕として、この国城の中に潜んでいる。ワイズは人知れず、彼の『力』を国政のために利用していた。

「俺は今、厩の番で忙しかったんだぞ。それを急に呼び出したりして……」

「それは厩番にやらせておけばいいだろう。お前の仕事ではないはずだ」

「厩番が汗をかいたから着替えたいというんで一瞬代わってやってたのさ。あーあ、今度会った時に謝らなきゃならねえな」

 厩番と言えば、国城の中でも位の低い、下働きだ。そんな下働きとも仲良くしているらしいコーエンのそんなところは、二十年前から全く変わらない。

 誰とでもすぐに打ち解け親密になれる社交的な面を持ちながら、だがどうしても最後の一線を越えずに僅かな距離を置く。他者と懇意になりたいくせに、まるで己を知られることを恐れているかのような彼の他人との付き合い方は、間違いなく『力』の影響によるものなのだろう。

 まあそんなことはどうでもいい、とワイズは厩番の話は片付けて、早速会話を本題に変えた。わざわざこの多忙な時間に彼を呼び出したのには当然理由がある。さっさと本題を終わらせてワイズは仕事に戻らなくてはならない。

「頼んでおいた件はどうだ——内大臣一派と癒着している大司教はしぼれたか」

 本題は、これであった。——ワイズは、内大臣一派と修道院の癒着について、自分の力では探りきれないところを、この男に探るよう頼んでいたのである。

 内大臣一派と修道院との間には深い繋がりがあり、財源の提供に始まる後ろ暗いやりとりをしていることについては、ワイズも随分前より知っていた。だが、内大臣達も馬鹿ではない。そこまで匂わせておきながら、果たして具体的に彼らがどの大司教と繋がっているのか、具体的にどのくらいの財をどのくらいの頻度でもらい、どのような仕組みでそれが渡されているのか、何一つとして明らかにはしなかった。故に、彼らを捕えたくとも証拠がない。ワイズは長い間歯痒い思いをしてきた。

 そこで、重宝されるのが、コーエンの『力』である。彼の『力』を利用すれば、内大臣に一度どこかで会うだけで、内大臣の会話をどこからでも盗聴することができるようになるのだ。

「おう……昨日の夜かな、内大臣が自分の連絡役に話しているのを聞いた。お前が修道院破棄に乗り出すというのを聞いて、しばらく動きを控えようと言っていたぞ」

 コーエンはぼりぼりと寝癖のついた茶金の髪をかきながら、狭い武器庫の壁によりかかった。ワイズは片手で顎を撫でて、目を細める。

「そうするであろうことは予見済みだ……で、なにかわかったか?」

「奴らと手を結んでいるのは、都の修道院だ。今度大司教が神殿へ礼拝にくる時に伝言すると言っていたからな。国城内の神殿にちょくちょく来ているのは都の大司教くらいのものだろう。——恐らく、このエウリア君主国一大きな修道院、ケトロ修道院だ」

「ふむ……エウリア一有力な修道院だな」

「そう。だから今までも癒着の証拠をうまくもみ消してきたんだろう……それから面白い話を聞いたぞ。どうやら直接内大臣一派と交渉しているのはケトロ修道院だというが、賄賂を贈っているのはそことはまた別だという」

「ほう。それはどういうことだ?」

「なんでも、莫大な財を匿っておくにはケトロ修道院はあまりにも民衆に開かれすぎているらしい。だから、金銀財宝はどうやらケトロ修道院には置いていないのだそうだ」

「民衆に隠し通せないほどの財を修道院が抱えているというのか。笑止千万だな」

「それでその財は、別の場所……都の東端、東ケトロ大聖堂に隠してあるそうだ」

「ほお……大聖堂に?」

「そうだ」

「大聖堂こそ民衆が祈りを捧げにくる場所じゃないか。一体どこに財宝を隠しているというんだ」

「詳細はわからねえが、大聖堂には只人には立ち入ることを禁止された区画がたくさんあるからな。その只人禁制の区画に大量に隠しているんだろう」

「只人禁制の区画ということは、民が祈りを捧げる神の区画ということか。奴らは神の区画に裏金を隠していると……」

「そういうことになる」

「つまり、民衆は大司教が内大臣に贈り付けるために民衆から巻き上げた金に向かって、祈りを捧げているということだな。とんだお笑い種だ」

 ふんとワイズは冷笑した。ほら見たことか、という心地で胸が窮屈になる。やはり、祈りを聞き届ける神など存在しないのだ。あるのは、その裏に隠れた人間のどす黒い思惑ばかりである。神に縋って祈りを捧げたところで、馬鹿を見るのはこちらの方だ。結局、祈りは裏切られる。

 ワイズの冷たい笑みを見下ろして、コーエンは複雑に顔をしかめたが、すぐに元に戻ると彼をまっすぐ見据えた。

「今わかっているのは、これくらいだ。奴らも警戒しているからなかなか修道院のことは口にしない」

「なに、十分すぎるほどだ。これからケトロ修道院と東ケトロ大聖堂の周りを徹底的に洗い出す。お前は引き続き、内大臣一派の周りで盗聴をしていろ」

 ワイズはそう告げて、頬を撫でつつ僅かに考え込んだ。徹底的に洗い出すとは言え、相手はエウリア国一有力な修道院だ。そうそう簡単には尻尾を出すまい。うまくやらなければ、こっちが陥れられる可能性とてある。

 さてどうしたものか、と考え込んだワイズを見て、コーエンははあと溜め息を落とした。その聞こえよがしの溜め息に、思考が止まる。「なんだ?」とその無精髭を睨みつけると、彼は首を竦めた。

「いや……俺にはお前の思惑がよくわからん」

 コーエンはここにきて、そんなことを言う。ワイズの右腕として暗躍しながら、ワイズの会話も内大臣の会話もその『力』でもって盗聴しながら、尚思惑がわからないというのか。ワイズは思わず彼を睨みつけた。

「話を聞いていなかったのか。たったさっき巫女君に向けても丁寧な説明をしてやったはずだ。お前はあの時だって俺の会話を盗聴していただろう」

 他に用がなければ常に俺の会話を聞いていろ、というのはワイズから彼への命令であった。そうしておくことで、いつでも彼へ指令が下せるような体勢を取るためだ。するとコーエンは「聞いてはいたが」と眉根を寄せた。

「確かに、お前の政略的な思惑はわかるし、きちんと理解しているつもりだ」

「ならいい」

「だが俺には……お前自身が本当に何を思っているのかがわからない」

 どういうことだ、と今度はワイズが眉を寄せる番である。

「政略上の思惑が全てだ。他に思うことなどあるはずもない」

「そうか……?」

 コーエンは腑に落ちない様子であるが、とりあえず政略を理解しているのならば、それでいい。それ以上の理解は必要ない。

 ワイズはそう結論付け、「他に用はない。俺は行く」と狭い武器庫から外に出ようと動いた。動いた彼の背中に、コーエンがかける声は何かを案ずるかのように、不安定だ。

「ワイズ……民衆から神を奪って、どうするつもりなんだ?」

 政治の舞台でも、あるいは近しい周囲からも、散々聞き飽きたその問いに、いい加減嫌気が差す。ワイズは部屋を出ようと伸ばした手を振り下ろし、勢い良く振り返った。そして男を苛立ち露に睨み上げる。

「何度も言うが、俺は民から神を奪う気などない。政略で人の心から信仰を奪うことなど不可能だ。俺はただ、人の心につけ込んで裏金を集めるような輩を滅したいだけのこと」

 一見偽善にも聞こえるそれは、だが、ワイズの本心だ。どれほど救ってほしいと祈っても、神など実在しないのだ。ならば自らの手で、蓄えた知識と論理力で、人を救おうと思った。そのために絶えず勉学に励んできたのだ。そして皮肉にも人はそんな彼を、「神童」などと呼んだ。

「故に、俺には俺の持つ力の限りで、修道院を弾圧する。他に理由など必要か?」

 冷徹と呼ばれ、時に冷血漢とまで言われる所以は目付きの悪さである。ワイズがぎろりと目の前の男を睨むと、さすがに付き合いの長いこともあって怯みはしないものの、彼は困ったような顔をした。

「理由は、必要、ないな……だが、お前は……」

 コーエンは何かを言いかけて、しかし口を噤んだ。彼は壁に寄りかかっていた身を浮かせて、一歩こちらへ近付く。そして己を睨み上げてくる一国の参謀を見下ろして、失笑した。代わりにその口から出て来た言葉は、ワイズの予想だにしなかったものである。

「……大きくなったなぁ、ワイズ」

「——は?」

 自ずと、頓狂な声が漏れた。

 コーエンと出会った頃は、今から二十年以上も前、十二か十三になった年の頃である。確かにあれから二十年もの月日が流れて自分も彼も年を取ったわけではあるが、三十を越えて「大きくなった」などと言われるようなこともない。

 突然この男は何を言い出すのだと訝るワイズに、コーエンは寂しげに微笑む。

「強くなりたいと……泣いたお前だったのに。今となってはこの国においてお前は無敵だ」

 ——俺は、強くなりたい。

 確かに、そう言って涙したこともあった。だがしかし、もう今から二十年以上も昔のことだ。当時と同じように肩を労うように叩こうとするコーエンの手を振り払って、ワイズは低い声で答えた。

「そんな、昔のことは、忘れた」

 過去は、なるだけ振り返らないと決めたのだ。ワイズは強い意志でコーエンの言葉を突き返し、今度こそ武器庫の扉に手をかけた。

「話はそれだけだ。修道院の件、頼んだぞ」

 感情なくそうとだけ吐き出して、ワイズは武器庫の外へ出た。誰かに見られていては困るので、コーエンと一緒に出ることはない。そもそもあまり人通りのない場所故に、誰かに目撃されたことなど一度もないのであるが。

 ワイズは元来た道を辿って石階段を上へと上り、思った以上に時間を取ってしまったな、と悔やんだ。この後には刑部の視察が控えている。少し遅れるとは秘書に伝えておいたものの、大幅に遅刻するわけにはいかない。

 冷徹と言われたワイズ・レヴィン国務参謀は、今日もひたすら国務に、業務に励んだ。そこに私的な感情は発生しない。彼の動機はただ国のため、ただ人民のため、それだけである。

 西エウリア君主国の空に、まもなく太陽が南中しようとしていた。

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