可愛い後輩
AI生成イラストがありますが、文章にはAIを使用していません。
「先輩! 先輩!」
真新しい制服を着た犬耳が愛らしい小柄の女の子がパタパタと足音を立てながら駆け寄ってきて、これまた小さな可愛い手で俺の手を握ってくる。
思わずドキリとしてしまうが、彼女とはあくまで先輩と後輩の間柄だ。
不埒な事は考えてはいけない。
なので、努めて冷静に対応する。
「どうした?」
「あのね、先輩……」
頬を赤らめてモジモジしている姿に悶えそうになるが、気合でクールに振る舞う。
「おう、遠慮せずになんでも言ってみろ。俺はお前の先輩だからな」
俺がそう言った途端にパアっと表情がほころぶ。
ああくそ! なんて可愛いんだ!
「先輩、またお金貸してください!!」
途端に可愛くなくなった。
◆
俺の実家は帝国辺境の村にあり、物凄く貧乏だった。
なので、兄や姉達はみんな早くに街へ奉公に出て行ったのである。
そんな姿を見ていた俺は、とにかく貧乏から抜け出す事を考えていた。
村の古老から家の手伝いの合間に文字の読み書きを習い、村長の家や教会にある数少ない本を読破していった。
俺が十歳になった年、魔法使いの学者が村に一晩の寝床を求めて立ち寄った。
寝床を世話してもらったお礼なのか、村の子供達の魔法適正を鑑定してくれると言うので俺も鑑定してもらったのだが、百年に一度の天才との結果が出た。
両親はお世辞でも嬉しいと言っていたが、魔法使いの学者とやらは本気で俺に魔法を学ばせようと、帝都にある帝立魔導学校入学の推薦状まで書いてくれたのである。
両親は悩んでいた。俺を手放せば貴重な労働力が減るからだ。
だが、俺はこのチャンスを逃す訳にはいかない。
両親に俺が帝都に行けば口減らしにもなるし、向こうで成績優秀なら奨学金をもらえて仕送りができる。
その上、帝都で仕事を見つけて出世すれば、両親を帝都に呼び寄せる事だって可能だと説得した。
俺の熱意に負けたのか、それとも帝都の暮らしを夢見たのかは知らないが両親は首を縦に振る。
そんな訳で俺は魔法使いの学者に連れられて帝都に行った。
まあ、それからが大変だったけどな。
まともな初等教育を受けていなかったのだから。
俺が入学する予定の帝立魔導学校は十三歳からの中等部。それまでの間、魔法使いの学者から初等教育をこれでもかと詰め込まれた。
気づいたら高等部で習う座学まで詰め込まれてたし。
おかげで、高度な魔導理論などを学ぶ事ができて非常に有意義な時間を送る事ができたのである。
余談だが、座学の勉強と称して魔法使いの学者の論文の手伝いもさせられていたようだ。
衣食住の世話になってたし、文句は言えない。
無事に王立魔導学校中等部に入学した俺は、ある事に気付いた。
ずっと勉強漬けで同世代の子供達と交流をしてなかったのである。
衣食住を共にしていたのは、魔法使いの学者。しかもむさいオッサンだ。
これが美女や魔性のロリババアとやらだったら、幾分救われたのだろうが。
なので、すっかり同世代との付き合い方を忘れてしまった俺は立派なコミュ障となった。
成績だけはトップクラスなので、やっかみも相応にあったが、やられたらやり返す派なので、何度も倍返しをしていたら俺に近寄る者は誰もいなくなった。
もっとも、男女からも人気のある文武両道のイケメンが何故か俺の親友ポジションに収まっていたが。
まさかとは思うが『そっちの気』があるのだろうか。
女子の一部では、そういう物語が人気らしい……。
そんな学生生活であったが、中等部三年になると新入生を一人面倒を見る事になるのだ。
それは学校での振る舞い方だったり、勉学だったりと多岐にわたる。
俺の時も三年の先輩が付いたが、俺に教える事は何もないと早々に放置されてしまった。
俺の成績が優秀だったのと、コミュ障が災いしたのだろう。
という訳で、俺が面倒を見る事になったのは犬耳の獣人の女子だった。
小柄で可愛らしかったので、思わず面食らってしまう。
こういうのって、普通は同性なんじゃないかと疑問に思ったのだが理由はすぐに分かった。
帝都では一般的に獣人は肉体労働に従事している。
こうして学校で学ぶ獣人は、相当にレアなのだ。
差別とまではいかないが彼女の扱いに皆が戸惑って持て余した挙句、俺に押し付けたらしい。
自慢じゃないが、俺は中等部を首席で卒業する予定である。
ならば、この子にみっちり勉強を教えてやるとするか。内申点を稼いで奨学金をアップさせてやる!
顔合わせの翌日、校庭で俺は彼女の得意分野と不得意分野を確認する事にした。
「よし、後輩よ。君の得意分野は何かね?」
「はい! 私は攻撃魔法が得意です!」
「ほほう、俺もそこそこ得意だぞ。四元素魔法も既に高等部クラスのをマスターしている」
「先輩凄いですね! 私は重力魔法しか使えなくて……」
「重力魔法……」
ちょっと待て。
それは失われたと言われる古代魔法じゃないのか?
「よし、その重力魔法とやらを見せてくれ」
「はい!」
攻撃魔法の練習台として、ゴーレムを数体用意する。
ゴーレム生成もお手の物なのだ。
「いきます! 星の全ては我に我の全ては星に、森羅万象全てを星の御霊に捧げよ! グラビティファング!!」
俺の作ったゴーレム達が容赦なく押し潰されていく。
念のためにアダマンタイト並みの硬度にしておいたのだが、粘土細工のようにひしゃげて潰された。
「…………」
なんだよこれ。
俺も攻撃魔法にはかなりの自信があった。
なんたって百年に一人の逸材だぞ。
そんな俺が足元にも及ばない圧倒的破壊力だ。そりゃみんな持て余すわな。
ゴーレムは跡形もなくなり、校庭に巨大なクレーターができていて、何ごとかと周囲に人が集まってきていた。
「えへへ……どうですか?」
「君、凄いな……俺では到底敵わない」
悔しいけど負けを認めるしかない。
ここで自分より可能性のある後輩潰しを考える程にはクズじゃない。
「で、でも、私はこれしかできなくて……勉強とかサッパリなんです! 一芸入試というやつです!」
急にわたわたし出して、慌てている姿がなんかおかしかった。
そうだな。ここは俺も学ばせてもらう気持ちで向かいますか。
「じゃあさ、君の重力魔法ってのを俺に教えてよ。その代わり、勉強とか色々教えるから」
「本当ですか!?」
その時であった。
後輩のお腹が盛大に鳴ったのである。
「ええっと、私の魔法は燃費が悪くて……」
燃費で片づけられる話なのだろうか。
それから本格的に後輩の面倒を見てやる立場になった。
勉強ができないというのは誇張でなくて、相当にやばかったけど。
そんな訳で、冒頭に戻る。
「先輩、お金貸してください!」
「…………」
先週も貸した気がするし、貸した金は返してもらってない。まあ、奨学金をもらってるので大した金額じゃないのだが。
後輩は育ち盛りで、買い食いが止められないらしい。
結局は俺も甘やかしてしまうのがいけないんだけどな……。
それから俺は高等部に進学し、後輩も追い掛けるように高等部に進学してきた。
月日が経ち、俺は難関で有名な学府への進学が決まった。
これで念願の帝都で職を得る第一歩になるはずだ。俺の成績だと学府でも奨学金を得られる予定であるので、実家への仕送りも続けられる。
その実家では俺の仕送りで生活が楽になったのか、知らないうちに弟と妹ができていたし。両親もいい歳して何をやってるのやら。
それはさておき、高等部の卒業式当日、例の後輩がいつもみたいにやってきて俺の手を握る。
最初は小さかった手もすっかり成長し、背丈も伸びて女性らしくなった。
……おっと、後輩をそんな目で見てはいけないな。
「先輩、卒業&進学おめでとうございます!」
「ああ。これからは頻繁に会えなくなるな」
「はい……なので、今日は先輩に伝えたい事があるんです!」
「な、なんだ?」
伝えたい事……。
もしかしたら、告白されるんじやないか!?
だけど、俺達は先輩後輩という立場をずっと守ってきたはずだ。
そんな事が許されるのか!?
いや、許されてもいいよな!!
なんたって、卒業だし!!
寂しかった学生生活も一転、これから俺もリア充の仲間入りだぜ!!
「それでですね、先輩……」
「ああ……」
手を握りながらそんな上目遣いをしないでくれ!
理性を保つのがつらい!!
「今まで借りてたお金、全部チャラにしてくれませんか?」
「ですよねー」
なんて言うわけないだろ、こんちくしょう!
どんだけ買い食いに付き合ってやったと思ってるんだよ!!
というか、俺も毎回バカみたいにおごってるんじゃねえよ!!
「そっか、それは仕方ないなあ。あはははー」
「やっぱり先輩は優しいですね!」
可愛い後輩にガツンと言えない俺である。
なんだかんだで、俺も後輩の存在には随分と救われたのだ。
テスト前の勉強会や学祭を一緒に回ったり。今思うと俺の学生生活が後輩と共にあった。
その後、後輩は猛勉強して学府に進学して俺を追いかけてきた。
買い食いのために金を借りに来るのが目的という、なんとも恐ろしい理由である。
結局色々あって後輩と付き合う事になり、今は不動産屋で後輩と一緒に暮らす新居探しをしている。
中等部からの付き合いだったイケメン親友枠からは、『どんだけ付き合うまでに時間かけてるの!?』とマジで驚かれたのは心外だ。
「先輩、今まで散々お世話になったからここは私がお金を出しますね」
「いや流石に買い食いレベルの金額じゃないだろ……」
「私、冒険者としてもそこそこ名が売れてて、結構稼いでるんですよ? これも先輩が色々教えてくれたおかげです!」
「お、おう……」
可愛い後輩を甘やかしていたら、逆に甘やかされる立場になったらしい。




