第二部 第26話 新しい名前
無言聖域
第二部 門戸温泉郷編
ここまで読んでいただきありがとうございます。
今回の第26話では、崩壊した世界から逃れてきた「白竜」が、本当の意味で門戸温泉郷へ迎え入れられることになります。
世界を失った者。
名前を失った者。
帰る場所をなくした者。
門戸温泉郷には、そんな存在達も少しずつ集まり始めています。
そして今回、「新しい名前」を得ることは、新しい居場所を得ることでもあります。
作品の設定や登場人物については、作者ブログでも少しずつ整理しています。
https://applebrother.wordpress.com/
『小料理屋 未唯』の店内。
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さっきまで。
世界崩壊存在がいたとは思えないほど。
普通だった。
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ジェットが「よう!」と言いながら入ってくる。
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「終わった終わった」
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ココアが聞く。
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「終わったの?」
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ジェットがうなずく。
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「終わった」
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「だから入ってきた」
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市役所側が止まる。
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「終わったの基準が怖い」
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その後ろ。
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白い髪。
透き通る瞳。
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美しい少女が一緒に入ってきた。
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だが。
空気は人ではない。
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市役所職員が恐る恐る聞く。
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「……どちら様で?」
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少女は真顔で答えた。
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「われは白竜だ」
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見た目は美少女。
なのに。
喋り方がまるで古竜だった。
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声は綺麗なのに。
圧がすごい。
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ココアが笑う。
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「その喋り方面白いよね!」
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白竜は少し考えた。
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「長く生きているのでな」
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市役所側が止まる。
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「認めるんだ……」
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ジェットが椅子へ座る。
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「そういえば」
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「名前聞いてないな」
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その瞬間。
白竜が静かになった。
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店内も少し静かになる。
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白竜は小さく言った。
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「……名はあった」
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少し間。
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「だが」
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視線が落ちる。
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「我らの世界が崩壊した今」
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「その名は」
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「我にとって恥であろう」
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空気が静かになる。
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誰も軽く返せなかった。
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白竜は続けた。
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「新たな名を」
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「くれぬか」
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ココアが止まる。
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未唯も止まる。
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ジェットが「おぉ」と言う。
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吉見が小さくつぶやく。
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「重い話だった」
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山城もうなずく。
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「なのに今から命名大会始まる空気」
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ココアが真っ先に手を上げる。
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「はい!!」
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「シロちゃん!!」
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「嫌だ」
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即答だった。
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市役所側が吹き出す。
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マロくんが笑う。
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「はやい」
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いっちゃんが小さく言った。
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「却下最速」
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未唯が真剣に考える。
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「うーん……」
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「ハク?」
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白竜が少し止まる。
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「……ハク」
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口の中で転がすように言う。
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玲桜が静かに言った。
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「白」
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「こちら側では」
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「始まりにも使われる音です」
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空気が少し変わる。
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白竜が玲桜を見る。
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玲桜は静かだった。
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「新しい名前としては悪くないかと」
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ココアが笑顔になる。
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「ハクだ!」
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ジェットもうなずく。
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「似合うじゃん」
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白竜――いや。
ハクは少し黙った。
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そして。
小さく目を閉じる。
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「……そうか」
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静かな声。
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だが。
どこか嬉しそうだった。
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「では」
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ゆっくり顔を上げる。
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「今日より我は」
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「ハクだ」
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その瞬間。
温泉街の外で。
風が優しく揺れた。
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まるで。
世界樹が受け入れたみたいに。
第二部第26話を読んでいただきありがとうございました。
今回は、白竜が「ハク」という新しい名前を得る回になりました。
これまでの名前は、滅びた世界と共にある名前。
だからこそ、新しい世界で生きるために、新しい名前を求めています。
また、未唯が自然に名前を口にし、それを玲桜が静かに受け入れる流れも、“こちら側”らしい空気になっています。
門戸温泉郷では、「帰れなくなった者」も少なくありません。
ですが、ここではただ保護されるだけではなく、“新しい居場所”と“新しい名前”を得て、もう一度生き直していくことができます。
そして世界樹もまた、そんな存在達を少しずつ受け入れ始めています。
ブログでも世界観や登場人物について整理していますので、よろしければそちらもご覧ください。
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