序章 クリスマスの願い
私は漫画「キャプテン翼」が大好きなんです。もし自分で小説を書くなら、サッカーの要素を盛り込みたいと思っていました。
いわゆる「リアル・サッカー物」ではありませんが、「キャプつば愛」は込めたつもりです。
ぜひお付き合い頂けたら幸いです。
あと、年の差恋愛・ラブコメの物語が好きな方もぜひ。
※追伸
最初から読んで頂けたら嬉しいのですが、三つ目のエピソード、「安輝野春那編」からでも大丈夫です。
ここからラブコメ展開とサッカーが絡んできますので、楽しんで頂きたいです。
二〇〇八年十二月二十五日、深夜のクリスマス。
五階建ての市民病院の屋上。霧師希 足人 (きりしきあしと)はそこにいた。
灰色のスラックスをはき、上半身は白の長袖カッターシャツ一枚。
コートなどの上着は着ていない。
彼はこの格好で、呆然としながらやってきた。両膝を地面につけ、両手を重ねて握り、
その手に頭を付けて、目を閉じた。いわゆる「祈りの姿勢」だ。
手の先・足の先はかじかんでくる。寒くて、震えが止まらない。
それでも霧師希は、声に出して願っていた。心の中で願っても、意味も効果も無いと思っていた。
お願いをしている相手が神様かどうかは知らないが、必死に懇願を続けている。
「お願いだ、ハルを助けてほしい。あの子、まだ七歳なんだ」
目を閉じていた霧師希だったが、ゆっくりまぶたを開き、うるんだ目で夜空を見上げた。
「僕の寿命をハルにあげてほしい。僕は今、三十三歳。
八十まで生きるとしたら…残りは四十七年。それをハルにあげられないかな?」
もう一度目を閉じて、うつむいた。
「お願いだから、頼むから、ハルを助けてあげて」
何度もそれを願った。屋上にきて、もう一時間くらい経ったのだろうか?
体の感覚は薄れ、意識も遠のき始めたその時、背後から肩をつかまれた。
「霧師希!」
肩をつかんだのはハルの父親、安輝野 兼心だった。
「霧師希、もちなおしたよ…」
そう言ったのは、兼心の後ろにいたハルの母親、
安輝野 那惟子の声だった。
二人の言葉と雰囲気で、霧師希は察した。
「じゃあ…」
兼信は、霧師希の肩をポンと叩いた。
「下に戻ろう」
その一言で、霧師希はガクッと力が抜けていくのだった。
●
病院の二階にある集中治療室の前。長椅子に那惟子・兼心・霧師希の順に座っている。
霧師希はハルの病室に置きっぱなしにしていたコート持ち出し、着ていた。
そして、体中をさすっていた。まだまだ体の冷えは消えそうにない。
兼心は両足を前に投げ出し、後ろの壁にぐったりともたれ掛けて言った。
「本当に今度は…、と思ってしまったよ」
那惟子はうつむき、両手に持ったハンカチをモジモジといじりながら言った。
「先生が何度も出入りして、その度に私達の顔をチラッと見るんだから。
何かを言おうとしているのかって、怖かったわ」
今度は兼心が、首だけを霧師希に向けて言った。
「先生が大丈夫です、と言ってくれて、俺たち抱き合って喜んだんだよ。
そしたらさ、お前いないんだから」
兼心の話に、那惟子はクスリと笑った。
霧師希がこの場を離れた事に、安輝野夫婦は気づかなかった。娘の危篤と聞かされて、
二人は集中治療室の前で呆然としていた。
霧師希は屋上へと向かい、祈っていた。祈ったと言えば聞こえは良いが、この場にいる事に耐えられなかったのかもしれない。
「二人で病院中探したんだからね」
那惟子はニコリとして顔を向け、霧師希に言った。
「あ、すいません」
霧師希はペコッと少し頭を下げた。すると、兼心が言った。
「でも、嬉しかったぞ」
那惟子も同意した。
「うん」
霧師希には、何が嬉しいのかが分からなかった。
「何がです?」
「お前、屋上で祈ってくれてたんだろ? 『ハルを助けてほしい』って、言ってたよな」
兼心の言葉の後に、那惟子も言った。
「嬉しかったよ。ありがとうね。ハルが持ち直したの、霧師希のおかげかもね」
霧師希はうつむき、恥ずかしそうにつぶやいた。
「いえ…。お二人と医者の力です」
「ハルにも教えてあげないとね、すごく喜ぶだろうし」
那惟子が兼心に向かってそう言うと、
「ああ、そうだな。笑うかもしれないけど」
小声で談笑している二人に向かって、霧師希も小声で訴えた。
「ちょっ、ちょっと、ハルに言うのは勘弁してください。恥ずかしいんで」
兼心は言った。
「この三年、本当に頑張ってくれてるよな。感謝してるよ」
那惟子も深くうなずいた。
顔を赤らめた霧師希は、二人とは逆の方向に顔を向けた。
「いや、もう本当に勘弁してください」
そんな霧師希の姿に、二人は顔を見合わせて、クスッと笑った。
那惟子は何かを思い出したかのように聞いた。
「ねえ霧師希、屋上では何にお願いしてたの? 神様?」
「違いますよ」
「じゃあサンタクロース? クリスマスだし」
「サンタに『病気を治して』なんて言いませんよ。違います」
「じゃあ何よ?」
「ま、いいでしょ」
こうして安輝野一家三人と、霧師希足人のクリスマスは終えるのだった。
霧師希足人編に続きます。




