第34話:繋がりゆく縁と影
夜が明け、織田家の城は静けさを取り戻していた。
だが、その静けさの裏では、緊張が消えてはいなかった。
信長の命を狙った刺客の存在。
その背後に誰がいるのか——
それを探るべく、城内は静かに、しかし確実に動き出していた。
⸻
大広間——。
「殿、城内の要所要所に兵を配置しました。内通者がいるとすれば、次は動きが出るはず」
勝家の報告に、信長は頷いた。
「うむ。加賀美黎士——あやつの狙いは、未だ読めぬ。だが、悠真を狙って動く可能性もある」
利家が少しだけ驚いた表情を見せる。
「神谷殿を……狙うと?」
「そうだ。儂の命を狙いながら、あやつは同時に悠真の存在を危険視しておろう。未来を知る者か、あるいはそれに等しい知識を持つ男と見たのかもしれぬ」
利家と勝家は顔を見合わせ、頷いた。
⸻
一方、悠真は自室で静かに休んでいた。
肩の傷はまだ痛むものの、応急手当は済んでおり、日常の動きは問題ない状態だった。
そこに、そっと訪れたのはお市様だった。
「神谷様……お加減はいかがですか?」
「お市様……わざわざ、ありがとうございます。大丈夫です。少し痛みはありますが」
お市様は、彼の元に小さな包みを差し出す。
「こちら……傷によいと聞きました薬草を煎じたものです。侍女に教えてもらって……」
悠真は驚きと共に、その優しさに心を打たれる。
「……本当にありがとうございます。お市様」
お市様は少しだけ俯きながら、静かに呟いた。
「……あの時、本当に怖かったのです。神谷様が、いなくなってしまうのではないかと……」
その言葉に、悠真は胸の奥が熱くなるのを感じた。
(俺は、この時代で……確かに必要とされている)
⸻
一方——
加賀美黎士は、城下のさらに奥、闇の中で動いていた。
「そろそろ仕掛けるとしよう。信長の周囲は固い。ならば……外から揺さぶるのが最善だ」
河合吉統が静かに頭を垂れる。
「どの勢力に接触を?」
「……浅井か、六角か……いや、あるいは今川残党。信長の敵は、探せばいくらでもいる」
加賀美は笑った。
「歴史は動く。だが、動かすのはいつだって——外からだ」
その瞳は、次なる陰謀への熱を帯びていた。
⸻
その夜——
信長は悠真を呼び寄せ、静かに言葉を掛けた。
「神谷……そなたはもう、我が織田家の客将として扱う。名を連ね、今後は戦にも名を出して動け」
悠真はその言葉に、深く頭を下げる。
「はっ……この身、信長様の御為に尽力いたします」
信長は微かに笑みを浮かべた。
「……お市も、心配しておったぞ」
その言葉に、悠真は思わず顔を赤らめた。
(……この世界で、俺は……生きていく)
彼の胸に、静かな決意が宿っていた。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
作品への感想や評価、お気に入り登録をしていただけると、とても励みになります。
作者にとって、皆さまの声や応援が一番の力になります。
「面白かった!」「続きが気になる!」など、ちょっとした一言でも大歓迎です。
気軽にコメントいただけると嬉しいです!
今後も楽しんでいただけるように執筆を続けていきますので、よろしくお願いします。




