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第31話:新たな決意、揺れる想い

 火事騒動の翌朝、織田家の本丸には緊張感が漂っていた。

 城下での混乱を受け、信長は早朝から軍議を開いていた。


「今回の火付け騒動、背後に何者かがいるのは間違いない」


 信長は静かに言い放つ。

 その声に、勝家・利家・秀吉らが一斉に身を正した。


「捕えた者たちは口を割らぬか?」


「はい、殿。誰からの指示かは不明。ただの今川残党とは考えにくうございます」


 勝家の報告に、信長は思案する。


「加賀美黎士……あやつが関わっている可能性が高い」


 悠真もまた、軍議の場に控えていた。

 自分が戦国の混乱の只中にいることを改めて実感する。


(ここでは、誰もが命を賭けて生きている)


 信長は悠真に視線を向けた。


「神谷、おぬしの働き、確かに見届けた。……今後は城内の要としても動いてもらう」


「はっ!」


 悠真は背筋を伸ばして頭を下げた。


(俺に……この時代の何ができる?)


 不安と決意が胸をよぎる。



 軍議の後——。


 悠真は城の廊下を歩いていた。

 そこに、そっと現れたのはお市様だった。


「神谷様……お怪我は、ありませんか?」


「お市様……ご心配をおかけしました」


 二人は自然と歩調を合わせ、庭の縁側まで進む。


 お市様は何かを大事そうに持っていた。

 小さな巾着袋だ。


「これ……城下の者たちが作った干し柿と、少しばかりの甘味です。

 戦で疲れた体に良いと聞きました」


「ありがとうございます……いただきます」


 悠真は笑みを浮かべ、受け取る。

 お市様は、少しだけ俯きながら、呟いた。


「……神谷様は、きっとこの国を変えてしまう方かもしれません」


「え?」


「兄上がそうおっしゃっていました。

 “神谷悠真という男は、ただの客将ではない”と」


 悠真は胸の奥がざわついた。

 その時——。


「神谷殿!」


 利家の声が飛んできた。


「殿がお呼びだ。急ぎ大広間へ!」


「はっ!」


 悠真はお市様に一礼し、その場を後にした。



 一方、城の裏手——。


 加賀美黎士は、密かに動き出していた。

 彼の前には河合吉統かわい よしのりの姿がある。


「信長も神谷も……面白い動きを見せてくれる」


「次は、どう動かしますか?」


「そうだな……そろそろ“外”の武将たちとも接触を始めるとしよう」


 加賀美はゆっくりと笑みを浮かべた。


「歴史は動く——私の手で、な」



 その夜——。


 信長は悠真と二人きりで話していた。


「神谷よ。この国はいずれ、力だけでは統べられぬ時代が来る。

 民の心を掴む者が、真の覇者となる」


 悠真はその言葉に静かに頷いた。


「俺にできることがあれば、信長様の力になります」


 信長は薄く笑い、窓の外を見上げた。


「この乱世で生き抜くには……己を信じ、道を切り開くしかあるまい」


 その横顔は、未来を見据える者のものだった。


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