第30話:戦国の現実、揺れる城下
朝靄の残る城下町に、突如として黒煙が立ち上った。民家の一角から火の手が上がり、炎は瞬く間に周囲へと燃え広がっていく。驚きと恐怖に包まれた町人たちが、悲鳴を上げながら右往左往する。
その報せは、すぐさま城内へと届いた。
「殿! 城下で火災が発生し、延焼の恐れがございます!」
急報を受けた信長は、即座に指示を下す。
「至急、鎮火の手配をせよ。兵を派遣し、町人たちの避難誘導も怠るな」
その場に居合わせた悠真は、一歩前に進み出た。
「信長様、私も城下へ向かわせてください」
信長は悠真を見据え、静かに頷く。
「頼んだぞ、神谷」
「はっ!」
悠真は一礼し、足早に大広間を後にした。
その様子を、廊下の陰からお市が心配そうに見つめていた。
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城下町は混乱の渦中にあった。炎は容赦なく家々を呑み込み、人々は泣き叫びながら逃げ惑っている。悠真は現場に駆けつけると、すぐさま近くの町人に声をかけた。
「井戸はどこだ!? 水を汲んで消火活動を手伝ってくれ!」
町人たちは一瞬戸惑ったものの、悠真の必死の形相に押され、次々と動き出す。悠真自身も桶を手に取り、井戸水を汲んでは火元へと駆け寄り、炎に立ち向かった。
しかし、火の勢いは凄まじく、人手も水も圧倒的に足りない。悠真は歯噛みしながらも、諦めずに声を張り上げた。
「負けるな! 皆で力を合わせれば、きっと火は消せる!」
その時、背後から力強い声が響いた。
「神谷殿、援軍到着でござる!」
振り向けば、利家が兵を率いて駆けつけていた。その隣には勝家の姿もある。
「遅くなったな。さあ、総力を挙げて火を鎮めるぞ!」
兵たちは迅速に配置につき、消火活動と避難誘導を開始した。悠真も彼らと連携し、必死に炎と戦い続ける。
やがて、数時間に及ぶ奮闘の末、ようやく火勢は衰え、鎮火に成功した。しかし、焼け落ちた家々と疲弊しきった人々の姿が、戦国の現実を痛烈に物語っていた。
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城内の一室。お市は窓辺に佇み、遠く城下の方角を見つめていた。心配そうな表情を浮かべる彼女に、侍女がそっと声をかける。
「お市様、神谷様が無事に戻られたとのことです」
その言葉に、お市の表情がぱっと明るくなる。
「本当に……? よかった……」
胸を撫で下ろしながらも、彼女の心には新たな感情が芽生えていた。それが何なのか、まだはっきりとは分からない。ただ、悠真の存在が自分の中で大きくなっていることだけは確かだった。
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夕刻、悠真は信長の前に呼ばれていた。彼の報告を静かに聞いた信長は、しばし沈黙した後、口を開いた。
「ご苦労であった。そなたの働き、しかと見届けたぞ」
「恐れ入ります」
信長は立ち上がり、窓の外を眺めながら続ける。
「この国は、今まさに大きな変革の時を迎えている。力だけではなく、知恵と人の心が試される時代が来るであろう」
悠真はその言葉の重みを感じ取り、深く頷いた。
「私も、その変革の一助となれるよう努めます」
信長は微笑を浮かべ、悠真の肩に手を置く。
「共に、新たな時代を築こうではないか」
「はっ!」
二人の間に、確かな信頼と決意が芽生えていた。
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その夜、城下の暗がりに佇む影があった。加賀美黎士。彼は静かに微笑みながら、遠く城を見上げていた。
「面白くなってきたな、神谷悠真。次はどんな手を打ってくる?」
彼の瞳には、次なる策謀への期待と興奮が滲んでいた。
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