第2話:炎の戦場
目の前で、火のついた矢が飛び交っていた。
これが、戦——。そう認識するまでに、数秒かかった。神谷悠真は、地面に伏せたまま身動きが取れずにいた。
「こいつ、どこの兵だ!? 見たことのねえ格好してやがる!」
「間者か!? いや、様子がおかしい!」
兵士たちが悠真を囲む。見知らぬ服装、見知らぬ顔。当然といえば当然だ。
「違う、違うんです俺は……!」
言葉を紡ぐ暇すらなかった。誰かが槍を構えたそのとき——
「待て」
威厳ある一声が戦場に響いた。兵たちの動きが止まる。
その人物が、馬に乗って現れたとき、悠真の脳が一瞬だけフリーズした。
(まさか……いや、あり得ない。でも……!)
堂々とした風格、鋭い目つき、背中で風を切るような威圧感。
「それほどに震えている間者がいるか。——面白い。連れてこい」
——織田信長。
戦国時代の“魔王”と称された男が、神谷悠真の命を救った。
その後、悠真は織田の陣へと連れて行かれた。粗末な小屋の一角に押し込まれ、兵に囲まれた状態で膝をつく。
(どうしてこうなった……いや、俺が……あの巻物を開いたから……)
頭の中で状況を整理しようとしても、現実感が追いつかない。けれど——自分が今、過去に来てしまっていることは確かだった。
「名を名乗れ」
目の前に現れた信長が言う。兵たちの視線も鋭い。逃げ場は、ない。
「……神谷、悠真です」
震える声で名乗る。信長は、ふむ、と一つだけ頷いた。
「よいか、神谷とやら。お主が敵でない証を、我に見せてみよ」
(これは、信長は俺のことを試しているんだ)
悠真は拳を握りしめた。そうだ。歴史を守らなきゃ、帰れない——!