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第1話:巻物と転移

 ——空気が、変わった。


 地面を掘っていた手が止まり、神谷悠真かみや ゆうまは息を呑んだ。地面の奥から現れたそれは、まるで時間に取り残されたような古びた木箱だった。


「な……これ、本物か?」


 歴史研究部の合宿で訪れた郷土資料館の裏山。発掘体験の一環として軽く掘っていたはずの土の中に、埋もれていたのは時代がかった、けれど異様な存在感を放つ箱。


 恐る恐る蓋を開けると、中には巻物が一つ。封印のような結び目がされ、表面には見たこともない文字が刻まれていた。


(戦国時代の……いや、これはもっと古い……?)


 歴史好きの血が騒ぐ。目の前のものがただ事でないと直感した悠真は、周囲に誰もいないことを確かめてから、静かに巻物を広げた。


 その瞬間——世界が、ひっくり返った。


 眩しい光。耳をつんざくような風の音。視界がぐるりと反転し、足元の感覚が消える。


「う、わ……っ!?」


 気づいたとき、悠真は草原の真ん中に立っていた。山も、資料館も、仲間もいない。


 あるのは、異様な静けさ。そして、遠くから聞こえてくる太鼓の音と、人々の怒声。


「……どこだ、ここ……?」


 そうつぶやいた直後、背後から甲冑を着た男たちが駆けてきた。槍を構え、こちらに向かってくる。


「お、おい待て、違——っ!」


 走り出す。訳も分からず、とにかく逃げた。だが体は重く、慣れない草地に足を取られ、やがて転倒する。


 目の前に、槍の切っ先が突きつけられる。


「こやつ、何者だ!」


「服装が妙だぞ、間者か!」


 周囲を囲まれ、悠真はようやく悟った。


 ——自分は、本当に過去へ来てしまったのだ。

 そしてここは、紛れもなく戦国時代。


 だが、これは始まりに過ぎなかった。


(落ち着け……これは、歴史を変えたら帰れなくなるんだろ? 俺が……やるしかない)

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