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HAMA/Legend Dimension  作者: わらびもち
第二章 魔界・ミスロン国
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心地良し

 ーー「ここ、座って。」


 セリアはソファに座って隣をポンポンと叩いて言った。おれはそれに従いセリアの隣に座る。セリアはおれの肩に頭を乗せて、静かに話しかけてきた。なんか距離が近いな。……まぁ嬉しいけど。


 ーー「……雰囲気変わったわね。昇華したからかしら……?背も大きくなっちゃって……。」


 ーー「セリアだって大人っぽくなってるよ。……昔と変わらず可愛いけどね。」


 ーー「…….なんですぐに会いにきてくれなかったの…?」


 ーー「いやね……死ぬつもりで色々話した後にさ、すぐ会ったら恥ずかしいだろ?」


 ーー「ふふっ……それもそうね。」


 ーー「まぁちょっとしたら会いに行こうと思ってたんだけど……思ったより時間が経ってたんだ。……そこは本当にゴメンよ。」


 ーー「……でも確かに、エストがいなかったからこの2年で私も強くなれたからね。……でも……もう二度と待たせないでよ。」


 ーー「もちろんだよ。」


 静かな空間で、セリアが質問しておれが答える。ただそれだけの時間だった。特に何でもない、けれど心の底から求めていた時間。心地の良い空間だった。ほんの2〜3分の間だったけれど、もっと長く、何十分も話していたような感覚であった。


 ーー「おーい。セリア、入るぞー!」


 久しぶりに聞く声がしたと思うと、扉が開いた。おれはセリアの頭を肩に乗せたまま視線をそちらに向けた。おれと目が合うと、彼はびっくりしたように目を見開いた。


 ーー「………儂は疲れてるのかもな……。」


 ーー「久しぶりだな。……ホント……久しぶり。」


 ーー「エスト……お前…………」


 ーー「エスト様ーー!!!生きていらしたとは………。」


 ーー「うわッ!うるせー!ッてか鼻水つけんな!!」


 グラの言葉を遮るように、デモンゲートが騒いで飛びかかってきた。おれは座ったまま身体を仰け反らし、足でデモンゲートを止めた。コイツ……凄い勢いだ。っていうかあまりおれの名前を大声で呼ぶんじゃねぇ!なんとかグラとデモンゲートに落ち着きを取り戻させ、向かいに座らせた。


 ーー「儂らからしたら確かにお前は死んだんじゃ。……というより消滅した。喜ぶべきことなんじゃろうが……まず何で生きているのか聞かせてくれ。」


 ーー「ちゃんと話すよ。みんなに説明するからセリアにも待っててもらってたんだ。……えっとだな……。」


 おれはこれまでのことを事細かに説明した。なぜ生きていたのか、これまで何をしていたのかなど。どこで生活していて、どんな生活をしていたか。どれだけみんなに会いたかったか。全部を話した。今となっては笑い話だ。


 ーー「………想像もできないけど……2000年も大変だったわね……。」


 ーー「そうでもないさ。まぁ……長かったのは確かだけど。………それも全部過去の話さ。それにセリア達のことは2年前見てるからな。最近は良いこと尽くしだ。」


 ーー「……え?」


 ーー「ほら、おれが初めて昇華したとき、最初おれの身体を使ってたのはおれなんだよ。……いや、なんというか………一瞬だけど、昔のおれの中に今のおれの精神が入ってたから。」


 そうだ。デスバルトと戦っていたとき、おれは一回死にかけて能力スキルが昇華した。そのときのおれはまだ力を使いこなせるほどではなかったから、能力スキル、『純粋なる解放者(ピュア・マスター)』を媒介に今のおれが精神を接続したんだ。………よく考えると不思議な現象だったなぁ。全く同じ人間が同じ世界に存在しているとああいうことが起こるんだろうな。


 ーー「そう言えば………見た感じ昇華が身体に染み付いているようじゃが……どれほど強くなったんじゃ?」


 一通りの話を終えると、グラがそう尋ねてきた。会う人みんな、おれのことを“雰囲気が変わった”と言うが、能力スキルの昇華が最大の要因だろう。髪は白く瞳は赤く変わっているから。昔の、珍しい黒髪黒目ではなくなっている。それでもみんななんとなく気づいてくれるのが嬉しいものだな。


 ーー「まぁ……強くなったと言えば強くなったよ。それこそ……あの時のデスバルトとかと戦ってもたぶん勝てる。」


 ーー「!!流石にございます!!流石我が主!」


 ーー「でもな本気で戦えるのはほんの10分くらいだ。その……魔神との戦闘で身体がボロボロになっててな。人の能力スキルを真似るのも結構消耗するし。」


 ーー「消耗するくせにデモンゲートの能力スキル使って部屋に入ってきたの?」


 ーー「そりゃあだって……“だーれだ?”ってやりたいじゃん。」


 “バカじゃないの”とセリアに言われたが……やるかやらないかで言えばやるしかないだろ。むしろ今やらなきゃいつやるんだってタイミングだったからな。


 ーー「で、どうするんじゃ?お前が生きてるとなると………世界中が驚くじゃろうが。」


 ーー「いやぁ……別にどうしても隠したいってわけでもないけどさ、大騒ぎになるのは面倒だよね。」


 ーー「そうね……。この国に関して言えば信仰も深いし……下手に公表してもどうなるか。」


 ーー「ん?信仰?」


 ーー「あなたのことよ。」


 ーー「…………は?」


 シンコウって………あの“信仰”だよな…?神を信仰するとかそういった……あれだよな。……いや、どういうことだ?


 ーー「考えてもみなさいよ。あなたは人間からしたら創造神・セスフ様の孫、魔族からしたら魔神・ルシフェルの子なのよ?それでいて大英雄の子で魔神を滅ぼした英雄ともなれば神と見る人達だっているわよ。」


 ーー「んな勝手な。」


 その後も何十分か話をしていた。結局おれの正体は明かさない方がいいだろうとの話になった。それはそれとしてセリア、王の参謀として働くことになったが……まぁなんとかなるか。よく分かんなくても平気だろ。窓の外を眺め、ふとあの戦いを思い出した。魔神を倒したのは、おれからしたら遥か昔の話だ。それでも、思い返せば今でも胸が締め付けられる気持ちになった。


 ーー「なんかよ……歴史が変わっちまうと困ると思ってたんだけど……おれが2年前、もっと戦えば誰も死ななかったのかもな。……そりゃあおれ達が全滅しなかっただけでも万々歳だったけどよ。せめてギルバートさんだけでも助けられてたら……この2年間、セリアも辛くなかっただろうに………。」


 ーー「ああ…………あのね、エスト。兄様のことはそんなに心配しなくていいわよ。いや、確かに最初は辛かったんだけど……………いや、見せた方が早いかな。」


 そう言ってセリアは立ち上がった。そしておれに“ついてきて”と言う。おれは不思議に思いながらも腰を上げた。


 ーー「ついでに国も案内するわね。」


 セリアは苦笑いしながらそう言った。グラもそんな感じだ。デモンゲートは……まぁいつも通りおれにべったりだな。おれ達は4人、部屋を出た。

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