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HAMA/Legend Dimension  作者: わらびもち
第九章 嵐の前の宴
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第63話 束の間の休息

 混沌神との戦いから、およそ1週間が経った。これまでおれはずっとベッドに横たわっていて、腹の空いたときは空間収納アイテムボックスから干し肉やら果物やらを取り出して齧っていた。正直物を食うにも顎が疲れてしまい、一度に食べられる量は限られていたけれど、何回かに分けて2食分は食べるように心掛けていた。“腹が減っては戦はできぬ”とはいうが、腹が減っていては休息すら取れない。結局生きている以上は、何者であれ食事は摂っていなければならない。

 そんな生活を1週間続け、今朝目覚めたときにやっと身体を自由に動かせるようになった。能力スキルの影響で大抵の魔族や魔神よりも治癒力の高いおれでも、身体を動かせるまでの回復に1週間も要した。神聖力は常人が扱えるようなものではなさそうだ。これからはもっと考えて使わなければならないな。


 ーー「じゃあサタン、おれは現世の方に向かうから。お前はどうする?」


 ーー「ボクはこっちで適当に過ごしておくよ。いつ迎えに行けばいい?」


 ーー「一月後くらいかな。まぁ数週間経ったら来てくれればいいよ。」


 分かった!という元気な返事を聞きながらおれは家を空間収納アイテムボックスにしまい、サタンとは別れた。正直、思ったよりはずっと短い旅だった。そして、その短さには見合わないほどに濃い旅だった。これから先には、更に強烈なものが待ち構えている。そんなことを考えながら、おれは薄暗い獄境の空から抜け出した。ある程度この世界も安定したようだけれど、獄境の大陸は現世ほどは明るくならないようだ。現世の大陸へと続く海の向こうは、ここよりもずっと明るく、ずっと輝いていた。

 獄境は現世と重なることで、新たな大陸として海の上に誕生した。……いや、海の底から、地盤を割るように出現していたようだ。本来の獄境の大地の外側には山のように迫り上がった海があり、その海の水は大地よりも遥かに高いところから大地の下へと流れていっていた。なぜ海の高さが大地よりも高く、まるで海に穴が空いているようになっているのか。具体的な理由は分からないが、恐らくは本来重ならないはずの世界が重なったが故に特異点となったのだろう。事実、2つの世界が重なったにも関わらず、獄境周りの空間が歪んでいるために現世の大きさはこれまでとさほど変わってはいない。要は世界のバグのようなものだ。世界が完全に安定すれば治るのか、それともこの形で安定するのかは分からない。おれは海水の壁を越え、人の住む大陸へと向かった。


 獄境を出てから偶然捕まえた怪鳥に乗って、おれは一直線に飛んでいった。一度夜を越え、さらに数時間飛び続けると、水平線の向こうから陸地が顔を覗かせた。そこには薄暗い森が広がっており、何匹ものドラゴンが空を舞っていた。怪鳥はドラゴンの縄張りには近づけないようなので、彼とはそこで別れておれは森の奥へと踏み入った。

 木の枝から木の枝へと飛び移り、猿のように森の中を駆けていった。しばらく走ってから一度己の位置を確かめるために木のてっぺんまで上り、辺りを見渡した。見渡す限り続く黒い葉の森の中、一際目立った山が見えた。まるで剣のように鋭く尖り、そして雲を斬り裂くほどに高い岩山が。あれは間違いなく竜峰山だ。特徴的な黒い森が見えた時点で察しはついていたが、つまりここは魔界だ。そうとなれば感知の範囲を広げてグラの元へと向かえばいい。おれはグラの魔力を見つけ出し、その方角へと進んでいった。

 魔神との一件があってから2ヶ月ほどか。既に建物の大半は元に戻り、街には活気が戻っていた。聞いたところによると、ズーザミアを中心に世界各国が支援してくれたそうだ。打撃を受けたとはいえ、世界の戦力(残された法帝)の全てがここミスロンに肩入れするだろうし、弱ったこの国を襲撃するほど愚かな国はなかったようだ。むしろ恩を売ろうとしたか、新たな王となったグラに惹かれたかのどちらかだな。いずれにせよここの復興は目を見張るものだった。


 ーー「本当はおれが指揮した方が良かったんだろうが、これを見たらおれよりお前の方がよっぽど向いてたんだな。」


 ーー「そりゃ儂は生まれながらの王じゃからな。“竜帝”の名は伊達じゃないさ。……で、話を纏めるが……。何やら世界が変わったのは混沌神の影響だと。そしてそれをお前と第一の魔神で封じたと。」


 ーー「そう。そのとーり。」


 ーー「………そしてずっとお前の後ろに着いてきてる女がその混沌神だと。」


 ーー「そうなんだよね。……そうなんだよ………。」


 サタンと別れる直前、突然として混沌神の封印が解かれ、人の形となって現れた。思った以上に成長が早かったが、未だに言葉をスラスラと話せるほどの知能はないらしい。そしてなぜかは分からないが、おれの背中にピッタリと着いてくるのだ。親とでも思っているのか……。まぁ今は力も抑えて無害だから構わないのだが……。


 ーー「どうしたもんかね。力のバランスを考えると現世こっちから天界には行けると思うんだよな。戻っては来れねぇだろうが。……お前、名前はあるのか?」


 ーー「………ケイラ……です。」


 ーー「そうか。ケイラはどうしたいんだ?おれから言わせてみれば天界に行って創造神セスフ様の元にいた方がいいと思うけどな。そうすれば暴走することなく力の使い方も学べるし。」


 ーー「私……行き方…分からない。」


 ーー「その辺りはそのうち創造神セスフ様から接触があるだろ。まぁそれまではこの城にでもいてくれればいいよ。」


 必要とも思わないが、リルの世話係でも任せるか。………サタンとの戦いが終わったらリルと一緒に世界でも回ってみるかな。


 ーー「おい。それを決めるのは儂じゃないか?」


 ーー「構わないだろ?それに神様が住むなんて縁起もいいしな。………?ちょっと早いけどお客さんが来たみたいだな。」


 ーー「?」


 城の外に現れた魔力に対し、おれは静かにそう言った。まったく……一ヶ月は待てと言ったのに。まぁ騒ぎにならないように魔力は隠して来たようだからよしとするか。おれは深々と座っていた椅子からゆっくりと腰を上げ、城の外へと向かった。

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