第62話 根本的なナニか
ーー「ねぇにーさん……大丈夫そ?」
ーー「………痛ぇ…。マジに痛ぇ。ちょっと無茶しすぎたかもしれねぇ。」
おれは家のベッドに寝ながら唸っていた。ルシフェルとの戦い以降力を使った後は異常なまでに疲労することはあったけれど、傷も癒してるのに身体が千切れるように痛むのは初めてのことだ。これは恐らく、いや、まず間違いなく神聖力が関係している。本来は魂に存在する力なだけに、それを肉体まで引っ張ってきて利用するのはかなりの負担になるようだ。それに加えて魔素と併用し、バカみたいに使ったために魂が擦り減るだけに留まらず、治ったはずの肉体までもが壊れ続けているのだ。
ーー「ハァ……ハァ……まずったな……。本格的に使うとここまで酷いとは……。ただでさえ何分間も“融合身体強化”使って疲労がとんでもないのに……。ホントに死にそう……。」
ーー「えっ!?大丈夫!?ボクにできることならなんでもするからね!?」
ーー「あぁ……いや、流石に死にそうってのは嘘だけどさ……。何日か休めば治るよ。」
ーー「ホント?」
ーー「うん。それは間違いない。……まぁ治るまでがしんどいんだけど…。」
ーー「でもボクにできることならやるからね?」
死ぬほど身体が痛む、という表現は嘘ではないが、別に実際に死んでしまうほどというわけではない。言葉とはなんとも難しいものだ。無駄に心配させてしまってなんだか悪いな。
ーー「………そうだ。“果ての地”は見つけたわけだし、やんのか?殺し合い。」
ーー「…そうだね。ホントはさ、“果ての地”から溢れ出る力でパワーアップして戦おう!って思ってたんだけど、なんか“果ての地”ってそういうものでもなさそうだったから。水槽の中にいる魚はさ、水槽の外は見れないんだよね。見たところで何もないかもしれないし。そんなことに無駄に時間を使うくらいなら別のやりたいことやりたいし。でも!にーさんは何か掴んだみたいだしね!結果として“強い人と楽しい殺し合いをしたい”って夢は叶いそうだ!」
ーー「嫌な夢だな。」
ーー「にーさんが回復したらやる?」
ーー「そうだな。それと一回、現世の方も見ておきたい。流石に向こうも色々あったろうから。」
獄境の空は、少しずつ明るくなっていた。それは混沌神によって獄境と現世との境界が失われたからだ。天界は創造神という圧倒的な力が存在するために今でも別の世界として在るようだが、獄境はそうもいかなかった。いや、混沌神が現れたのが獄境であるから、抵抗できなかったのは現世の方か。獄境と天界は最も離れている、というのもあるかもしれない。なんにせよ、現世にも何かしらの大きな影響があったことは考えるまでもないことだった。
ーー「じゃあにーさんが動けるくらいに回復したら現世に戻って、万全の状態になったら戦うってことでいいかな?」
ーー「そうだな。本気で戦うなら場所も考えねぇと。」
ーー「そこは心配しなくていいよ。準備はしておくから。」
ーー「それなら安心だな。そろそろ寝るから、わざわざ見ておかなくていいぞ。」
ーー「いや、にーさん大丈夫じゃなさそうだから見ておくよ。ご飯でも作ってあげようか?」
ーー「それだけはやめてくれ。」
サタンの飯は食いたくねぇ。それなら苦労しながらでもおれが作った方がマシだ。そんなことを考えながらおれは目を閉じた。正直痛みのせいですぐに寝れるとは思えないが、それでも気を張っていない方が随分ラクになる。可能な限りの情報を遮断し、回復に時間を充てた。………魂から神聖力を引っ張り出す。そしてそれを肉体に染み込ませ、循環させる。これだけなら疲れはしない。だからこれを集中力が途切れるまで行い、身体を神聖力に慣らす。身体が神聖力に慣れればこの痛みも引くだろう。むしろこれからは負担が小さくなるはずだ。
目を瞑りながら1時間ほどそんなことを続けていると、想定よりも早く痛みが引いてきた。治ったというよりは、痛みに適応してきた、といった具合だろうか。神聖力とは、いわば生命や魂の力そのものだ。それを自在に操作するとなれば、成長力もあり得ないほどに上昇するようだ。少しずつではあるけれど、確かにおれの身体は神聖力に適応していっていた。
けれどまだ、神聖力に完全に適応するには至らない。理想としてはこの力を常に身体中に巡らせながら魔素による身体強化も使いたいところではあるが、それは流石に難しい。今の状態で試してもまたすぐに身体が悲鳴を上げる結果に終わるだろう。おれは未だに神聖力、いや、それ以外の力についても、“ナニか”を理解しきれていなかった。決定的な“ナニか”を。たぶんそれは至って基本的なことで、根本的なことで、それでいて誰も気づいていないことだ。それを見つければおれの扱える力は完全におれの力になるだろう。逆にそれを見つけられなければ、おれは無茶をしなければ最高の力を引き出すことはできない。いや、無茶をしても最高の力なんてものは引き出せない。おれはそんなことに頭を使っているうちに、気づけば深い眠りについていた。




