第60話 式
ーー「『神死炎剣』!」
ーー「『怒りの暴流』」
ーー「『召嵐』!」
ーー「グギャアアアア!!」
おれは炎を纏った刀を握りながら混沌神の懐へと入り込み、円を描くようにして首を刎ねた。その首をおれの炎が侵食していき、さらにサタンが風を巻き起こすことで混沌神は炎の嵐の中に飲み込まれた。おれの炎は着火して燃えるだけに留まらず、魔力や粒子を喰らい大きくなるという循環を続ける。炎を確実に殺さない限りは灰となるまで燃え続けるのだ。魔神でさえもそれは簡単なことではなく、当然落とされた首ではそのような芸当はできないはずなのだが……。
ーー「ちょっとにーさん!首落としちゃダメでしょ。殺さないんでしょ?」
ーー「お前が追い討ちをかけたんだけどな。安心しろ。あの程度じゃ弱りもしねぇよ。ほら、見ろ。」
渦巻く炎は、内側から溢れる大量の泥に飲み込まれた。たぶんおれの炎と重なったんだな。最高神ともなると、首が落ちた程度では何ら問題はないらしい。むしろ炎と融合することで強くなったとも見える。神というか化け物だな。そしてこんな間にも現世と獄境の境界は薄れていき、混ざっていっている。その上、混沌神の近くにいけば融合身体強化で保護しているおれでも、おれ自身を失いかける。刀で攻撃しているうちは良くとも、直接触れればどうなるかも分からない。やっぱりとっとと片をつけなきゃならねぇな。
ーー「畳みかけるか。もう一回確認するけど、殺しちゃ意味ないからな。お前もおれも、威力の高すぎる技はダメだぞ。」
ーー「どれくらいまでならセーフ?」
ーー「破片が残ってりゃ大丈夫だろ。前に見た『召雷』とか……おれの『煌魔天』はダメだな。……まぁ、おれのは調整すれば……いや、危険だな。」
ーー「そっか。」
消し飛ばさなければ問題はないだろう。実際、サタンとおれなら混沌神を殺すのなら手こずることでもない。威力の出過ぎない技を選ばないといけないのが少々厄介だ。特にサタンは面倒臭がるだろう。
ーー「じゃあボクは後ろからチクチクやっておくよ。にーさんは上手いことやって。」
ーー「そうだな。ちょうど試したかったこともあるんだ。」
サタンが天を暗くしていくのを見ながら、おれは再び混沌神に近づいた。そして魂から心臓へ、心臓から指先へ、指先から身体の外へと、魔素とともに神聖力を循環させた。魔素と神聖力が混ざり合うことはなく、反発し合うことで爆発的な力を引き出す。そしてそれは、魔素と融合している今のおれの身体においても同様だった。まるで全身で何かが爆発しているようで痛みも尋常ではなかったが、それによっておれの身体は、身体から常に発せられるエネルギーだけで空間を歪ませるまでに至った。そしてそれだけのエネルギーを自由に扱える。おれはそのエネルギーを極限まで圧縮して刀へも循環させ、そして構えた。
ーー「“一式”『満華月』!」
ーー「!?」
ーー「えっ……?……ナニアレ!?」
莫大なエネルギーと炎を刀から放出しながら、おれは刀を垂直に振った。形はただの振りだったのだが……その斬撃は混沌神の巨大な腕を斬り落とし、大地を斬り裂きながら彼方まで飛んでいった。およそただの振りの威力じゃない。斬撃という枠に留まっているだけに混沌神が消し飛ぶことはなかったが、それにしても想像以上の威力が出てしまった。
ーー「にーさん凄いな。ボクも負けてられないや。」
ーー「『怒りの殲滅』」
ーー「『降雹』!」
サタンはそう言いながら天に向けた手を振り下ろすと、分厚い雲から槍のような雹が無限に降り注いだ。おれは簡単に避けられるが、図体がデカく鈍い混沌神は何本も槍が突き刺さっていた。これは大したダメージにはならないが、動きを制限するには充分だった。槍が吸収されてしまう前に一気に決めてしまおう。
ーー「“二式”『夕廻月』」
ーー「“三式”『冥月』!!」
ーー「グギャアア!!」
“二式”は“一式”で振り下ろした刀を斜めに振り上げ、変化球のように曲がる斬撃で混沌神の肩を斬り裂いた。そして“三式”では“二式”で振り上げた刀を身体を捻りながら水平に振り、胴体を切断した。全ての技を一呼吸のうちに繰り出す。息をするのを忘れて、ただひたすらに刀を振るった。
ーー「“四式”『威斬月』!」
ーー「“終式”『咲……』!!」
ーー「にーさんッ!!」
ーー「グギャアアアアア!!」
“突き”をしながら刀身に纏った炎を散らし、全てを斬り刻む火花で襲いながら刀を鞘に納めた。そして最後の技で一気に弱らせようとした瞬間、散らばった泥の塊が火を吹き、氷の槍を散弾させながら爆発した。おれは防御をしながら距離を取ろうとしたが、爆炎からは逃れることはできなかった。混沌神が喰ったおれの炎とサタンの雹が、混沌神の身体や能力と同化したようだ。おれは炎に耐性があるはずだが、本来のものとは特性も変わっているようで、混沌神の出した炎は容赦なくおれの身体を焼いた。皮膚が溶け、槍が身体を貫く感覚を味わいながら、おれの視界は一瞬のうちに闇に呑まれた。




