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HAMA/Legend Dimension  作者: わらびもち
第六章 襲来
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第38話 継承能力者

 急げ……急げ!!セリアの魔力がしぼんでいっている。あれだけ大きかったはずのセリアの魔力が、今では残り火のようなものになってしまっている。今は消耗なんて考えている暇はない。“融合身体強化バースト”を使いながら走ればほんの数秒で着くのだから。……焦るな、焦るな。1秒でも早く、そのために冷静に走れ……!!


 ーー「!!ッ…………。」


 森を抜けた先、いや、元々は森だったけれど、焼き尽くされて平地となった地へ到着したとき、そこには悲惨な景色が広がっていた。血液が四方八方へ飛び散り、何より、おれの人生の全てとも言える彼女が、セリアが………。


 ーー「おっと、いらっしゃい、エストさ……ッ!」


 ーー「うがッ!!」


 ーー「おい、セリア!!セリア!!」


 おれは2体の魔神を蹴り飛ばし、それと同時にセリアに突き刺さっていた赤い槍を消滅させた。そして地面に倒れこもうとするセリアを抱き抱え、一生懸命に名前を呼んだ。そしてなんとか傷を塞ごうと魔素を練っていると、セリアは閉じていた目と口を開いた。


 ーー「エス…ト………出てこれた……のね…。良かった…………。」


 ーー「喋るな!今……今、傷は治してやるから……だから喋るな……!!」


 おれが恐怖に怯えながらそう伝えると、セリアはそっとおれの肩に手を置き、優しく言った。


 ーー「だめ……よ。…………エストの力じゃ………この傷は治せない…………。治せても意味がないし………君が力を使いすぎると……魔神に勝てないじゃない…………。」


 ーー「なんだよッ……意味がないって……!!諦めるなよ………!!」


 ーー「エスト様……あなたが毒を消したからよ?彼女の酸素になってた毒を、あなたが浄化しちゃうから。もっとゆっくり浄化していけば助かったのに。」


 ーー「……は?」


 毒……だって?毒を浄化したから……え?毒があるとセリアが危険だからと思って………でも実際はすでに毒がないと生きていけない身体にされていたってことか………?……じゃあ……だったらセリアをこんな状態にしたのは…………。


 ーー「違うッ……!!…………見れば分かるでしょ…?毒以前に……私の身体はもう……限界よ……。」


 ーー「セリア……おれ……おれが………!!」


 おれの中で何かが大きく揺らいでいた。おれには、セリアがいればあとはどうだってよかったんだ。セリアがいなくなるなら、おれはどうしようもなくなるんだ。それくらいにおれにとって“セリア”は大きな存在なのに……それなのにおれのせいで………おれなんかのせいで…………


 ーー「エスト……ごめんね………君を残して…私だけ………。でもほら………手を出して………。」


 セリアが伸ばした手をおれは握った。身体の内側が熱くなっていった。熱いけど温かい。そしておれの髪が小麦のような金色に染まっていった。そんな状況ではないはずなのに、不思議とほんの少し、落ち着くような感じがした。


 ーー「私の…能力スキル…………今渡したから……。いつまでも君と一緒に………………。」


 ーー「うん………ありがとう………。今まで……ありがとう…………!またね…。」


 ーー「ふふ…………できるだけ……ゆっくり来るのよ………。エスト…さえ…幸せに………生きててくれる……なら………私は……それで……………………。」


 目を閉じていくセリアを、おれはできる限りの笑顔で見送った。最期に見る顔は笑顔がいいと、おれは誰よりも知っている。おれの手を握っていたセリアの手は、脱力し、おれの手の中から落ちた。雨が酷く冷たかった。おれの頬を伝っているのが、雨なのか涙なのか分からなかった。怒りや悲しみ、普通ならそういう感情を抱くべきなのだろうが、おれにはもはやそんな感情を持つことはできなかった。ただひたすらに喪失感を味わい、絶望というぬるい言葉では表現できない、空から降る雨が心臓を貫くような感覚であった。己が憎く、己の力が憎く、己の無力が憎かった。おれは動かなくなったセリアを両手に抱え、力の入らない足で立ち上がった。


 ーー「あら、死んじゃったんですか?可哀想に。」


 ーー「………悪いけど…少し黙っててくれるかな。今は誰の声も聞きたくないんだ。疲れたんだよ。………だから獄境にでも帰りな。」


 挑発気味に言うアスモデウスに、おれは光を失った目を向けて言った。アスモデウスとその隣に立っているベルゼブブ、もはや殺す気力すら残っていない。早く帰ってほしい。顔を見たくない。それでも帰らないって言うなら………。


 ーー「悪いけど……精神的に今が一番弱ってるでしょ!!私達が殺せるなら今しかないでしょ!」


 ーー「……まったく……。」


 ーー「ッ!?」


 ーー「アスモデウス!!下がれ!!!」


 ーー「あッ……ぐああああ!!!」


 おれは一帯にに花びらを模した炎を宙に舞わせた。そしてその花びらはおれを中心に渦巻くようにして散り、アスモデウスを貫いた。貫いた箇所からさらに花びらが何枚にも分裂し、身体の内側から焼き、斬り刻んだ。アスモデウスの身体は灰塵となった。距離を置いていたベルゼブブは巻き込まれなかったようだ。


 ーー「君だけ残すのは公平じゃないね。………おいで。」


 ーー「ッ………我を舐めるなよ!!貴様の精神は既に……死んでいるのだからなッ!!そんな男が愛する者の死体を抱えて……一体何ができる!!?」」


 ベルゼブブは赤い鎧を纏い、槍を作りだして向かってきた。やっぱりセリアを刺したのはコイツか…。


 ーー「がッ………!!」


 ーー「……………。」


 おれはセリアを抱えたまま、炎を纏った右脚でベルゼブブの腹を突き刺した。そしてそのまま炎をベルゼブブの身体へと移し、魔素を送り込んで焼き尽くした。………これほど何も感じずに戦ったのは初めてかもしれない。達成感もないし、使命も感じなかった。

 雨が降る中、おれはセリアを抱き抱えて城の方へゆっくりと帰った。心臓が止まりそうな感覚だ。何も考えられず、ただただ機械のように足を動かした。前を見ることもできず、足元だけを見てただひたすらに歩いた。ひとつだけ言うとするのなら、この雨は止みそうにないと、ただそれだけを感じていた。

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