第32話 縛られし者
ーー「………パルセンダ、儂にはアイツに攻撃を当てるほどの速さはない……。」
ーー「もっかい言うけど僕の力じゃアイツを止めることはできんからな。」
ーー「鎖を出せ。儂が硬化する。そうすれば一瞬の隙を作るくらいはできるじゃろう。」
パルセンダは言われるがままに魔力の鎖を生み出した。そしてそれに、グラが“硬化”を付与する。アスタロトは硬化された炎を警戒していた。それなら彼にも“硬化”の力は通用するということだ。
ーー「正直、何をしたってアイツを拘束するなんて簡単じゃないぞ。君の速さでも当てらんないんならさ。」
ーー「それを考えるのがお前の仕事じゃろうが。儂はお前が成功させるまでは速さ重視の形態にしておるからな。」
そう言ってグラは竜人形態のまま翼を生やし、纏っていた炎を消した。全ての魔力を肉体の強化に回したのだ。炎を纏った方が攻撃力は高い。だから、アスタロトに隙ができたら思いっきり叩く。それまでは翻弄する形で攻める。グラは準備を整えると、雷のような速さでアスタロトに接近し、ジルアードの方へ投げ飛ばした。
ーー「グラダルオ貴様……!こっちに……!!」
ーー「ふん……ッ!!」
ジルアードは斬撃の嵐をぶつけ、それをアスタロトは身体を回転させることでジルアードごと吹き飛ばした。グラは不規則になった斬撃を躱しながらアスタロトに飛んでいき、脇腹に蹴りを入れた。
ーー「んん………ん?随分速くなったが、この程度じゃそよ風みたいなもんだぞ……!!……チッ!鬱陶しい。」
アスタロトは魔力を込めてグラに拳を振るったが、それは受け流され、グラは一度距離を取った。速さなら勝っている。だが力はアスタロトの防御力を貫けるほどのものではない。
ーー「ジルアード、貴様の斬撃…貸せ。」
ーー「!?……ああ、なるほど。お前が俺の方にアイツを飛ばしてくるからもう限界だ。俺の魔力は全部持ってけ。」
そう言ってジルアードはグラの腕に回転する斬撃を纏わせた。ジルアードは実践経験はほとんどなかった。それだけにアスタロトの攻撃を防ぐことは不可能に近く、魔力はともかく肉体は既に限界に近かった。だからもはや、グラに託すしかない。
ーー「ありがとな……。」
ーー「『竜回斬』!!」
ーー「痛たたたた!!何だソレ!?」
斬撃を纏ったグラの拳は、アスタロトの皮膚を削った。当然、自分の能力ではないため、グラの肉体にも相当な負荷がかかっていた。だがこれも、全て隙を作るためだ。ただそれだけだ。
ーー「すぅー……………ハッ!!」
ーー「……?こんなものに意味があると?」
グラは斬撃を両腕に移動させて大地を強く殴りつけた。大地はひび割れ、砕け散り、砂塵が一帯を包み込んだ。視界が悪くなるものの、魔力を感知すればどうということもない。特に法帝以上の実力者ともなれば。
ーー「充分だろ?目が見えないだけでも枷になるだろ。」
ーー「お前ごときすらどうともならない目眩しが、俺に通用する訳ねぇだろうが……。」
グラは斬撃拳を何度も何度も叩き込もうとした。だがアスタロトはそれを相殺するように殴った。斬撃を纏っていても、その斬撃が存在しないところはある。その場所を的確に狙っていた。“気にしない”という選択もあったけれど、ただ痛いのが嫌だから斬撃は防ぐようにしていた。圧倒的な実力差があるだけに、その程度のことに意識を向けていたのだ。
ーー「………ぐうぁあああ!!」
ーー「おっ………お?」
グラは対抗してくるアスタロトの拳を、腕を掴み、思いっきりに投げ飛ばした。そして、飛んできたアスタロトの目の前に、パルセンダが突然現れた。意識がグラに向いており、視界も悪い。だからアスタロトはパルセンダに気づくのが遅れてしまった。
ーー「『豪縛』!!」
ーー「なッ……!?」
グラの能力によって硬化した鎖を、魔力出力を最大にしてアスタロトを拘束した。が、完全に動きを封じることはできなさそうだ。……幸いにも今はパルセンダの方に意識が向いている。彼はグラに意識が向かないよう、あえてほんの少し、アスタロトに接近した。
ーー「がッ……!!」
ーー「鎖を解け。そうすればもう少し楽に殺してやれるぞ。」
一瞬、アスタロトが動いたかと思うと、彼の腕はパルセンダの腹部を貫いていた。ただ魔力を纏っただけの腕が、並の凶器よりもよっぽど鋭く硬かった。けれど、パルセンダはそれに怯まず、むしろその腕を掴んで更に鎖で拘束した。全ての魔力を、生命力を注ぎ込んで。
ーー「ッ!?」
ーー「………脅しの…つもりだったのか……?どうせなら足掻いて…やろう……じゃねぇか……。」
ーー「よくやった!!パルセンダ!」
ーー「!お前……!!」
ーー「それじゃあ避けれんじゃろう!魔神よォ!!」
ーー「“硬炎”!!『爆斬竜拳』!」
ーー「………!?」
グラ斬撃と炎を纏った拳が、アスタロト目掛けて墜落してきた。直撃すればただでは済まない。直撃すれば、確実に命を焼き尽くすことができる。……が、その場の全員が異様に身体が遅くなり、逆にアスタロトは異様に速くなって鎖の拘束を抜け出した。遅くなったことを認識することはできたものの、身体の速さはソレが解除されるまで元に戻らなかった。そして解除されると突然、グラの拳は誰もいない空間を焼き裂いて終わった。
ーー「避けられちまった……が、使ったな。能力をよ!!」
ーー「く……くそッ!!」
アスタロトの魔力は乱れ始めた。今の現象は、“対象に流れる時間を遅くする”というアスタロトの能力とみて間違いなかった。つまり“能力を発動しない”という条件に違反したのだ。だからアスタロトの魔力は乱れ、そこの空間は歪み始めた。
ーー「エスト!!良かった……!……おい、エスト?」
空間の歪みから出てきたのは、別空間に封じられていたエストであった。だが彼は、空間から出てくるや否や、ただただ空を見つめ、そしてグラの呼びかけには応えなかった。




