第15話 教官
ーー「……つまり、公表するつもりはないと?」
ーー「ああ。まぁ公表しないとマズい事態になれば話は別だけど。」
イリアから一通りの罰を受け終わったおれは、これまでのことを軽く説明した。なんかもう……人に会うたびに説明するのも面倒だな。その点では世界中に公表しちまった方がいくらか楽かも知れない。……そんな理由で公表はしないけど。
ーー「そうか。ま、好きにすればいーんじゃねーか?」
ーー「言われなくたってそうするよ。」
ーー「テメーは!いちいち返事がウザーんだよ!!」
ーー「痛たた!ちょっ……頬をつねるな!!」
まったく。いちいち噛みついてくるのも昔から変わってないな。これじゃあ落ち着いて茶も飲めねぇよ。………いやまぁ悪いのは全面的におれだけどさ。すると、落ち着きを取り戻したイリアはそっと口を開き、静かに声を発した。
ーー「……2000年か………。……退屈だったろ。」
ーー「そうでもねぇ……っていうと嘘になるな。でも案外楽なもんさ。結局は今が全てだからな。」
ーー「ジジーになって達観したか?」
ーー「ジジイじゃねぇよ!人間換算すればまだまだ若者だってんだ!」
ーー「2000年はどんな種族でもジジーだよ!俺はまだ20代だからな!!」
ーー「だったら年長者を敬いやがれ。」
まったく……なぜこうなってしまうのか。隙あらば攻撃してきやがって。おれはまだ若いんだ。ジジイなんて言われるほど………歳はとってるけどとってねぇ。
ーー「………2000年も生きてりゃ強くなったろ?」
ーー「そりゃあもう……。昔とは天地の差があるさ。すぐ疲れるけどな。」
ーー「………疲れるなんてもんじゃないでしょ。ホントに無茶しちゃダメだからね。」
ーー「?なんだ。後遺症でもあんのか?」
ーー「まぁ……死ぬつもりだったからなぁ。肉体も神経も使いすぎると酷く疲れる……っていうかもはや死にかけるんだけど。まぁそれでもマシなもんさ。」
ーー「おいおい、せっかく生き延びたんだ。大事にしやがれ。」
おお……珍しくまともなことを言うな。ちょっと感動だ。まぁ……ここまで生きてきたらそこまで生に執着しないけど。
ーー「オメー、また俺のことバカにしただろ!」
ーー「してないよ!……いや、したけど!なんでそう決めつけるのさ!!」
ーー「してんじゃねーか!!顔見りゃあだいたい分かんだよ!」
やっぱダメだ。この場にいたらいつ殺されるか分かったもんじゃない。生存報告も済ませたしさっさと出てしまおうか。
ーー「……で、オメーらこの後はバンリューに会いに行くのか?」
ーー「ええ、そのつもり。」
ーー「どこにいんのか知ってんのか?」
ーー「北大陸ってことは知ってるけど……。」
ーー「そこのハルノトって街のギルドで教官をやってるらしいぞ。」
………バンリューが教官…!?“最初からできるから教えられない”なんて言うような男だぞ?そんなヤツが………まぁどうするも自由か。…でも意外だな。
ーー「あの人“俺は天才だから人には教えられない”って言ってたのにね。」
ーー「セリア、それはちょっと誇張表現だぞ。」
ーー「冒険者も引退して暇なんだろーな。……今でもそこらの冒険者よりよっぽど強いだろーに。」
……バンリューはまだそれなりに強いのか。……そりゃそうか。あんな化け物みたいなヤツがそう簡単に弱くはならねぇよな。
ーー「じゃあそろそろ行くか。またな、イリア。何かあったら呼んでくれ。」
ーー「こっちの台詞だバカやろー。もう死ぬなよ。」
イリアが手をひらひらと振るのを見て、おれとセリアは部屋を出た。ハルノト…北大陸か。ちょっと遠いけど……まぁ色々と観光しながら行くか。……いや、リルに乗ってったらすぐ着く気もするな。大陸のどこらへんにあるのかにもよるけれど、2、3日もすれば着くことだろう。
ーー「今日はこの街に泊まっていこう。リルも今日は休もうね。」
ーー「そうだな。じゃあちょっと散歩でもしようよ。」
おれ達は宿を取り終え、街をふらついた。夜になるまではまだ時間がある。やや離れたところにある小さな山を登り、開けたところで寝転がった。目を瞑って草の生えた大地に身を任せる。腹に乗って寝ているリルと、遮るものもなく当たる日の光が暖かい。瞼を越えて目に入る光が、急に遮られた。
ーー「だぁーれだ!」
ーー「………誰って…セリアしかいないだろ。」
ーー「あははっ。せいかーい!」
セリアは笑っておれの目元から手を離し、それと同時に隣に寝転がった。何だかテンションが高いな。だがそれも、昔のセリアを見ているようで嬉しくなった。国を出て、いい加減責任感から解放されたという感じだろうか。しばらくし、空は赤く燃え始めた。そろそろ日が暮れ、夜になろうという具合だった。




