第11話 質素な贅沢
ーー「儂はお前達を止めるつもりはないんじゃが………大丈夫かの?お前達が2人だとどうも心配じゃ。」
ーー「大丈夫、大丈夫!おれがどれだけ生きてきたと思ってんだ。」
ーー「ブレーキ役がいないのが心配なんじゃよ。………セリアはお前のことになるとなかなか止まらないからな。特に最近は。」
グラは心配そうにそう語った。まぁ言いたいことは分かるけど……変なことは起こらないだろ。セリアだって常識人だしな。おれだってそれなりの常識は持っている。だからまぁ多少は気を抜いても平気だろうな。
ーー「………そういえば旅行ってどこ行くんだ?まぁ別に目的地は無くたっていいけどよ。」
ーー「そうね……。エストってイリアとバンリューには会えてないんでしょ?せっかくだし会いに行こ?私も久しく会ってないし。あとはまぁ……観光名所でも回ればいいでしょ。」
なんか……堂々と宣言した割にはなんのプランもないんだな。まぁいいけど。おれはカップに注がれたお茶を飲み干して席を立った。まだ少しふらつくけれど、立ち歩けないほどではない。おれはテーブルに手を置きながら身体を安定させた。
ーー「………あれ?確かエストって船乗れないわよね?」
ーー「………………まぁ……苦手ですね……未だに。まぁでもどうしようもないだろ?仕方ないさ。」
ーー「それもそうね。まぁ………頑張って!」
ーー「おう。……あれだな。おれの部屋はないよな。どっか空いてる部屋とかある?」
ーー「あぁ………あると言えばあるけど……寝れるところでもないから、私の部屋に来てもいいわよ。」
ーー「そっか。じゃあそうする。」
おれは部屋を出てセリアについていった。やっぱり城は広いな。構造を覚えるのには随分かかりそうだ。明日から出掛けるから……まぁ当分先のことになるな。まだまだ1人で歩いてたら迷子になるだろうから、ちゃんとセリアの後ろを追いかけていく。
セリアの部屋はかなり大きなものであった。流石は王の部屋というべきであろう、しかし大きさの割にはほとんど飾り気はなかった。ベッドと机とソファと……あとはタンスやらがあるだけだ。機能のあるものが置いてあるだけで、装飾がない。
ーー「スッキリしてるでしょ?私あんまり飾るの得意じゃないし……人に見せるわけでもないからいいかなって。」
ーー「うん。いいんじゃないかな。セリアっぽいよ。」
ーー「そ?ならよかったわ。そうそう、良いのがあるのよ。」
そう言ってセリアは保冷庫から葡萄酒を取り出した。おれとセリアはソファに座ってグラスにそれを注いだ。美味いけど、別に高価なものというわけでも無さそうだ。………そういやあんまり酒は飲んでこなかったな。セリアも20歳になったのは最近だろうからあんまり飲んでないだろうな。
ーー「これね、お父様からもらったものなの。プリセリドで作ってるお酒。どう?」
ーー「美味しいよ。好みな感じだ。………じいちゃんが飲んでたのと似てるな。」
ーー「エストと大英雄様ってプリセリドの近くに住んでたんだものね?そのときから特産品だったのかな?」
おれ達はしばらくの間談笑をしていた。話題というのはなかなかに尽きないものだ。尽きたと思っても次々と浮かんでくる。軽く酔いが回った状態で何時間か笑って過ごしていた。疲れたからとっとと寝ようと思っていたのだけれど、なんだか勿体無い気がして遅くまで起きてしまっていた。楽しそうにしているセリアをずっと見ていたかったからだ。流石に眠くなったので、おれ達は眠りについた。長い1日であった。長く濃い夜だった。
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ーー「………おはよ。起きた?」
ーー「う………ぁあ。……ぉあお……。」
非常に薄れた意識の中、すぐ隣から声がした。ような気がした。おれは声にもならない声で返事をし、重力に逆らうように目を開いた。おれより先に起きていたセリアが、半覚醒になっていたおれに声を掛けていたようだ。昨日は酷く疲れていたから、もしかしたらうなされていたのかもな。おれは首を横に捻ってセリアの顔を確認した。確かにそこにはセリアがいた。セリアがいることに、おれは安堵した。これからは、これが日常になるんだな。おれの日常は戻ってきたんだな。
ーー「ふふっ……どうしたの?そんな泣きそうな顔しちゃって……。」
セリアはおれの目元を指で撫でながら優しくそう言った。分かっているだろうに。優しさと悪戯心が絶妙に混じり合っているのだろうな。おれは“なんでもないよ”と、それだけ言ってセリアの手を取った。柔らかく温かな手だった。セリアはにっこりと微笑んで身体を起こした。おれはまだ布団の中で温まっておこうと思っていたけれど、セリアに布団を剥ぎ取られたので渋々と起き上がった。
ーー「ほら、エストもこれを羽織りなさい。少しは隠さないと目立つでしょ?髪の色も瞳も派手なんだから。」
ーー「んん………おれは目立っても平気なんじゃねぇかな?」
セリアは黒いの外套を身に纏い、同じものをおれにも渡してきた。フードを深く被れば顔も隠せそうだ。セリアは有名だし顔を隠そうとするのは分かるけど……おれは必要ないだろ。
ーー「エストが目立つと私も注目されちゃうでしょ?怪しまれるかもしれないけどこうする方がマシよ。それに私だけこれ着るのも嫌だし。」
なるほど……最後のが本音だろうな。そういうことなら……まぁ着るか。別に動きづらいってわけでもなさそうだし。おれはセリアに出された外套を羽織った。思ったより軽いな。邪魔になることは無さそうだ。なんならこれを着たまま戦うこともできそうだな。
ーー「よし、じゃあ出掛けるか?えーっと……。」
ーー「まずは東大陸に行きましょ。というか船ならそれが一番早いからね。海流の問題で。」
ーー「そうか。じゃあ行こう!」
おれ達は必要なものを空間収納の中にしまって城を出た。一瞬で東大陸に戻ることになったけど……まぁ構わないか。誰にもバレないよう、特にセリアは顔を隠しながら港に向かった。おれとセリアは2人、船に乗って大海を突き進んだ。




