無謀な夢
ここは東京のとある公園。昼間は賑わっていた公園も、深夜はとても静かだ。昼間の賑わいがまるで嘘のようだ。街灯の暗闇がわずかに公園を照らし出すだけで、とても暗い。そして朝が空けると、また多くの子供たちの楽しそうな声がこだまするだろう。
そんな公園に、1人の中年の男がいた。村井正平だ。すでに家も家族もなくした。もう誰も助けてくれない。悲しいけれど、こうして自分は終わってしまうのかと思うと、残念でしょうがない。だけど、そんな人生を歩んできた自分への罰なんだろうと受け入れている。
「はぁ・・・」
正平はため息をついた。だけど、そのため息は誰にも聞こえない。誰も正平の事を気にしていないようだが、ここは誰もいない公園だ。誰もここに正平がいるという事に気づいていない。
「どうしてこんな人生を歩んでしまったんだろう」
正平の人生は転落ばかりだった。正平は正平は運動神経があまりなく、小学校からいじめを受けていた。その為、故郷に帰りたいと思った事がなかったという。それでも成績優秀だった正平は、中学校を卒業すると、東京の高校に進学し、東京の大学に進んだ。だが、大学では遊びに明け暮れて、落第した。気が付いたら、大学の同級生はみんな就職を決めていて、正平は就職浪人になっていた。ハローワークに行って、何とか就職までこぎつけたものの、どんな会社でも正平は使い物にならず、罵声を浴びるだけだった。両親は実家に戻る事を勧めたが、正平は過去の事がきっかけで帰りたくないという。その後も正平は入退社を繰り返した。そして、次第に誰も正平を採用しなくなった。40歳の時に父を、42歳の時の母を亡くし、自分1人で生活しなければならなくなった。だが、正平にはそれができなかった。なかなか就職先が見つからず、大学の頃から住んできたアパートを離れ、公園で野宿をするようになった。
「今頃、あの子たちはどんな日々を歩んでいるんだろう」
正平は大学の同級生の事を思い出した。同級生は今頃、幸せな家庭を築いているだろうな。とても幸せだろうな。家を持たずに公園で暮らしている僕を、どう思っているんだろう。かわいそうだと思っているんだろうか? 助けたいと思っているんだろうか? 自分もそんな家庭を持ちたかったな。正平は妻子がいる家庭にあこがれを抱いていた。だけど、こんな自分には無理だった。
「寒い・・・。つらいよ・・・」
今は冬だ。家はとっても温かいだろうな。鍋を食べているだろうな。自分は寒い外で、満足にものを食べられずに、そのままここで死んでしまうんだろうな。寂しくこの人生を終えてしまうんだろうな。
「教員になりたかったのに・・・」
正平は教員になりたかった。だが、勉強はできても教える力がなかった正平には無理だった。ずっとずっとあこがれていた教員。だけど、教員にはなれなかった。どんな教授からも教員には向いていないと言われ、涙を流した。どうしたらいいんだろう、どこに就職したらいいんだろうと考えた。だが、全く思い浮かばなかった。
「あの時、勉強していれば、しっかりと就職できていれば、俺の人生は変わっていたかもしれない・・・」
正平は思った。あの時、もっと勉強をしていれば、自分の人生は変わっていたのでは? 教員になれて、結婚して、幸せな家庭を築けていたのでは? どうかわからないけれど、きっとそうなっていただろうな。
「どんなに後悔しても、過去は戻ってこないし、何にも起きない・・・」
正平はふと思った。何もできない人は、このまま滅びるべきなんだろうか? これが世界なんだろうか? もっと、弱き者に手を差し伸べられるような世界にならないんだろうか?
「何にもできない人は、滅びるべきなんだろうか?」
ふと、正平は故郷の事を思った。東京とは正反対の、自然豊かな所だ。だが、ここには敵ばかりだ。自分はここにいるべきではない。東京にいるべきだ。そう思い、故郷を離れた。もう故郷になんて住むもんか。東京で一生を終えてやる。
「故郷に戻っても、俺の周りは敵なんだろうな。悲しいよ・・・」
正平は眠たくなってきた。もう寝よう。明日も日雇い労働を探す日々だ。だが、何日もそんな仕事に巡り合えていない。どうすればいいんだろう。
「もう寝よう・・・」
正平は目を閉じた。明日こそは日雇い労働ができますように。
正平は目を開けた。そこは大学だ。これは夢だろうか?
「あれっ、ここは?」
正平は辺りを見渡した。外では桜が咲いている。今は春だろうか?
「大学だ! 入学の日かな?」
正平は大学に入学したての頃を思い出した。あの頃は夢であふれていたな。将来、教員になって幸せな家庭を築くのに憧れていたな。できる事なら、あの頃に戻りたいな。
「あの時は夢であふれてたな。あの頃に戻りたいな」
「正平くん!」
その声を聞いて、正平は振り向いた。そこには彩香がいる。高校の頃から仲のいいガールフレンドだった。だが、大学で落ちこぼれたのがきっかけで別れた。入学したての頃は、とても仲が良かったのに。今頃、彩香も別の男と結婚して、幸せな日々を送っているんだろうな。
「えっ!? 彩香ちゃん?」
「うん!」
正平は笑みを浮かべた。笑みを浮かべたなんて、何年ぶりだろう。ずっと苦しい日々を送ってきて、笑顔を忘れてしまった。
「今日から頑張ろうね」
「もちろん!」
正平は大学での楽しい1日を過ごした。それはまるで夢のような日々だった。こんな日々がいつまでも続けばいいのに。それは4年間だけだ。そして彼らはそれぞれの道へと歩んでいく。だけど、正平はそれについていけなかった。
夕暮れになり、そろそろ帰る時間だ。明日も大学を頑張ろう。
「じゃあ、帰ろうか?」
「うん」
だが、正平と紗香は天に昇っていく。どういう事だろう。正平は驚いている。だが、紗香は普通だと思っているようだ。正平は首をかしげた。これはどういう事だろう。
「あれっ、どこに行くの?」
「お空」
それを聞いて、正平は驚いた。まさか、天国に行くんだろうか? これは夢だろうか? まさか、自分は本当に天国に行くんだろうか?
「お空って?」
「いいから」
そして、2人は天国へ向かった。周りの人々は、彼らを見て、何も思っていないようだ。どうしてだろう。まさか、2人の姿が見えないんだろうか?
2人は雲の上にやって来た。そこには正平の両親がいる。まさか、ここが天国だろうか?
「正平・・・」
「父さん、母さん!」
正平は母と抱き合った。また一緒になれるとは。また会えるとは。
「疲れたでしょう。もういいのよ」
そして、正平は天国で暮らす事になった。そして、正平はこの世界からいなくなった。だが、誰もそれを気にしていない。もう忘れ去られたのだから。