表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

【確証性の無い】#1

暗闇の中で俺は今、少女に対面する形で膝に乗られている。

何故?

俺はいつから幼女に手を出すようなロリコンになった?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


───────丑満つ時

公園で空になった缶コーヒーを片手にベンチに座り込み

どこにでもあるような像を模した小さな滑り台を息苦しそうに見つめている17歳の、いや

『丁度今日』17歳を迎える青年がいた。

白いダウンジャケットに同じ単色のワイシャツ、所々がはねちらかしている黒髪には、前髪を分けるように黒いピンがさしてある、少々素っ頓狂な姿だ。

 “息苦しそうに”なんてつらそうな書き方をしたが、あるいは落ち着きのない視線が丁度動かなくなった視線の先がそれだったのかもしれない。


「...さすがに冷えるな...」


はぁ、と息を吐き体を少し大きく身震いさせる

目つきが悪いからだろうか、狼のようにも見える。


「ダウン合わせて上着は3枚...舐めてたな...シャツの防寒性が無に等しい...」


見渡す限りでは自分以外に誰もいない公園、遣る瀬無い空気が彼の喉の時計の針を進めたのだろう。

独り言がちく、たく、と溢れてくる。


「春真っ只中だってのにどんな体感温度してんだよ...火事の生き残りは文字通り“火の子”ってか?」


自分を嘲笑するように針を進めている。

遣る瀬が無いと同時にこの青年

_________ヒトシキトバリという青年には、立つ瀬すらもないようだ。

この不謹慎や非常識とも呼べる火災への被害加害を揶揄する言葉は世間体的に良い方に見られない。

自分の言動に自らが驚いたのか、やり場のない目が右下を見る。


「...自分の言葉で自分が不快になることってあるんだな」


トバリの手が口元を覆う、自身が引いたパンチラインにここまで気を落とせるのかと少々関心もした。


「やめよう!悲劇の主人公ぶってても自分が自分で鬱陶しいだけだよな、我が生誕日である今日を期に生まれ変わろう俺!ハッピバースデートゥーユー俺!」


勢いよく立ち上がり、誰に見せるわけでもない作り笑いと小さな拍手をトバリという舞台に設置する。

しきりに自分を褒めるような言葉を吐き出した後

幕が引いた後の劇場の小道具を片付けるように

ほどけて取れた作り笑いから染み出した冷えた顔と、拍手のクラップ音の代わりの溜息がトバリの舞台に立っていた。


「ちっ...結局、あぁ結局か、誕生日っつーのが気持ち悪いのにゃ...変わらなかったな」


溜息のように後悔、憂いの類を祈るように呟き

ジャケットから取り出したスマホを見て日付を確認する。

それは自身の誕生日『3月15日』を変わらなく表示していた。


流れるは無言と静寂、耳が雑音と捉えた風音すらも今の静寂を意識させない為に音として脳が拾おうとする程この状態は苦痛だった。


この公園が今日、何かを行って摩耗したトバリが行ける場所だったのだろう、

家より遠いが、行った場所よりも近いところ。

無気力とも言える今のトバリはこの場で何処か騒がしい自分の心を落ち着かせる為の停滞を選んだ。


『うるせぇな...んなことは分かってるよ...』

声を震わせながら背中を丸め耳に手を当てようとした。

当てようと、頭に触ったのだ。


『は?』


刹那の出来事だった。

次にトバリが感じたものは冷たい指先が触れたと共に自分の平衡感覚が狂っていく違和感。

 理解や認知の類をすることすら許されず、困惑と共にトバリの頭は冷たい地面と触れ合ったのだ

トバリの首が、落ちたのだ。


視界が回転する、ただでさえ小さい黒い目が更に小さくなり脳が理解しえなかった現在の絶望という感情を表す、或いは体の生命活動が終わる準備だったのかもしれない。

突然の出来事。

頬が、地面に──────



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


収まって最初に俺に見せたものは自分自身を包んでなお余りある程の膨大な暗闇だった


 体が動かない、唇も、喉が声を発そうとしない。

不可解に飲まれている身体を動かして辺りを探索し現状を理解するなんて発想や、前提としてまず体が動くなんて思っちゃいなかった、俺は立っているのか座っているのか寝ているのか、体の感覚を理解するのに忙しいらしい。


「はぁ...まったく...いつまで呆けているのかな?」


吐息が多く混ぜ込められた呆れ声が、耳に届いた。

視界の次は聴覚か?

この空間を理解できない何も分からずじまいだった俺の五感が、最初に拾った情報は

聴覚が俺に伝えた真実は

状況を呑み込めていない自分が心ここにあらず、とでもいうようにただ俺が呆けているのだというなんとも捻りのない事実だった。

 それを聞いた上でも、いや聞いたからこそ尚加速した謎の中で動けずにいる俺に小さくため息のようなものを吐いてからその声は発言を続けた。


「何か喋っておくれよ」

さっきは確かに何処か隠せなかった動揺をそのまま態度として表したかのような声が、俺の声を求める催促の台詞を皮切りに落ち着いていく。

同時に暗闇を追い払うようなスポットライトが俺の前に当たった

比喩表現なんかじゃない、本当にスポットライトが目の前を示しているんだ。

まるで劇場で登場人物に視線を誘導するように

舞台で見どころはここだと強調するようにだ。


「こほん、やあ、僕を食べた食いしん坊くん。」


ひらひらと手を揺らしている声の主をスポットライトは照らす、

そいつは

 ...いや、その子は俺と同じ服装をした一人の

“幼い少女”だった。

同じ服装というのは些か誤った表現かもしれない、俺が着ていたはずのダウンジャケットをこの少女が身につけている一方、さっきまで感じていたナイロン素材の暖かい感触が無くなっていたからだ。

まあ、この部屋?空間?は生温い変な気温なんどけどね


...では、俺の身ぐるみが剥がされたのか?


俺の服装に目をやると、肌が露出しているわけではない。

どうやら本当にダウンジャケットのみを彼女は剥がしていったようだ


「た、ただでさえ膨大な情報量に俺の脳細胞くん達が悲鳴を上げてるんだ、これ以上新しい現状を突き付けるな。」


 モヤモヤとした思考回路が溜息とともに潰え

漸く動いた口が達者に回る

その声が少し震えていたのを感じたのか、

少女は優しく微笑んで俺の呼吸が整うのを待った。

この子は俺に微笑みかけてくれているのだ、俺の事が好きに違いないが

生憎幼女趣味はない

ハズだ


「すると?俺は?恥ずかしい自己嫌悪の、そして恥ずかしい独り言を好きなだけ吐いた末に首が落ちた?そこまでは分かった...?」


「どっちだい?」


 いつの間にか(本当にいつの間にか)椅子に腰を掛けていた彼女が両足を揺らし楽しそうにツッコミを入れてみせたが、話の腰を折ったとばかりに少女は発言を俺に促した。


「文字に起こすと意味が不明だってことだよ、生活的に首の皮一枚繋がってた事は認めるが実際に首の皮一枚で俺が生きてたとは思わないだろう?」


 戻ってきた本調子を少女に宛てる、ユーモアのおまけつきだ。


「まあ、実際に首が落ちたことはないにしてもここの説明が————」

 ここについての説明、それが彼女が話すキーワードだったのだろう、話を静聴していた彼女が言葉を遮り文章を突き付けた。


「ここは君の精神世界だ、君のホルモンやそれに通ずるストレス

自律神経の類で揺らいでしまう君だけの世界、もっとも私も分かるのはこれだけだ。」

攻守交替、少女が椅子から立ち上がるのを確認した俺は

彼女に視線を向けながらそれに着いた。

温かい


「あと先程も言ったように君が僕を─────」

「おい、深々と座るな気持ち悪い」


この美少女のぬくもりをもっと密に感じようという俺の考えがバレたのか、普通なんの違和感もない“深々と座り込む”なる行為について指摘されてしまった。

意図を含め犯行がバレてしまっては仕方がないので悪びれもなく手を挙げて、何かを差し出すような素振りをして彼女の話の続きを聴く事にする。

尤もこの奇行は「お話の続きをどーぞ」という意思表示であるということを忘れないでほしい。


「.....話を戻すと君には...我々の世界にあるはずの“魔力”が存在しないようだね。だから僕は君を、僕の世界の住人じゃないと考えた。」


魔術が使えると、証拠に君の衣類は今ここにと。

彼女はダウンを強調する為に腕を上げたのだろう。

が、俺は依然としてそのジャケットから覗かせる小さな手を舐め回すように見ていた。


「...まぁ君達の世界でいわば異世界の住人の存在が

僕とも言える訳だ」


しっかりと話を俺が聞いていることを確認し結論を付ける


さて『異世界』

彼女の話から考えるに剣と魔法の、地球とは違う星、果ては同じ宇宙にすら存在しないファンタジー世界であると考えるべきか、べきだろう。

では何故そこまでの適応力が彼女にあるのか、仮に任意で、彼女が自ら選んでこの俺の精神世界というものに来たとしても、勝手にスポットライトを当てたり等のサプライズギミックをいじれるようになるまで俺の精神を掌握できるはずがない、

そんなはずがあってほしくない。


「お前はこの空間に適応するのが随分早いみたいだが...大物だな、俺はたった今異世界ーだの精神世界だの色んな事を言われて身体がぶーるぶる震えていますが。」


背もたれに腕を絡め困惑しているような顔ではなく嫌味そうな顔を作り今の現状がその説明だけでは不可解の域を出ない事を伝える。


「残念だけど君の仮説は全て正しくない、僕はこの精神世界に何も告げられずに飛ばされて、挙句自力で此処とは何なのかを理解した。」

「そしてもうひとつ、僕は君の精神を掌握した訳じゃない、ただ君の世界が寛容で、よそ者である僕でもある程度の融通が効いた、というだけだ。」


広げていた手の指を1つ、2つと折っていき

僕が考えていた事を訂正する。

いや待て


「流れるように心を読むんじゃない、それになんでお前みたいな奴が俺の精神に入り込むんだよ、大体異世界ってこことは違う世界なんだから異なる世界の人間にーなんて、故意的に起こしたとしか思えないぜ?」


もっともではないだろうか。

確証性の無いものばかりを説明に提示されてはいそうですかと受け入れ話を進められるほど僕は柔軟じゃない。

先の仮説や適応の話だってそうだ

いくら説明されていても、この空間が異常だというだけで彼女の言うことの信憑性が大きく下がるのだから。


「メリアス・マテリア」

刹那、俺の後ろに黒い支柱が突き刺さる。

串刺し1歩手前である状況、だがこんなものはスポットライトや椅子と同じ原理だろう、こいつが異世界の人間だなんて信じる訳が


「信じます信じます」

残念俺は信じてしまう

というのも先程の椅子といいスポットライトといい。共通点があった。

全て「この支柱と同じ特徴を持つ」ということ、

この支柱、大黒柱(物理)はただの支柱ではなく、肉塊や肉繊維のようなものが巻きついてある気持ちの悪いやつだ。

よく見れば俺の椅子もこの支柱と同じように真っ黒なだけではなく肉塊や肉繊維が付いていた。

キモい。

とにかく、精神を掌握していないと言っていたやつが

俺の見たことの無い物ばかり顕現させていたのだ。

となると、俺の記憶から引っ張り出したそれらではない

ではこれが魔法ということで決定しようじゃないか。

まあそういうところだ。


「こんなもので信じてくれるのならお安いね。」

足先で地面をたんたん、と軽く叩くとその支柱は消滅した。

かっけぇ。


「それで、だ。」

気づけば彼女はもうひとつの椅子に、俺と対面する形で座っていた。

これも肉塊があるのだろうか。


「君が目覚めるのは確定として、目覚めた時に2つの可能性がある。」

「1.君が元の世界へ僕が“この精神世界に居着いてる状態”で戻っていくパターン。」

「2.君が─僕の世界─へ僕がこの精神世界に居着いている状態で転移してしまうパターン。」


1は小さな同居人が増えるだけでそこまで負担は無いと考えるとして、問題は2、仮に彼女の世界への知識が十二分にあるであろう彼女がいたとしても、魔術や戦いに通ずる突出した能力が俺には無い。

生きていけるのか


「待て待て、仮に2だったとして俺は見ての通りなんの力も持たない可哀想な未成年だ。お前によればその...魔力?ってモンも俺には無いんだろ?生きていけるかで考えた時、完璧ヘルモードだと言い切れるね。」


いっそ異世界転移特典みたいなものが欲しい。


「あるよ、いせかいてんいとくてん。」


だから心を読むな。


「君の魔力は()君の中に無いだけだ。」

「恐らく僕の世界に来た時に

周囲に漂う魔力を君が吸収するだろうよ。」


指で輪っかを作りそこにもう一方の手の指を入れる、おそらくこれがこいつの言っている魔力を吸収するということのイメージなのだろう。

ただ。


「おい待て、何故お前のその小さくて可愛い指の輪っかにもう片方の5本指全てを詰め込もうとするんだ、そんなのまるで...」


まるで、過多に物事が起きているみたいじゃないか。


「そうだよ、君はいわば本来満タンになっていないといけない水槽に全く水が入っていない状態なんだ。

魔力はね、常に僕の世界では補給され続ける、どこにいようともね

僕の世界に君が降り立った時、きっと、“押し寄せる”よ。」


水槽に一斉に水が流れ込んだらどうなるか、

額から冷や汗が浮き出る、言葉の誘導による妄想が、俺を焦らせる。


「まだ話は終わっていないよ。」

そんな俺を尻目に、

こいつは椅子から降り、1歩、1歩と俺の元へ歩みを進める。

目前とも言える場所に立った時

俺の腹部分に小さい人差し指をあてがった。


「君の水槽を、僕の水で満たしてあげよう。

もとよりそういう提案をするつもりだったんだ。」


こいつの、水

こいつの魔力?を俺の方にうつし嵩を増す...ということだろうか。


「そうだよ、僕は悪い魔力を持っていてね?

どれだけ使っても減らない悪い魔力。」

「それを君に分けてあげようと言っているんだ。」


分からないことしかない。

これがもしも悪魔の契約だったとしたら?

二度と後戻りが出来ない怖い物だったとしたら?


「...その提案は...呑まない。」


ここでは正しくない答えであるだろう、きっと

だが1.2の2分の1の確率

そして確証性の無い提案

どうせこいつが俺の心に住み着くのは変わらないとするのなら。


「いつでも契約歓迎だ...と、君はそう思ったわけだ?」


首を静かに縦に振る、一先ずは様子を見るとしよう。


「何せお前は、その魔力が流れ込んだ事による被害を何も言っていないつまり!生き残る事が出来る可能性は0ではないということだ!」


彼女を持ち上げながら自信満々でそう言ってやる。


「うわぁ!?ちょっ...トバリくん!?離せ!離すんだ馬鹿者!」


小休止


「...分かったよ、君は安牌を取るような事はしないんだね。」


落ち着いてお互い椅子に腰をかけ直した。

先に喋りだしたのは彼女だ。


「あぁ、何せ俺は戦い方は複数あった方が好きな人間だからな...あれだろ?十中八九お前の魔力が流れたら固有能力にーってパターン。俺はまだそれをする時じゃないと思った。俺ん中の主人公ポイントはここでは加点されないからな。」


主人公ポイントは俺が主人公みたいな行動した時に加算されるやつね。

俺基準


「大体死ぬ事があるなら先に言うと思う...し...」


視界が揺らぐ、座っていたはずの椅子が無くなっていた。

ぼやけている視界では彼女が俺を見下ろしている、頭を撫でている。

...いつから俺はこいつに膝枕されている?


「僕は...そうだな...キューとでも呼んでよ、可愛いだろう?」


薄れゆく意識の中で聞こえた、鈴の音のような幼く可愛い声は

確かに俺に向けて、そう言った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ