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8話 騎士団長と百合展開?

「最悪というのは具体的に」

「自由が全くない、機械ばかりで息苦しい、未来が2択しか無くなった……です」


 私は現実を口にしたことでまた苛立ちが襲ってくる。それを誤魔化すように食べかけのおにぎりを放り込んだ。


 梅干しの酸っぱさに顔を顰めるがお腹が満たされていくことによって苛立ちは軽減される。


「ハムスターみたいだな」


 頬をぱんぱんにしながら咀嚼していれば、アリエラの手が口元へ伸びてきた。

 そして勢いよく食べたせいで付いてしまった米粒を取ってくれる。


「誰も取らないからゆっくり食べろ」

「……はい」


 アリエラは取った米粒を口に含むと微笑んだ。


 私はまたミチカゼの方をチラ見するが、真剣な表情で同じ影を操っている。

 影の土台となるモンスターを倒さなければ私の指示が切れることは無いようだ。


「最悪の理由を聞くに、君はこのプロジェクトを良いものだと思ってないようだな」

「………」

「別に私の前では構わない。君のような参加生も少なからず見てきた」


 少数派ではあるが私やミチカゼと同じように思っている人は居たらしい。

 でもその人達はどうなったのだろう。


 このプロジェクトに参加したのなら合格か脱落の未来しか選べない。

 どっちにしろ地獄には変わりないのだが…。


「アリエラさんはどう思ってますか?勇者育成プロジェクトを」

「誇り高きものだと思っている」

「それは騎士団長の立場からしてですか?」

「ただのアリエラという人間でもだ」


 この人もササと同じタイプみたい。別に敵視するわけではないけど、呆れの気持ちを向けてしまう。


「だからこそ羨ましいんだ。君達参加生が」

「私はアリエラさんのような選ばれない人生が良かったです」

「お互いにないものねだりだな。けれど私は、騎士団長の職は1番参加生に近い立ち位置だと思っている。羨ましいけどやるだけのことはやった」


 ご立派な人だ。そう思いながら2個目のおにぎりを持って綺麗な玉子焼きを頬張る。


「アリエラさんは甘い味付け派ですか」

「君はしょっぱい派か?」

「ミチカゼが作ってくれるのはいつもご飯に合う味付けなので」

「彼も料理をするのか。失礼だがちょっと意外だ」

「ミチカゼは料理も上手だし家事も得意なんです。節約術のレベルだって高いんですよ」

「それは見習いたいな」


 次のおにぎりの具は鮭のほぐし身だった。


 生まれ育ったスラム街からここに来て、食事が豪華になり太らないか心配になってくる。

 しかしその分過激な運動をしているから痩せる心配をした方が良いかもしれない。


「……まぁ私生活の面に関しては最高になるのかもしれませんね」

「参加生には最高の設備と最高の食事などが用意されるからな。要望があればいつでも受け付けている」


 我儘が通るのもこの先地獄が参加生を待ち受けているからだろう。

 せめて今この瞬間は贅沢をさせてくれる。それが小賢しい。


「ご馳走様でした。ペンギンりんごも美味しかったです」

「そう言ってもらえて良かった。それで、あれは大丈夫なのか?」

「あれ…?」


 お弁当を綺麗に完食した私はアリエラが指差す方向を見る。

 そこには私達をガン見しながら影を操るミチカゼが居た。


「うわっ」

「コハク!その状況は後で聞くがとりあえずホログラム投影止めてくれないか!?」

「も、もう少しやってたら?」

「お前絶対、設定多めにしただろ!倒しても倒しても湧きやがる!」

「わかったわかった。ストップするから静かにして」


 こっそりモンスターの数を多めにしていたのがバレてしまったようだ。


 私はアリエラにお礼を言いながらお弁当箱を渡して機械を操作する。

 ホログラム投影を停止させれば敵達は消え、ミチカゼが操る影もヘドロになった。


「やっぱり俺単独で戦うのは大変だなぁ〜」


 ミチカゼは溢れ出るモンスターが居なくなったお陰で疲れたようにこちらへ飛んでくる。

 ……いや疲れてない。こいつ興奮してる。


「さて、俺が訓練している間何してたんだ?」


 口調は冷静を装っているが、鼻息は荒く目は大きく開いている。


 私はそんな幼馴染にため息をついてアリエラがくれたお弁当を食べたことを話した。


「お弁当!?しかも手作り!?」

「そーだよ」

「えっじゃあお決まりのあー……」

「静かにして馬鹿恋愛脳」

「馬鹿とはなんだ馬鹿とは」


 私は機械に残る記録を確認しながらミチカゼの興奮を鎮める。

 頭を撫でてもらった話はしないでおこう。


「ミチカゼ、結構倒したんだね。同じ影を操るのに時間制限は無いんだっけ」

「おー」

「でも生成したモンスター1体しか操れないから大変だね。他の式神使うには私の指示が無いとダメだし」

「おー」


 恋愛脳に浸っているのか疲れたのか曖昧な返事しか聞こえない。


 いつもなら胸ぐら掴んで殴っているところだが、ミチカゼが戦っていたお陰でアリエラと話が出来た。


 自分のことを話すのは大変だけど意外とスッキリするものらしい。


「アリエラさん。私達はそろそろ終わります。ミチカゼは疲れたみたいだし、私はまだ頭の中の整理が出来てないので」

「それが正解だな。こんな遅くまでやっていると明日に響く」


 私達が遅くまでやっていることでアリエラも待たせてしまうかもしれない。

 たぶんこの人は責任を持って最後まで付き添うタイプだ。


「そうだ。2人とも少しいいか?」

「なんすか騎士団長」

「今日は帰って構わない。ただ、今度時間が取れたら2人の故郷について聞かせてくれ」

「故郷……スラム街の話ですか?何も面白いものなんてありませんよ」

「興味で聞くわけではない。この国では機械や科学の力で成り立っている。しかしそれが行き届いてないスラム街の現状を知るのも騎士団長の役目だ。当事者に話を聞けるのなら私にとっても良い勉強になるだろう」


 やっぱりご立派な人だ。私はミチカゼと目を合わせた後、2人で頷く。

 そうすればアリエラは軽く頭を下げた。


「それではまた時間が空いたら見に来る。特別フロアを使う時は必ず連絡を入れろよ」

「はい」

「ではお疲れ。無理しすぎないように」

「お疲れ様っした〜」


 アリエラはお弁当箱が入った袋を片手に特別フロアから出て行く。

 それを見送った私の肩にガシッと重みがのし掛かった。


「何でしょうかミチカゼさん」

「さっきの話を詳しく聞かせてくださいなコハクさん」

「はぁ……」


 今日の就寝時間は遅くなりそうだ。

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