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7話 脳筋女子と頭脳派男子

 ミチカゼと連携の訓練を始めて1週間。私は頭を抱えながら特別フロアの隅に蹲っていた。


「私の戦いしながらミチカゼの指示をするなんて無理!!」

「でもそうしないと2人で戦えないだろ〜」

「私の容量の無さと頭脳は知ってるでしょ!?身体と脳内を別々に動かすのは無理に決まってる!」


 この1週間、私達は沢山のホログラムのモンスターを倒してきた。そこでわかったのだ。

 私は考えながら戦うことがマジで苦手だと。


「ミチカゼへの指示って1つの式神だけが対象だし、自分で考えて戦えって指示は通らないし!」

「そこまで万能じゃねぇからな」

「槍を使いながらミチカゼの面倒まで見きれない…!」

「自称姉なんだから弟の面倒見ろよ」


 ミチカゼは慰めるように私の背中をポンポンと叩く。すると俯く私の視界に誰かの足が入った。


「参加生でも2つの才能を駆使するのは時間が掛かるか」

「アリエラさん…」

「騎士団長!コハクが疲れて嘆いているので俺の代わりに癒してあげてください!」

「私に癒しを求めるな。それは幼馴染兼式神であるミチカゼの役目だろう」

「いや〜俺は〜」


 久しぶりにアリエラを見た気がする。一応関係性としては近くなったがこの人は騎士団長。

 国を守るために多忙で、この1週間は会えてなかった。


「アリエラさんはお仕事終わったんですか?」

「今日の分はな。君達はこんな時間まで訓練してたのか?」

「……二次試験まで約2ヶ月。このままじゃ落ちる可能性が高くて」

「コハクが脱落したら俺も脱落だからな」

「余計なこと言わないでよ!そもそもあんたが勝手に…!」

「喧嘩するな。焦れば焦るほど停滞するぞ」


 アリエラに止められてしまった私はミチカゼを睨みながら舌打ちする。

 ミチカゼはビビったフリをしながら特別フロアを飛び始めた。


「まぁあれだ。とりあえず回数を重ねてみようぜ」

「えぇ…」

「とは言っても俺は一次試験脱落者。コハクよりは努力しなきゃならねぇ。コハクは休んでな。俺1人の訓練やらせてくれ」

「はいはい…」


 私は不満気に返事をしながらホログラム投影機械を操作する。

 そして数体のモンスターを呼び出すとミチカゼに指示をした。


「ミチカゼ。そいつの影を作り操って」

「おう!」


 そうすれば問題なくミチカゼはモンスターの影を生成し始める。

 その様子を私とアリエラはフロアの傍らで眺めていた。


「指示は様になってきたじゃないか」

「単純に指示するだけですし」

「それでもミチカゼは素直に従っている。信頼関係が厚い証拠だ」

「幼馴染ですし」

「そ、そうか」


 私は失礼な態度だと思いながらもイライラが収まらなくてその場に座る。


 体育座りをしながら膝に顔を埋めれば何かが頭の上に乗せられた。


「こうすれば落ち着くのか?」


 頭の上に乗せられたもの。それはアリエラの手。

 細くもゴツゴツ感のある騎士の手はぎこちなく私の頭を撫でる。


「この前ミチカゼも撫でていたから多少は気が楽になると思ったのだか」

「あっいや…」


 私はチラッとホログラム投影と戦うミチカゼの方を見る。

 もしかしてと思ったが彼は相手に集中していて、こちらに目もくれなかった。


「も、もう大丈夫です」

「そうか。ならこれ食べるか?」

「これは?」

「私からの差し入れだ。この時間だと食堂開いてないだろう」


 アリエラは私の隣に座って袋に包まれた箱を渡してくれる。

 ありがたくそれを受け取った私は中身を確認した。


「えっ凄い」


 蓋を開いてみれば、おにぎり2個と数個のおかず。そしてりんごで作ったペンギンが詰められている。


 まさかアリエラ特製のお弁当なのだろうか。思わず呟いた感想にアリエラは鼻で笑う。


「口に合うかわからんが」

「仕事忙しいのに作ってくれたんですか?」

「料理は私のストレス解消法だからな。これはすぐに作れる簡単なものだ。気にしなくていい」

「ありがとうございます。頂きます」


 私はおにぎりを手に取ってひと口食べる。ミチカゼがよく作ってくれたおにぎりと同じで、程よい塩加減が最高だった。


「おいひい…!」

「なら良かった。ミチカゼは式神だから食事は要らないのだろう?」

「はい。実質幽霊みたいなもんだって自分で言ってました」

「なるほど。確かに見た感じは幽霊そのものだ」


 私がご飯休憩している中、ミチカゼはモンスターを倒していく。

 一定時間で湧き上がるものなので休む暇なく戦っていた。


「………」

「不安か?」

「まぁ、はい」

「それは何に対してのだ?」

「……わからないです」


 不安や焦りは常に持っている。しかし“何に?”と聞かれると上手く答えられない。

 ぼんやりとした名前もつかないものに不安を感じていた。


「そういえば君達はスラム街出身だったな?」

「はい」

「物心覚えた時からか?」

「そうですね。親の顔も知らないです」

「ずっと2人だったのか?」

「一応周りの人達が面倒見てくれました。でも本当に一応です。今まで2人で生きてきたって言った方がしっくりきます」


 私はおにぎりを食べ進めながらアリエラの質問に答える。

 これくらいの問いなら別に隠す必要はない。


 きっとプロジェクト委員会はもっと詳しい情報を入手しているはずだから。


「スラム街と比べてどうだ?ここでの生活は」

「最悪ですよ」


 おにぎりを中心部分まで食べると中身に梅干しが入っているのがわかる。

 ご丁寧に種まで取り除かれていて、堅物のアリエラというイメージが若干歪んだ。

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