6話 式神との戦い方
槍を振り、犬型モンスターを討伐していく。
私が勇者育成プロジェクトに招待された理由。それは槍術の才能があったからだ。
槍なんてプロジェクトに参加するまでは握ったことも無かったけど、いざ使ってみればスッと手に馴染んだのを覚えている。
「1体終わり」
何なくモンスターを1体討伐したところでミチカゼの方を向いた。
「待てよ何で何で!?」
「ミチカゼ!?」
彼の力ならこのモンスターは普通に倒せるレベルだ。
なのに現在のミチカゼは敵に影魔法を使うどころか逃げ回っている。
「何してんの!」
「影魔法使えねぇ!」
「はぁ!?」
途中、私の視界には残っている犬型モンスターが入って槍で突き刺しながらミチカゼへ叫ぶ。
「マジで言ってんの!?」
「大マジだよ!こいつの影を作ろうとしても生成出来ないんだ!」
まさか自分自身が式神になったせいなのだろうか。
私はアリエラの方を見るが彼女は変わらずに鋭い目つきのまま仁王立ちしている。
やっぱり自分達の力で解決しなければいけないらしい。
「くっ…!」
本来なら何なく倒せる敵。でもミチカゼを気にするせいかさっきから上手く攻撃が当たらない。
とりあえずホログラム投影を終了させなければと後ろへ逃げた時。
私の背中には温かい何かがくっ付いた。
「ミチカゼ…」
「俺に指示してみてくれ」
「指示?」
「ああ。犬型モンスターの影を生成して操れって」
「それで戦えるの?」
「さぁな。でも試しにやってみようぜ」
ミチカゼは急に冷静な声で私に教えてくれる。彼がこの声になる時はいつも上手くいく時だった。
見た目や性格に合わず、頭脳派なミチカゼ。私はそんなミチカゼを信じて息を吸い込む。
「ミチカゼ。犬型モンスターの影を作ってそいつを操って」
「おう!」
私が指示をすればミチカゼはモンスターに向かって手をかざす。
すると1体のモンスターは苦しそうにしながら足を止めた。
そんな、奴の足元には黒いヘドロのようなものが湧き出ている。
ミチカゼの影魔法だ。
この魔法は“影”と言っても日が無い所では生成不可能というわけではない。
影が出来る生物や物体なら式神として操り可能なのだ。
「出来たの!?」
「俺も所詮は式神か。主であるコハクに指示してもらわないと魔法が使えないみたいだ」
「ミチカゼが式神になる前はこうやって影を操っていたんだっけ」
「操っていた側が今では操られる側だな〜」
影魔法は無事発動して真っ黒な犬型モンスターが生成される。
「よし行け!そいつら全員喰らえ!」
私はミチカゼに作るだけではなく操れと指示をした。そのお陰かミチカゼは普段通りに影魔法を使えている。
犬型モンスターの影……いわゆるミチカゼの式神は彼の言葉通り、瞬く間に残りの3体を討伐した。
「やった」
「ああ…やったな」
ミチカゼは私に向けて手を挙げる。私は勢いよく手を重ねると爽快な音が特別フロアに響き渡った。
私は槍をリストバンドの力で収納し、ミチカゼは犬型の式神をヘドロへと戻す。
「良くやった。最初の壁は越えたな」
「アリエラさん…」
ずっと私達を見張っていたアリエラはホログラム投影機を停止してこちらにやってくる。
「やはり何度見ても参加生の戦いは面白く尊敬するものだ。近いうちに私と手合わせでもやってみるか?」
「騎士団長と参加生が手合わせって大丈夫なんですか?」
「問題ないだろう。君達は特別扱いだからな。才能ある者と戦えるのはこれ以上に無い経験になるはずだ」
アリエラは私達のようなプロジェクト参加生とは違い、才能を持てなかった側の人。
一般的にはそういう人達を凡才と称し、安定の人生を送る。
私からすれば凡才の人生こそが至高だと思うのだが……この国の一般常識としては違うようだ。
故郷に居た時もプロジェクトに参加してる今も、同じような感覚の人とは出会えてない。
「それなら今度コハクを貸すぜ!もう思う存分撃ち合ってもらって」
「あんたもやるんだよ式神」
「ちょっ、その呼び方なんだよ!」
「ちなみにさ。ミチカゼへの命令ってどこまで通用するんだろうね」
「は?いや待てよコハク」
私はふと、浮かんだ疑問を口にする。ミチカゼは嫌な予感がしたのか苦笑いで後退りした。
「ミチカゼ。肩揉んで」
「……おう」
試しに肩揉みを頼めばミチカゼは怒ったような顔をしながら私の背後に回る。
やはり式神だから主の我儘も聞いてくれるようだ。
本心とは裏腹に肩揉みをしてしまう自分にミチカゼは弱々しい声を出す。
「パワハラだ…」
「これが主と式神の上下関係よ」
「俺らに上下なんて無いだろ!」
「時には対等に。時には上下に」
「何ドヤ顔して言ってんだ!名言にもなってねぇ!」
「2人は仲が良いんだな」
私達がそんなやり取りをしていると、アリエラは顎に手を当てて眺めてくる。
そういえばあまり私達の関係性について話してなかった。
「ミチカゼとは幼馴染なんです。でも一緒に暮らしていたから姉弟とも言えますが」
「やっぱり俺は弟なんだな。まぁ良いけど」
「幼馴染同士でプロジェクトに参加か。面白い運命だ」
「俺的にはそちらの2人の出会いを運命に…」
「ミチカゼ」
「すんません」
また姫男子脳が発動したから私は低い声で名前を呼ぶ。
アリエラは特に意味がわからなかったのか少し首を傾げた後、私達へ向き直った。
「では後の強化訓練は君達で自由にやってくれ。私はひと足先に退散するが、機械は好き勝手いじって構わない」
「わかりました。ありがとうございます」
「もう行くんすか?」
「一応この国の騎士団長だからな。面倒事や書類は大量に抱えている。何か問題があればすぐに連絡してくれ。怪我の無いようにな」
私はミチカゼに肩を揉まれながら頷く。そうすればアリエラは微笑んで特別フロアから出て行った。
「あの微笑み、どっちに向けたものだと思う?」
「どっちもでしょ」
「そっか……そろそろ肩揉みやめていいか?」