5話 頭痛の原因は興奮
ササと途中で別れた私はアリエラが指定した特別フロアへ足を運ぶ。
ここは国で行われているプロジェクトのため、スマホの地図が無いと辿り着くのが難しいくらいに広い。
試験は勿論、普段の強化訓練や設備も質の良いものなので膨大な国家予算が使われていると思う。
「おはようございます」
「来たか。勿論あいつも居るんだろうな?」
「ここでは出して良いんですか?」
「私と君。そして式神の3人だけだ。出して構わない」
「だってさミチカゼ」
私がそう言うとミチカゼは背中の方からヌッと出てくる。
そんな彼は若干興奮している様子だった。
「すみません。少し時間をください」
「ああ」
私はアリエラから許可を貰ってミチカゼの胸ぐらを掴む。
昨日知ったことだが、私の身体と私が意図的に触れた物ならミチカゼが貫通することはないらしい。
私は主としてミチカゼを引き寄せると強く鼻を摘んでやった。
「いででで!!」
「あんたさ。百合状況が発生するとわざと頭痛を起こさせるの?」
「は?何のことだよ」
「とぼけんな。さっきから一瞬の頭痛が酷いんだよ。しかもササが嬉しそうにした時とかちょっと近づいた時とかに限ってね」
「し、知らない!マジで知らない!でも俺の百合興奮のせいならごめん!」
「ならこれから興奮しないで」
「え無理」
「は?」
たぶんというか絶対あの頭痛はミチカゼのせいだ。思い返せば昨日アリエラと居た時も時々頭痛があった。
単純に疲れと意識を無くしたのが原因と思っていたけど、さっきので確信したのだ。
ミチカゼが興奮すれば私の頭が痛くなると。
「そろそろ良いか?時間を無駄にして困るのは君達なんだぞ」
「すみません」
「い゛でぇ!」
アリエラに口喧嘩を止められた私は、とりあえずミチカゼの頭を殴っておく。
「……では本題に入ろう。勇者育成プロジェクト委員会から君が式神を使う場合はこのフロアを使って良いとの許可が降りた。ミチカゼの存在を隠すためにな」
「こんな広い訓練フロアを1人で?」
「いてて……実際は2人だけどな」
「昨日も言ったが君達は特別扱いだ。魔法と武術の才能を持ち合わせている貴重な勇者候補。最終試験をクリアしてもらわないと困る」
思ったより私とミチカゼは優遇されているみたいだ。ここなら伸び伸びと武器を振えそう。
「ただし、君が武術の強化訓練をする時は他の参加生と同じフロアでやれ。怪しまれないようにな」
「なるほど。つまりここは俺を使う訓練専用の場所ってことか」
「そういうことだ」
アリエラは腕を組んで頷く。
あまり否定対象である委員会に感謝したくはないけれど、ここは甘えて利用させてもらおう。
二次試験までに急ピッチで成長しなければならないのだから。
「じゃあ早速やってみるか?俺を武器とした訓練」
「そもそも何すれば良いの?ミチカゼを操るって言っても、好き勝手動けるじゃん」
「まぁ……」
ミチカゼはチラッとアリエラの方を向く。きっと何かアドバイスをくれると思ったのだろう。
しかしアリエラは口を閉ざしたまま腕を組んで立っている。
これは単純に見張りをするためにここに居るだけのようだ。
「あーっと、まずはいつも強化訓練でやっているホログラム投影やってみるか?」
「そうだね」
「騎士団長ホログラム使って良いっすか?」
「構わん。好きにやれ」
ミチカゼは頷くとフロアの端にある機械に近づいて敵となるホログラム投影を出そうとする。
これは一次試験前にも沢山お世話になった物だ。
操作すれば極限までリアルに近づけた魔物をホログラムとして再現してくれる。
攻撃を当てられた時の痛みは実際と同じくらい痛く、傷もちゃんと出来てしまうらしい。
まぁ今のところ私はモロに当たるのは未経験だから聞いた話になるが。
「あっそうだ俺触れねぇんだ。コハク!一度これに触ってくれ!」
「はいはい」
私はミチカゼが操作しようとした機械に触れてみる。
その後にミチカゼが手を伸ばせば貫通することなく機械に指を当てれた。
「やっぱりコハクが触ればいけるんだな」
「これで洗濯や掃除もミチカゼにやってもらえるね」
「俺は武器であって召使いじゃねぇぞ?」
そんなことを言いながらも結局はやってくれるのだ。
プロジェクト参加生になる前もミチカゼの家事能力には沢山助けられた。
こいつは幼馴染でもあり私のオカンでもある。
「っし!1分後に顕現するってさ!まずは好きに戦ってみようぜ!」
「OK。槍の準備も出来てる」
私は何も握られてなかった手から槍を出す。これは参加生に配られた特殊リストバンドの力だ。
肌身離さずに着用している。
アリエラは邪魔にならないように機械の側へ移動してきた。
「まずは様子見だな。2人の実力を見せてもらおう」
その数分後。強化施設の特別フロアには4体の犬型モンスターが投影された。