表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/18

18話 二次試験【生き地獄こそ天国】

 そして私達が立っていた真横に参加生の身体が打ち付けられる。

 ミチカゼは即座に私の中に入って姿を消した。


「だ、大丈夫?」


 私は突き破られた天井を見上げながら落ちてきた参加生の男に声をかける。

 うめき声が聞こえるので即死や失神はしていないようだ。


 一応上空を見続けるが特に変わった様子はない。


「ちょっと身体起こすね」

「ああ…」

「うわっ怪我ヤバ」


 観察を止めて倒れた参加生に近寄ると私以上の傷を負っているのがわかる。

 おそらくモンスターに吹っ飛ばされたか魔法か何かで逃げてきたのだろう。


「下手くそな粗治療するけど我慢してね。その前に少しここで待ってて」


 名も知らぬ参加生はコクリと頷く。それを見た私は少し離れた場所に移動して小声でミチカゼを呼び出した。


「言いたいことわかる?」

「偵察だな」

「うん。ミチカゼ、近くに大型モンスターが居ないか確認してきて」

「おう」


 必要最低限の指示を出せば、ミチカゼは建物に身体を貫通させながら偵察に行ってくれる。

 これで私も処置に集中出来るわけだ。


「じゃあやるからリストバンドから道具出して」

「わかった…」


 男性は痛みに顔を顰めながらも救急用具を取り出す。怪我をしているのに申し訳ないと思ってしまうが、こればかりは仕方ない。


 私のを譲れば私が使いたい時に無くなってしまうのだ。今回は協力試験というより個人試験。


 私は消毒液と包帯を手に持って、ぎこちない手つきで応急処置を始めた。


「大型モンスターにやられたの?」

「ああ…」

「そのモンスターは討伐した?」

「いや…」

「周辺に居るの?」

「結構な距離を、移動させられた…」


 この人が手を出したのは移動系のモンスターだったのか。


 それを踏まえると、当たれば最悪だが広範囲移動ではなかった大型ゾンビモンスターは討伐しやすかったのかもしれない。


「これからまた戦える?」

「………」

「ちなみに何体目なの?」

「2体…」

「なるほどね。もしこのまま動かないのであれば私が横取りしちゃうよ?」

「………」


 半分本心で半分は喝入れだ。自分で傷をつけたモンスターを取られたくないのであれば立ち上がれと鼓舞したかった。


 でもこの参加生の目にはもう光が無い。諦めている。


「貴方がこの状態でこんなこと言うのも気が引けるけど、戦えないのであれば私が代わりに討伐してあげる。そして私の加点にする」

「ハハッ…」

「どう?最悪な思考でしょ?こんな奴に取られて良いの?」

「……あれはもう無理だ」

「何でよ」

「当たったのが悪かった。相性が悪かったんだ」


 少しずつ意識が朦朧としている参加生。私はムッとして傷口に多めの消毒液を吹きかける。

 そうすれば痛みに身体が跳ねて閉じかけた目も開いた。


「諦めたら生き地獄だよ」

「もう、それで良いと思える」

「はぁ?」

「結局……どっちに転んでも地獄だろ。このプロジェクトは」


 その点に関しては否定する気になれなくて私は黙る。ミチカゼのようには上手くいかないが処置も終わりに近づいていた。


「合格した人は兵器になるんだ。勇者のこともこの国の外のことも国民は知らないけどそれくらいは想像つくだろ?死に行くようなもんなんだぞ」

「…そうだね」

「俺は、死にたくない…。死ぬ地獄に行くのなら、生きて地獄を歩きたい」


 私はうわ言のように話す参加生に大きくため息をつく。そして巻いた包帯の端を槍で切ってキツく縛った。


「知らないよ。貴方の理想なんて」


 座り込む参加生の側に使った救急用具を置いて私は立ち上がる。

 この先の難しいことを今考えるのは嫌だった。


「少なくとも私はこの試験を突破する。最後に転がるのがどっちみち地獄でも、私が残ればこのプロジェクトを否定できる」

「何言ってんだよ…」

「私の野望」


 きっとこの人はもう戦わない。ならこの人が傷をつけて多少の痛手を負っているモンスターを試験突破のために使わせてもらおう。


 槍を握った私は柄の先端を肩に乗せて参加生に背を向ける。


「そうだ。一応名前聞かせてよ」

「……それは脱落したか確認するためか?」

「それもある。でも1番は貴方の名前が、私が勇者育成プロジェクトを否定する力になるから」

「………俺は」


 小さな声は耳を澄ませなければ聞こえないくらいだった。

 私は頷いて刻み込まれた名前を読みながら天井が空いた建物を出ていく。


 最後に、あの参加生が鼻で笑う声が耳に届いた。


「ミチカゼ」

「終わったか?」

「うん。偵察ありがとう」

「へいへい。んで偵察結果だが……鳥型のどデカいモンスターが南側を彷徨っている。討伐するなら今だぜ」

「行こう」

「おう」


 私は偵察が終わったミチカゼと合流すると足を止めることなく南へ向かう。

 すると途中でミチカゼが私の頭を撫でてきた。


「何?」

「いや、別に」

「変な奴」


 やはりミチカゼにはバレていた。私はぼやける視界をハッキリさせるために目を拭う。

 その拍子に溢れ出てしまった涙が頬を流れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ