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13話 二次試験【ダウナー系の不思議ちゃん】

 人間の骨の音だ。ここまで骨が砕かれる音は初めて聞いたけど私は一瞬で確信を得る。


 それはミチカゼも同じようだった。


「コハク」


 私はミチカゼと目を合わせて溜まった唾を飲み込む。


「ミチカゼ。私は音と逆方向に行く。だから音がした場所を確認してきて。でも絶対にバレないようにね」

「おう」


 ミチカゼの声と同時に私達は別々の場所へ駆け出す。これも1週間前に急遽追加した式神戦法だった。


 ミチカゼは私が意図的に触れたものでないと貫通してしまう。

 しかしそれを逆手に取れば密偵にも向いていることがわかった。


 私達が離れられる距離は試した限りでは制限がない。

 上手く情報を掴めれば良いのだが。


「走りづらい…!」


 私は崩壊したビルの中に入り、割れたガラスから別のビルへと移動する。


 そうすればコウモリのような小型モンスターが待ち構えており、特殊リストバンドから槍を出した。


「邪魔!」


 ミチカゼが居ないから私1人の戦い。


 でもこんな小型モンスターは普段からホログラムで相手している。

 突き刺し、振りかぶれば簡単に消滅させられた。


「……あそこで待ってるか」


 私はビルの中から辺りを見渡すと下の方に小さな店が目に入る。

 勿論、廃墟と化しているが身を隠すには十分だった。


 ヒビが入っているガラスを槍で貫いて潜れるような隙間を作れば下に向かってビルから飛び出す。

 この高さなら普通に受け身をとって降りられるはずだ。


「うわっ!!」


 そう思ったから飛んだのだが、私は柔らかい何かに受け止められていた。


「ヘドロちゃんが空から落ちてきた」

「き、キシャ!?」

「うん。キシャだよ」


 目の前に数十分前まで見ていた顔が現れて心臓が跳ねる。

 上から降りてきた私はお姫様抱っこされて着地したようだ。


 いや、着地はしてない。受け止められてからずっと抱っこされている。


「ごめん。キシャが居るってわからなかった」

「それは褒め言葉として貰うね。ヘドロちゃんは怪我してない?」

「平気」

「僕も平気」

「受け止めてくれたのはありがたいけど降ろしてくれる?」

「せっかくなら一緒に大型モンスター探さない?」

「はい?本当に試験官の説明全部聞いていたの?今回は己の力だけでクリアしなきゃ…」

「聞いていたよ。ヘドロちゃんは試験官の言葉をちゃんと理解出来てないね」


 試験前にも同じことを話した気がするけど、今回はおまけの嫌味が追加されていて私はカチンとくる。


 間近に居るキシャを睨みつけるが、彼女は気色悪い微笑みで私を見つめ返した。


「1人でクリアしなければいけないのは討伐だよ?ヘドロちゃん」


 私はキシャを睨みつつプロジェクト会場で話された概要を思い返す。


『ただし今回の“討伐”は己の力だけで戦うように』


「確かに言ってたわ……」

「でしょ?」


 プロジェクトの試験官はだいぶ頭を使わせることが好きらしい。

 ちゃんと討伐はと言っていた。となればそれ以外は誰かと組んでも構わないのだろう。


 ミチカゼはこれに気付いているのかな?


「いやいや!だからと言ってキシャと一緒に探すのは出来ない!」

「何で?2人で探せば効率良いよ」

「見つけた時点で取り合いでしょ!」

「じゃあ先にヘドロちゃんのモンスターを見つけよう。そして次に僕のを探して、その後はまたヘドロちゃん…」

「とりあえず降ろして!!」


 キシャと話したのは累計しても10分程度だが、この人は自分のペースにすぐ持っていく人だ。


 相槌ばかりで流されたら終わり。私はそれを回避するために足をバタバタと動かした。


「ヘドロちゃん危ないよ。今降ろすから暴れないで」


 私の抵抗が激しすぎたのかキシャは困った表情をしながら近くの瓦礫に私を座らせる。


「……一応お礼は言っておく。空から落ちてきた私を取ってくれてありがとう」

「うんうん。お礼言えて偉いねヘドロちゃん」

「何なのこいつ」


 ミチカゼ。私はたぶんこいつとの百合展開は無理だと思う。

 アリエラやキシャとは違い、敵意しか湧かない。


「……って何であいつの欲を叶えるみたいなこと言ってんのか」

「あいつってどいつ?」

「何でもない。私はもう行くから。時間が勿体な」

「もしかしてヘドロの男の子?」


 私は瓦礫から上げようとした腰を止めそうになる。

 しかし動揺したら負けだと本能的に思ってゆっくりと立ち上がった。


「私が思い当たるヘドロの男の子は幼馴染のミチカゼかな。でも彼はもう一次試験で脱落したよ」

「幼馴染くんが生き地獄に行ったのに随分と冷静なんだね」

「だってそれは2ヶ月前のことだし。いい加減区切りはつけなきゃ」


 早くここから去りたい。ミチカゼには悪いけどもう少し離れた場所で待機させてもらおう。


 私は元々向かっていた方角へ足を踏み出そうとした時、キシャは呟いた。


「落雷」

「え?」


 私がキシャの声に振り返った途端、肩を跳ね上がらせてしまうほどの轟音と地鳴りが起こる。


 私達が居るビル下の向かい側。待機しようと狙っていた小さな店の建物に雷が落ちた。


 火花が思いっきり辺りを舞うと周囲の植物に火をつける。

 しかし崩壊都市であったため火が燃え移ることは無かった。


「な、何してんの?」

「僕は雷魔法の才能を持っているんだ」

「いやそれは今のでわかったよ!じゃなくて何で何も無いところに落雷落とした!?」

「何も無い?ヘドロちゃん本気で言っているの?」


 どうやらキシャは単純に見せびらかすために雷魔法を使ったようではないみたい。


 私は後ろ足でキシャから距離を取るけど静かに浮かべる笑みは変わらなかった。


「ヘドロちゃん、そこに居るよ。ヘドロくんが」


 キシャは落雷を落とした建物を指差す。私は横目で確認すると、そこには確かにキシャの言うヘドロくんが居た。

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