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12話 二次試験【新しい戦い方】

 崩壊都市。これは現実にある空間なのだろうか。


 半分崩れているビルのような建物。ひび割れて盛り上がるコンクリ道路。

 一応草花は咲いているが、踏んだら終わりのレベルだ。


「ミチカゼ、最初はどうする?」

「とりあえず建物に囲まれた場所を探しながら大型モンスターを見つけようぜ」

「今のところ他の参加生達は見えないけれどバレないように気をつけてね」

「わかってる」


 転送の時点でバラバラの位置に飛ばされたようだ。ヘドロちゃん呼ばりするキシャの姿も気配も無い。


「コハク、足元気をつけろよ」


 私は障害物に当たることないミチカゼを先に進めて崩壊都市を散策する。

 物を触った感じは実物そっくりでとても冷たかった。


「……見ろよ。腹空かせた犬が彷徨っているぜ」

「早速だね」


 崩壊都市の道路を歩いていると目の前から獣の唸り声が聞こえる。

 私達がよくホログラム投影で戦っていた犬型のモンスターだ。


 転送前、試験官が合格基準は“絶対に大型モンスター”2体と言っていた。


 そこから察せるのは大型以外のモンスターも存在するということ。

 そしてそいつらは倒しても何のポイントにもならないこと。


「まずコハクの身体温めなきゃだな」

「確かにそれも大事だけれどアレを練習したい」

「おっ!やってみるか!」

「自信つけなきゃね」


 私は特殊リストバンドから槍を出して構える。ミチカゼもニヤリと笑えば、周囲を見渡してとある場所へ飛び出した。


「こいつを式神にする!タイミングよく指示してくれ!」

「了解!」


 犬型モンスターは私に焦点を当てると吠えながらこちらへ駆け出す。

 数は5体。ちょうど良い練習相手だ。


「ふんっ…!」


 私は槍を振るって次々に傷を入れる。

 この後の大物に備えて体力を削りたくないので軽く薙ぎ払う程度に。


「そろそろかな」


 私はモンスターの攻撃を躱す度に口角が上がってしまう。

 こいつらは私に誘導されているのに気付いてないようだった。


 私は地割れしている道路を走り、折れかけた歩道橋の間を潜る。


 そしてその歩道橋の上で待機していたミチカゼに指示を出した。


「ミチカゼ。歩道橋の影を作り操って」

「おう!」


 頼もしい返事が聞こえたと同時に歩道橋の下からヘドロが垂れる。

 それはみるみる形になっていき、もう1本の真っ黒な歩道橋が現れた。


「落ちて潰せ!」


 ミチカゼが式神となった歩道橋へ叫ぶ。


 タイミングよく私に釣られた犬型モンスターは歩道橋の真下を潜った。

 次の瞬間、金属音と土埃が辺りに舞う。


 ミチカゼの指示通り歩道橋は落ちて犬型モンスターを潰した。


「ミチカゼ完璧じゃん」

「コハクの指示もタイミングもバッチリだったぜ!良いな障害物利用戦法!略して障利法(しょうりほう)!」


 落ちた歩道橋はヘドロに戻って形を無くしていく。

 犬型モンスターも既に消えていて、作戦は成功したことがわかった。


 この戦い方こそが式神を道具とした戦法だ。ちなみに名付け親はミチカゼ。


「障利法って色んな場面で使えるんだけど、ミチカゼへの指示を常に気にしなきゃいけないのがね…」

「でも直前に影を生成することで不意打ち効果も狙える。レベルの高いモンスターなら考える能力が備わっているだろうから、この方法が最適なんだよ」

「はいはい…」

「コハクなら慣れればいけるって!ほら、大型モンスター探しに行くぞ!」

「はーい…」


 私が頭を使って戦うのに慣れるのはまだまだ先のようだ。

 特殊リストバンドに槍をしまうと先を歩くミチカゼの後ろを着いていく。


「そーいやさっきの抱きつきは何だったんだ!?ダウナー系の高身長女子にバックハグから頬っぺたスリスリ!」

「試験中だけど」

「緊張ほぐしているんだよ」

「ほぐすどころか興奮してるでしょ」


 こんな時も相変わらずだ。一次試験前はガクガク震えて大変だったくせに。

 私は調子が良い幼馴染にため息をつく。


「あのさミチカゼ」

「んー?」

「もし今回の試験落ちたらあんたはどうすんの?」

「……というと?」

「今の状態だと私が生き地獄に行ってもミチカゼは強制的に着いてくるようになるじゃん」

「まぁそうだな」

「そういう時って契約解除みたいの出来ないの?」

「は?契約解除?」


 ミチカゼは振り返ると信じられないと言わんばかりに目を大きくする。


 この話は何があるかわからない試験後には出来ない話だ。

 今聞いておかなければと私は拳を強く握った。


「どうなの?」

「出来るわけねぇだろ」

「それはミチカゼの私情が入っているから?」

「違う。そもそも契約解除の仕方がわからないんだ」

「でもミチカゼが生成する式神はすぐにヘドロに戻るんでしょ?だったら……」


 私はそこまで言いかけてハッとする。ミチカゼにヘドロに戻れなんて単純に“死ね”と言っているのと同じだ。

 私は眉間に皺を寄せて唇を強く結んだ。


「……ハッ。なに弱気になってんだって」

「いった」


 するとミチカゼが私に近づいてデコピンを食らわす。

 多少の加減はしてくれたが額にはじんわりと痛みが広がった。


「二次試験は始まったばかりだろ。しかも初っ端から順調だ。ビビんなよコハク」

「ビビってないし」

「なら可能性が無い未来を想像すんな!俺を使えば大丈夫だ!」


 本当に能天気な奴だ。でもそれで救われている。

 私は額を摩りながらもう片方の手で拳を作りミチカゼへ伸ばそうとした。


「いゃああああああああ!!」


 しかしミチカゼの拳と私の拳が重なり合う時、近くで人の悲鳴が聞こえる。

 私達がその方角に首を向けた瞬間、骨が軋む音が耳に入った。


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