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11話 二次試験【開始】

【勇者育成プロジェクト二次試験。崩壊都市内に潜む大型モンスター2体の討伐】


 そう書かれた用紙を眺めながら私は試験官の話を聞く。

 ついに二次試験の日がやってきてしまった。


 参加生は全員、プロジェクト会場で緊張感のある空気を出しながら待機している。


 ここは以前、ミチカゼが脱落を告げられた場所。視線をずらせば生き地獄への大扉が目に入った。


「試験会場である崩壊都市にはグループごとに転送してもらう。ただし今回の討伐は己の力だけで戦うように」

「……やはり一次試験はチームを組むことが許可されていたようですね」

「あえて言わなかったんだろうね」


 私の隣にはいつも通りササが立っている。

 小声で話しかけてきた内容からして、ササも一次試験の落とし穴を知っていたようだ。


「大型モンスターは複数体放ってある。目的をクリアすれば自動的にこの会場へ送られる仕組みだ。そして制限時間は2時間半。広大な崩壊都市を満遍なく使ってくれ」


 二次試験の内容は今の今まで知らなかったが、私は内心ホッとしている。

 崩壊都市ならミチカゼと急ピッチで習得した技を使えるからだ。


「改めて二次試験の合格基準を話しておこう。合格は大型モンスター2体を制限時間内に討伐。脱落はそれを成せなかった者だ。モンスターは必ず2体。そして大型。これが絶対条件だ」


 試験官の説明が終わると会場内のスクリーンにグループ分けが表示される。


「コハク様とは別ですね。良いのか悪いのか…」

「まぁモンスター争いしなくて済むから良いんじゃない?」

「そうですね。ワタクシはコハク様と戦いたくありません」


 私はグループA。ササはグループCに振り分けられた。


 それにしてもグループ制になるのは少し厄介な気がする。

 ミチカゼを隠しながら戦わなければならないのは神経がすり減りそうだ。


「それではグループAの者達から控え室へ移動!他の者はここで待機!」

「「「「はい!」」」」


 二次試験が始まる。ここでまた脱落者が出るのか。


「コハク様、頑張ってください!」

「ササもね。じゃあお先に行ってくる」


 ササはあまり緊張してないのかにこやかな笑顔で私を見送ってくれる。

 対する私はササも自分自身も誤魔化すように作り笑いを浮かべた。


「そういえばアリエラは居るのかな…」


 私は控え室に向かう途中、プロジェクト会場内を見渡してみる。


 この1週間は仕事が忙しかったのか特別フロアに顔を出すことは無かった。

 そして今もアリエラの姿は見えない。


「……約束は守らないとな」


 以前アリエラに私達が育ったスラム街について話すと約束した。

 しかしそんな機会が訪れることなく二次試験が始まってしまったのだ。


「約束ってヘドロを出した人との?」

「うわっ!」


 プロジェクト会場から出て控え室に入ると後ろから声をかけられる。


「貴方は確か」


 この前、訓練の時に参加生を気絶するまで薙ぎ倒していた女性。

 近くで見ると私より身長が高くて細いのがわかる。一見弱々しい。


「キシャ」

「えっと、キシャね。私はコハク」

「よろしく。ヘドロちゃん」

「何その呼び方…」


 キシャと名乗る女性は怪しい笑みを浮かべながら私に抱きついてくる。

 そうすればあの姫男子が脳内で興奮した。


「試験前に何?離れて」

「どうせ一緒の場所に飛ばされるんだから良いじゃん。ヘドロちゃんはスキンシップ嫌い?」

「大嫌い」

「僕は好き」

「んなの知らんし」


 絡みつくキシャを引き離そうとするが案外力が強くて離れない。


 私だってプロジェクトの参加生でおまけに才能は武術だ。

 力はあるはずなのにこの細い腕の檻をこじ開けるのは難しかった。


「ねぇヘドロちゃんはどういう作戦を取るの?」

「言うわけないでしょ。同じグループで実質敵同士なんだから」

「でも大型モンスターは2体以上放たれているよ。奪い合いにはならないと思うな」

「試験官が言ったの全部聞いていた?今回は己の力だけでクリアしなきゃいけないんだよ」

「聞いていたよ。僕は別に手を組もうなんて言ってない」

「何こいつ」


 キシャの相手をするのは面倒だと理解した私は諦めて彼女の抱き枕になる。

 身長差的にちょうど良いのか私の頭に顔を乗せたり、髪の匂いを嗅いできたりした。


「気色悪い…」


 そんな私の嫌味も届いてないのか構わず好き勝手する。


 一応私達は初めましてだ。スラム街育ちで十分な教育を受けていない私でも失礼だと思ってしまう。


「ではグループAの者達!10秒後に崩壊都市へ転送する!参加生同士距離を取ってその場で待機!」

「だってさ。離れて」

「わかってるよ。じゃあまたねヘドロちゃん」


 キシャは試験官の指示通り、私から離れる。

 私もキシャ以外の参加生と距離を取って二次試験への気合いを入れた。


 10秒後。私の視界は歪んで一次試験で無人島に飛ばされた時のことを思い出す。


 機械と科学の国だからこそ出来る技術。それなのに国の為に人生を捨てるという古臭い価値観は変わらない。


「っし!やるか!コハク!」


 元気な声が聞こえて目を開ければ、歯を見せて笑うミチカゼが私の隣にいる。


 ここは勇者育成プロジェクト二次試験会場、崩壊都市。

 開始の合図が鳴り響いた。

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