10話 試験脱落説濃厚
「ミチカゼ。そいつの影を作り操って」
「おう!」
二次試験まで残り1週間。私達は特別フロアで毎日のように連携を確認していた。
最近は私だけの槍術の訓練も参加しているので疲労は溜まっている。
しかし訓練をしていなきゃ不安が募るため常に戦っている毎日だった。
「コハク後ろ!」
「わかってる!」
私はミチカゼの声と同時に槍先を後ろへ振る。そうすれば鳥型のモンスターに命中し、光となって消えた。
「よし!引き裂け!」
ミチカゼも操っていた式神に指示を出して残りのモンスターを討伐していく。
「連携……ってほどでもないけど戦い方は形になってきた気がするね」
「でもコハクの指示って1パターンしかないからなぁ〜。もう少し影魔法を研究してみないか?」
「二次試験1週間前に何言ってんの?変なことしてレベル下がったらまずいでしょ」
「ハハッ、そんなカリカリすんな。研究くらいでレベルは下がらねぇよ。むしろ試験突破する確率が上がるぞ?」
「なんでそんな楽観的に…」
ホログラム投影が停止した直後、私は疲れが一気に出てその場に寝転ぶ。
ミチカゼはそんな私にケラケラ笑って空中を回っていた。
「コハクは色々と心配しすぎだ」
「だって全然使いこなせてない気がするし…」
「2ヶ月で影魔法を完璧に使いこなすのは無理だろ。元々コハクの才能は武術だったんだし」
「……ミチカゼ的にはどう指示して欲しいの?」
「というと?」
「だから、1パターンの指示以外にどんな指示をすれば良いのかって話!」
私は二次試験への焦りからか怒ったような口調と声になってしまう。
それでもミチカゼは戸惑うことなく空中であぐらをかいて考え始めた。
「んー、そうだな。俺ってプロジェクトに参加して影魔法の才能を知ってからほぼ感覚で戦ってきたんだ。一次試験のサバイバルプログラムも考えるよりは勘でこなしていた」
「へぇ意外」
ミチカゼは私と違って頭脳派だ。感覚で戦うのはどちらかというと私の得意分野だと思う。
「でもさ。式神になってから感覚頼りの戦い方がしっくり来なくなってな。ただ影を操り戦うっていうのは違うように感じたんだ」
「じゃあどうしたいの?」
「正直に言うとコハクには俺を道具として使って欲しい」
「……はい?道具?」
突然何を言い出すのかと私は口を軽く開ける。ミチカゼはそんな私の間抜け顔に吹き出し笑いすると近くまで寄ってきた。
「言っただろ?俺はコハクの武器になるって」
「それは聞いたけど、今も十分武器じゃない?」
「俺はそう思わない」
「何でよ」
「だってこの2ヶ月の俺達って結局個人個人の戦い方しかしてないだろ」
頭脳派ではない私はミチカゼが言っていることを素早く理解出来ない。寝転がりながら首を傾げる。
「試験1週間前に伝えるのも今更だけど、コハク。俺が作り出した式神を利用して戦ったことはあるか?」
「あっ…」
「個人個人の戦いっていうのはそういう意味だ。今の俺達ってお互いの力を利用して戦ってない。ただ守り合っているだけかもな」
私はこの2ヶ月間の訓練を思い返す。
悔しいけどミチカゼの言う通り、私は彼の力を利用して戦ってなかった。
「指示はしてやるからあとは勝手に動け」というスタイル。
それは結局、ミチカゼの影魔法を放し飼いしているのと同じ。
「私、ミチカゼのこと飼い慣らしてなかった」
「言い方最悪だな。誰がペットだ」
「でもそういうことでしょ?」
「まぁな。例えは最低だけど」
ミチカゼが伝えたかったことを理解した私は勢いよく身体を起こす。
そして近くに居たミチカゼの胸ぐらを掴んだ。
「何で今の今になってそれを言うの馬鹿!!」
「ちょっ、俺だって今気付いたんだよ!さっきまで式神を操る精度を上げるので精一杯だったし!」
「じゃあどうするの!?もう1週間だよ!?」
「やれることはやろう!まずはモンスターの特性を理解するところから」
「んなの私が出来るわけないじゃん!」
「ならこうしよう!二次試験がどんな会場になるかはわからないけど……」
胸ぐらを掴まれて私に揺らされるミチカゼは早口で対策を述べる。
それを聞いてみれば確かに場合によっては使えるなと思った。
「なるほどね。ミチカゼ、今からやってみよう。きっとそれならホログラム投影に入っているはず」
「でも流石にもう時間も遅いだろ。コハクは今日も槍術の訓練やってたし」
「私は平気。やろう」
「二次試験前に倒れるぞ」
「危なかったらミチカゼが止めて。けれど私は少しでも武器を増やして試験通過率を高めたい」
私はミチカゼを掴んでいた手を離して立ち上がる。現実的な対策を聞いただけなのに、もう前を向けている。
単純な奴だなと自分でも思った。
「……わかった。でも本当にヤバかったら強制的に休ませるからな」
「うん」
「残り1週間は効率重視でやろう」
「了解。ミチカゼ、力を貸してね」
「こちらこそ」
ミチカゼも気合いが入ったのか冷静な声に変わる。この声を聞けば、私達が上手くいく未来が見えてくるようだった。
「よし、やるか」
「とりあえずミチカゼが言った対策をやってみよう」
「任せろ」
さっきまでの焦りが嘘みたいだ。反省点が見つかり、より連携しやすい戦い方を生み出せそうで安心感を得られている。
二次試験まで残り1週間。私はミチカゼと元にとある物をホログラム投影として映し出した。