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最強令嬢の秘密結社  作者: 鹿音二号
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幕間

彼の普段の行いからは意外に思われるが、大司教イニアーティの朝は厳格な御勤めから始まる。


新任の修道士よりも早く起き、ようやく紫色になりつつまだ暗い空の頃に、真っ暗な礼拝堂に頼りない小さなろうそく一本でやってくる。身を清める冷たい水を頭から被り、真新しいローブを身につける。祭壇に跪き、長年口に親しんだ聖句を延々と唱える。朝の礼拝がはじまる前まで。


普段が普段、遊び回り、下町で酒や肉を一般人と交じって昼食にし、夜は歓楽街へ。

教会にイニアーティという司祭はいない、街に住んでいるのだと、揶揄されるほど。


何度も枢機卿から苦言を呈されているが改善しない、とてもではないが聖職者に適していないイニアーティだが、不思議と周りの司祭や修道士からは絶大な支持を得ていた。


次の枢機卿の候補でもある。


この朝の個人的な礼拝は、付き人の修道士にすら告げていないので、付き人は気づいてはいるものの身の置き場がない状態だった。


今日も戸惑いながらいつもの修道士が起き出す時間に起床し、大司教が一人で礼拝堂に祈りを捧げる姿を扉からそっとのぞく。

変わりがないことを確認したあと、他の修道士の手伝いに向かった。いつものように大司教へ朝食前に温ためた胡椒入りのぶどう酒を確保を忘れないようにと考えながら。



お付きの修道士の気配にも気づかず、イニアーティは乱れる心を抑えつけるために、聖典を諳んじながら自分の祈りも織り込んでいく。


「神よ……メネがその兄弟へと説く忘れられし7戒のごとくを……何故わたくしめに与え給うた……1戒を破られるたび地はひび割れ、鳥は落ち、水は濁り、空は暗く。……トドイズの諫言をマイーズが受け入れた。……今やその御威光は地上に満ちて、長き平穏を我々は享受し、甘露を口にし……それが、覆されると……」


上位フリンニ語は、限られた司祭しか使いこなせない。その今は失われた言語で聖典の第一ノノトゥ書は書かれ、教会の真髄にして秘匿された教え。


上位フリンニ語を流暢に唱え、祈祷するイニアーティは、普段のだらしない態度はうそのように、真摯で、誰が見ても敬虔な信徒であり、大司教だった。


かたわらのろうそくはとっくに芯をすべて焦がしていた。

ようやく空が白み始め、小さな窓から柔らかい光が差し込み始め、若いが苦渋に満ちた顔を照らす。


「神よ……わたくしめに与え給うた試練、必ずや」


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