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最強令嬢の秘密結社  作者: 鹿音二号
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将来へ投資

 ミズリィを乗せた馬車を見送って、来ていた送迎用の馬車にスミレをエスコートする。

 やっぱりそういったマナーは知らないようで、教えながらタラップに足をかけさせた。


「ミズリィと友達なら、基本的なマナーは覚えないとね」


 イワンが反対側の座席に乗り込むと、そわそわしながらスミレはうなずいた。


「いつもはどうやって帰ってるんだ?ああ、純粋な疑問さ」

「はい、乗合馬車で……」

「そうか、学院の近いところに停留所があったっけ。今度から、僕かメリーの家から馬車を出すようにするよ。行き帰りはそれを使って」


「え……ええ?」

「まあ念のため。ミズリィに乗合馬車の停留所まで行かせるわけにいかないし」

「……とてもありがたいのですが、けど……」


 途方に暮れたような顔になって、スミレは両手を肩のところまで上げた。ホールドアップみたいだ。


「お節介さ。ミズリィが君を守ると言った以上、僕としても協力したいし」

「お聞きしてもいいですか?」

「なに?」

「イワン様が私に色々してくださるのは、ミズリィ様のためだというのは分かりました。でも、本当に、色々熱心にしてくださって……何故なのか、私には少し、疑問です」


「うん、すごくいい」

「は?」

「君がミズリィにぴったりだってこと」


 きょとんとするスミレは、美人ではない。愛らしい顔立ちだとは思うが、平民ということもあってか目を見張るような容姿じゃない。

 けれど、その中身は結構すごいんじゃないかとイワンは今では思う。


「そうだな、投資かな」

「投資、ですか」

「うん。あのな、ミズリィは生粋の貴族の令嬢なんだ。いわゆる箱入りってやつ」

「……ええと」

「気高くて、純粋で、きれいな。けれど傲慢だ」

「――」

「君も分かってるみたいだね」


 もの言いたげにしているスミレは、イワンが何を言いたいのか悟っているようだ。


「自分に必要なもの以外は、興味がないんだ。別け隔てなく優しいよ、ミズリィは。けれど、それは好きもないってことなんだ」


 必要ないものは路端の石と一緒だ。だから、スミレのことも、いじめにしろ外套にしろ気づかなかった。


「別に支障はないんだ、彼女は公爵家令嬢、ゆくゆくは皇太子妃……皇后だ。必要なものは黙っていても手にできるんだし」

「……」

「けど、なんか今日はおかしくてね」


 はあ、とため息をつく。

 ミズリィは昨日休んだかと思えば、朝からぼんやりしているし、途中で講義棟から消えたときは、驚いた。いつもなら群がってくる貴族の子女たちの相手を義務とばかりに延々としていたはずだ。


「思い詰めてるみたいだし、よっぽど帰ればと言ったさ」


 けれど、どうしても学院にいたかったらしい。理由は分からない。


「で、君だよ」

「私……ですか」

「そう、僕たち以外にあんなに熱心に関わろうとするのは初めて見た。あんなにうろたえて、怒って……君のためにだ」


 困ったようにスミレは俯く。


「裏庭でのことを聞いたときはびっくりしたよ。ミズリィがなぜ君に拒否されたのかもわからないことにびっくりしたし――君が拒否したことについても」

「どうしようもなかったんです、あのときは。まさかペトーキオ様にそんなことをしていただけるなんて思いもしなかったんです」

「僕だって最初の頃はそうだったよ、気前はいいんだけどね……ともかく、これは、と思ったんだよ。もしかしたら、君はミズリィにとっていい友人になれるんじゃないかって」


「どうしてです」

「拒否した、ということは下心がないってことだろ。ちょっとでも公爵令嬢に温情をもらえるなら、卑しく地面に頭をこすりつける奴らだってたくさんいるんだ」

「そうでしょうね」

「それに加えて、エヴァーラに詰め寄られていたときさ。ああそうだ、君に謝らなくちゃ」

「なにをですか?」


「君がいじめられていることは知っていたのに、何もしなかった。許してほしいとは言わないけれど……」

「――傷つかなかったとは言いません。けれど、あなただけじゃなく、ほとんどの人たちが見て見ぬふりでした。どうしようもないことだと、思います」


 スミレがそういうふうに悟った顔をするところも、気に入っていた。だからといって、イワンが許されるというかというとそうではないだろう。けれど強く恨まれることもなさそうだ。

 今は、彼女を守ることで少しくらいは償いがしたい。


「……うん。それで、エヴァーラに君のほうが嘘だと言われているのに、反論をした」

「黙っているのが一番でした。でも、どうしても、怒りが先に来てしまって……」

「そういう当たり前のことも出来るっていうのはあの状況ではなかなかいないよ」


 だから、ミズリィの友達にとイワンが望んだ。


「君が来てくれたら、きっとミズリィも良くなる。その将来に投資さ」

「そうでしょうか。不相応の私なんかより、もっといい家柄の方がお似合いです」

「それはどうかな」


 ミズリィ・ペトーキオより家柄のいい子女なんて、婚約者のテリッツ皇子くらいだ。

 つまり、ミズリィにとって学院のすべての人間が重要じゃない。

 それなら、彼女が気に入った、スミレのように下心もなく意思がしっかりした人間のほうがマシだ。


 今日一日だけで、スミレがミズリィに教えたこと、気づかせたことは大きなものになっている。


 ミズリィは素晴らしい友人を見つけたと、イワンは本当に思う。

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