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19 ジントニック

 クリスマスが近付く頃。僕は七瀬さんと亜矢子さんの店に行った。扉は閉められており、リースが飾られていた。


「いらっしゃいませ」


 店内には、既に二人のお客さんが居た。初音さんと大和さんだった。初音さんが声をかけてきた。


「おっ! 七瀬くんと葵くんじゃない。久しぶりぃー!」


 僕は初音さんの隣に座った。


「何になさいますか?」

「俺はビールで」

「僕も」


 七瀬さんは、初音さんたちに言った。


「実は、俺たち付き合いました」


 初音さんは手を口にあてた。


「マジでー!? 七瀬くんがそっちの人だって知ってたけど! 葵くんもだったんだ!?」

「僕は男の人というより七瀬さんが好きなんです」


 大和さんが口笛を吹いて言った。


「まあ、お熱いことで」


 ビールができた。僕たち四人は乾杯した。初音さんが言った。 


「二人はここで出会ったんでしょう? 亜矢子ちゃんはキューピッドだね。ボクと大和もこの店が最初だったもん」

「懐かしいな。三年くらい前のことだ」


 大和さんによると、彼らは同棲しており、そろそろ籍を入れようかと話しているということだった。初音さんは言った。


「結婚なんて紙切れ一枚のことだと思ってたんだけどね。やっぱり、どっちかが入院したときとか、死んだときのこと考えると、夫婦になった方がいいと思ってさ」


 僕はそこまで考えたことがなかった。同性だとどうすればいいのだろう。パートナーシップ制度があるとは聞いたことがあるが、よくは知らない。七瀬さんが言った。


「まあ、ゲイだと養子縁組っていう手もあるけどね。デメリットもある」

「そっちは大変そうだねぇ」


 初音さんが自分の毛先をくるくる遊ばせながら言った。僕にはまだ、両親に七瀬さんのことを話せる勇気なんて到底ない。絶対反対されるに決まっている。

 まあ、今は先のことなど気にせず飲もう。せっかくショットバーに来ているのだから。僕はジントニックを注文した。亜矢子さんが言った。


「ふふっ、葵さんもバーテンダー泣かせですね」

「どういうことですか?」

「ジントニックは、バーテンダーの腕が試されるカクテルなんです。実はけっこう緊張します」


 亜矢子さんはグラスにライムを絞った。氷も入れて軽くステアし、メジャーカップでジンとトニックウォーターを入れ、静かに二回ほどステアした。


「ジントニックです。元々は薬用だったんですよ」


 確かにジンの苦味がぐっとくる。しかし、ライムの爽やかさと、ドライな喉越しが何とも気持ちが良い。


「亜矢子さん。すっごく美味しいです」

「ありがとうございます」


 初音さんと大和さんは先に帰っていった。入れ違いに、団体のお客さんが来て、にわかに騒がしくなった。


「葵。俺たちもこれ飲んだら帰ろうか」

「はい。今夜はどっちで?」

「飲み足りないし、俺の部屋で」


 僕たちは七瀬さんの部屋に入り、ソファで缶ビールを開けた。彼は僕の肩に腕を回してきた。


「もうすぐクリスマスだな、葵」

「今年のイブは土曜日ですね。僕、張り切って料理作りますから」

「おっ、楽しみだな」


 僕は七瀬さんの手をさすった。彼に料理を食べてもらうことが、今の僕にとって何よりの楽しみだった。


「そういえば、七瀬さんは帰省するんですか?」

「正月くらいは顔出そうと思ってるよ。もううちの親も、結婚がどうのとか言わなくなってきたしな」

「僕もお正月に帰ります。寂しくなりますね」


 七瀬さんの瞳を見つめると、彼は吹き出した。


「おいおい、一日二日のことだろう?」

「それでも、僕には長いです」


 付き合ってから毎日顔を合わせていた。そう思うのも当然じゃないか。僕はキスを求めた。


「葵は本当に可愛いな」


 優しく舌を転がされた。僕は七瀬さんの耳を触った。ぴくんと彼が反応した。ここが弱いと最近知ったのだ。唇を離し、僕は耳を舐めた。


「あはっ、くすぐったいって」

「ええー? それって気持ちいいの手前ですよ?」


 七瀬さんが僕の頭を押さえ付けるので、僕は舐めるのをやめた。僕たちはベッドに移動し、セックスをした。


「なんか、葵の今後がこわいな」


 ベッドに寝転がりながら、そう七瀬さんが言うので、僕はまばたきをした。


「どういうことですか?」

「ほら、葵って素直だろ? 性に対しても素直。だから、どこまで行くのか正直こわいんだよ」


 七瀬さんの言う意味がよくはわからなかったので、とりあえず唇をふさいでおいた。


「七瀬さん、大好きです」

「うん、俺も」


 僕は七瀬さんとなら、どこまでも行こう。世間のことや、親のこと、解決せねばならないことは山ほどある。でも僕は、彼と生きていきたい。一緒に歳を重ねていきたい。それほどまでに、僕は彼にのめり込んでいるのだ。


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