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「殿下、お義姉様が何か失礼を致しましたか?」

「‥…いや」

現在進行形で王子に失礼を働いているのはローズマリーなんだけどね。

会話に乱入するわ、勝手に話しかけるわ。首が飛ぶかもしれないわね。

「ジョルダン伯爵令嬢の言う通り、貴族社会のマナーにかなり疎く、お茶会に参加できる状態ではありませんでした。申し訳ありません。私たちはこれで退場させていただきます」

「えっ、お義姉様。まだ来たばかり」

「それでは失礼します」

淑女の礼を取って私はこの場に留まろうとするローズマリーの腕を掴んで引きずるように会場を出る。

ローズマリーは「痛いわ、放して」や「まだお菓子も食べてないのに」など大声で喚いていた。とても貴族の令嬢とは思えない。

やはり、平民を養女にするなど無理があるのだ。

彼女に同情するならせめて使用人として雇えば良かったんだ。

貴族に関わることのない下っ端の使用人の仕事なら何も問題はなかったはず。子供だから。可哀そうだからとよく知りもしない、でも危険だけはたくさんある貴族社会に入れるなんて子猫を獅子の群れに入れるようなものだ。

しかもマナーをきちんと学んでいないのかこの体たらく。

これでは他の貴族家や王家に公爵家の恥を晒したようなものだ。

「あら、もう帰ってきたの?早かったわね」

家に着くとアマリリスが私たちを驚きながら出迎えた。

「お義母様、聞いてください。私はまだお友達とたくさん話していないし、お菓子も全然食べていないのにお義姉様に無理やり帰らされたんです。お義姉様の社交性のなさは壊滅的です」

そう言ってローズマリーはアマリリスに泣きつく。

アマリリスは「あらあら」とローズマリーの頭を優しく撫でる。

「社交性のなさなど問題ではありません。一番問題なのはローズマリーが未だお茶会に参加できる最低限度のマナーが身についていないことにあります。早急に教え込んでください」

私が問題点について指摘するとローズマリーはぷくりと頬を膨らませる。

「そんなこと言われたって、私は元平民だもん」

「でも今は公爵家の養女よ。であれば、そのような言い訳は通じないわ。嫌なら公爵家から籍を抜き、平民として暮らしなさい。仕事の斡旋ぐらいは公爵家の力を使えば可能よ。この家の下女として働くこともできるわ」

私がそう提案するとローズマリーは目に涙を溜め、大声を上げて泣いてしまった。

「酷いわ、私に死ねと言うのね」

「ただの一言もそんなことは言ってないわ。親がいなくてもあなたの年で働いている子はいるわ。現に仕事を斡旋すると言ったじゃない。スラム街に行けとは言ってない」

「お義姉様は平民として暮らしたことがないから。その辛さを知らないから平気でそんなことが言えるんだわ」

お前よりも嫌という程知っている。

現世では確かに苦労知らずの公爵令嬢だが前世では暗殺者だ。

名前も与えられず、親の顔も知らない。愛情も家の温かさも何も知らずに生きてきた。

空腹でお腹を抱えたこともあった。何度も餓死するんじゃないかと思ったこともあった。時には暴力を振るわれたことも。

ローズマリー、あなたは母親を亡くしてすぐにアマリリスに発見され、保護されたじゃない。

スラムで身を寄せ合って暮らしたことも餓死寸前まで追い込まれたこともないのに、あなたこそその辛さを知らないでしょう。

ただ、今の贅沢な暮らしを失いたくないだけ。

もっと贅沢な暮らしがしたいだけ。

私はアマリリスの腕の中で大声を上げて泣きわめくローズマリーを見つめる。

彼女は公爵家にとって毒だ。

野心が強すぎる。

「セレナ、幾ら何でも可哀そうよ。彼女はまだ環境に慣れないだけ。長い目で見てあげましょう」

アマリリスはローズマリーをあやしながら言う。能天気にも程がある。

「彼女はお茶会で王子に不敬を働きました。長い目で見た結果が我が家の没落でないことを祈ります」

これ以上は付き合ってられないので私は部屋に戻ることにした。

使用人には「冷たい人」「お優しい当主夫妻からどうしてあんな冷血が生まれたのかしら」と陰口を叩かれた。

どうやら馬鹿なのは使用人も同じようだ。

ここの住人は使用人も含めて随分と恵まれているのね。

「平和ね」

皮肉を込めた呟きを耳にする者はいなかった。

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