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私がケーキ用のナイフで刺した犬はアマリリスが手当てをするように命じたおかげで命は助かった。

刺したのがケーキ用のナイフで先がとがっていないこと、子供だったので力が足りず、ナイフが心臓まで達していなかったこともその犬が助かった理由の一つだ。

おかしい。

ケーキ用のナイフでは確実に仕留められないのは分かっていたので全体重をかけたはずなんだけど。

子供の体重と力は自分が思っている以上に弱いようだ。

私は鏡に映る自分の姿を見つめる。もう少し力をつけないといけない。

アマリリスに言っても反応が悪いだろう。貴族の令嬢はお淑やかであれという風潮のようだし。

最近、侍女たちの私を見る反応もあまり良くない。

ただ自分の身を守っただけなのに。

この世界は私には生きづらい。

「あ、あの」

おずおずと入って来たのは犬と一緒に庭に紛れ込んできた少女だ。

アマリリスが買ってあげたドレスを着ている。

茶髪に茶色の目。素朴な少女だ。でも、そこが可愛いと言われるのかもしれない。彼女の名前はローズマリー。

両親はいない。あの犬はたまたま拾って、以来家族のように過ごしているそうだ。

犬の名前はブルース。

自分だけでも生きるのに苦労しているのに犬の世話までするなんて、頭おかしいんじゃないか。

ローズマリーはヴァイオレット家の養女になった。

両親のいない彼女をアマリリスが哀れに思ったのだ。資金に余裕のある人は簡単に人に手を差し伸べるんだなと漠然と思った。

私にはそんな余裕なかったから他人に興味もなかった。

「これから、よろしくね。お、お姉様」

「ええ。よろしく」

侍女たちが心配そうに私たちのやり取りを見ている。

ブルースの件があってから、私は何か気に入らないことがあればすぐにナイフで刺すとでも思っているのか。みんなびくびくしている。

私はローズマリーが来た時にどうすべきか考えた。

そしてここは友好的な笑みを見せるのが良いだろうと判断して笑った。

結果は成功だ。

不安そうに、今にも泣きそうにしていたローズマリーは私の言葉に嬉しそうに笑った。

侍女たちもほっと胸を撫で下ろしていた。

こうやって少しずつ普通の人間に成りすまして行こう。そうすれば少しは生きやすくなるだろう。


◇◇◇


六歳になると社交界デビューの予行演習を兼ねたお茶会が開催される。

ローズマリーも私もそれに合わせてマナーや教養について学ぶ。

勉強は苦ではない。

生きるために必要だと判断すればどんなことでもただ身につければいい。

「セレナ様はとても優秀ですね。教えたことはスポンジみたいに何でも吸収して」

家庭教師の先生はにっこりと微笑みながら私の頭を撫でてくれた。

危ない。

急に頭を触って来るから思わず、隠し持っていたナイフで手首を切り落としそうになった。

無意識に体が反応してしまうのは仕方がない。そうでないと生きていけない場所で生きて来たから。でも、ここは違う。

慣れないといけない。

殺さなくても生きていける世界の感覚に。

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