飼い犬の餌はドックフードでいいんですっ!
「・・・・・」
「・・・・・」
なぜか、ブルースがじぃーっと見てくる。
見られてもブルースが何を訴えているか分からない。私は犬じゃないから。
だから必然的にお互い見つめ合うことになった。
すると、ようやくブルースは私に何も通じないと悟り、一旦は引き下がった。ブルースが部屋を出てどこかに行ったので私は大した用ではなかったのだろうと中断していた読書を再開した。
それからすぐブルースは空の餌入れを持ってきた。そこでようやく、ブルースがご飯を貰っていないことに気づいた。
ブルースの飼い主であるローズマリーはエインリッヒとの婚約がなくなり、彼女自身にも問題が多くあったため現在は修道院にいる。
そうなると、ブルースの世話をしても使用人には何の利益もない。今までブルースの世話をしていたのは女主人であるアマリリスに好かれているローズマリーに気に入られることで邸での自分の待遇を良くしてもらうためだ。
ローズマリーがいなくなれば面倒な家畜の世話をする理由がなくなり、必然的に放置されるようになったのか。
「仕方がない」
私が立ち上がるとブルースは尻尾が千切れるのではないかと心配になるほど振っていた。
「おいで」
まずは食材の確保だな。犬って何を食べるのだろう。
私は前世の記憶を辿る。スラムにいた犬はゴミを漁っていた。だからってブルースにゴミを与えるわけにはいかない。スラムで見かける犬はみんな痩せ細っていた。
あの家畜たちは私と同じで食べるものがゴミしかなかっただけだ。でも何かヒントくらいにはなるな。特に何を好んで食べていただろうか。
「・・・・・肉か」
確か骨のついた肉を好んで食べていたな。
肉なら私が訓練で使っている山に入れば簡単に手に入るな。
「よし」
†††
side .ブルース
どこに行くんだろう。
ご飯は通じたから問題ないし、くれる気でいるのも何となく分かる。
邸の人たちは基本的に冷たい。ローズマリーがいなくなってから特に顕著になった。
だからってセレナが優しい人というわけではない。邸の誰よりも怖い人だ。でも、邸の誰よりも信用できる。だから彼女に助けを求めたんだけど・・・・・本当、どこに行く気だろう。
「あら、ちょうどいいのがいたわね」
「・・・・・・」
ええっー!!
ちょっ、えっ、まじ、やっ、ええっ!!
ただご飯を要求しただけなのに、なぜか山に連れて行かされて、しかも目の前には巨大な熊がいる。
咆哮を上げて威嚇してくる熊に臆することなく立ち向かうセレナ。勝負は一瞬でついた。セレナは何の躊躇いもなく熊を仕留めた。
「さぁ、ご飯よ。食べなさい」
いや、あの、ドックフードでいいんですけど。
†††
「あら、ブルース。ご飯ね。ちょっと待ってね」
ブルースはマリンにご飯を要求するようになった。マリンがいない時はティグルだ。
別にいい。
犬の世話は私の仕事ではないから。そもそも私の犬じゃないし。
何も問題はないのだけど・・・・・・私が用意したご飯、問題があったのかしら。
書き下ろし小説の情報を出版社の公式サイトにて公開しています。
https://pashbooks.jp/info/motoan_tokuten/
●WonderGOO限定 購入特典
書き下ろしショートストーリー『白い子供(side.リック)』
王弟であり闇ギルドの長でもあるリックと、シアとの出会いの物語
●セブンネット限定 購入特典
書き下ろしショートストーリー
『幸福を呼ぶと言われる”白”はいつだって不幸の象徴だった(side.シア)』
セレナが邸を抜け出す際、身代わりとなる少女・シアの過去の物語。
※セブンネットは「特典あり」「特典なし」の商品ページがありますのでご注意ください。
●協力書店購入特典
書き下ろしショートストーリー『ただいま開発中につきご注意ください』
もしセレナたちの時代に銃があったら、暗殺術はどうなる……⁉️





