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【書籍化・コミカライズ】元暗殺者、転生して貴族の令嬢になりました。  作者: 音無砂月
第Ⅱ章 学園

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鉄錆の匂い。

舞う鮮血は皮膚に当たる時は生温かく、けれどすぐに温度を失くしてしまう。

べたつくその感触が酷く不快に感じるのはこれが久しぶりの行為だからだろうか。

ヘラは私が帰った後、すぐに行動を起こしたようだ。けれど思い通りの結果が得られなかったのだろう。だから暗殺者を差し向けて来た。

私が死ねばそもそもの訴えも取り下げられるとでも思ったのか?親子そろって残念な頭の持ち主だ。

けれどあまり質の良い暗殺者は雇えなかったようだ。

弱すぎる。

「汚れちゃった」

髪も、顔も、手も、服も床も汚してしまった。

「っ。ぶほっ、ごほっごほっ」

辛うじて息がある男の口から大量の血が出た。後数分で死ぬだろう。

山積みになった死体を見ても何も感じない。

深淵を映したかのような虚ろな目を見ても恐怖すら湧いてこない。

初めて人を殺したのはいつだっただろうか。

最初に殺したのは誰だったろうか。

殺したい人間はたくさんいた。殺した人間もたくさんいた。

初めて人を殺した時、何を考えていた?

何を思っていた?

どんな気持ちだった?

何も思い出せない。

今はただ髪に纏わりつく鮮血の感触も鉄錆の匂いも酷く‥‥…

「‥‥‥不快だ」

さっさと片付けてしまおう。

こんなところを使用人や公爵家の人間に見つかったら大騒ぎどころではないだろう。

たとえ前世では暗殺者でも今は戦うことのできないか弱い公爵令嬢なのだから。

「このゴミは‥‥‥元あった場所に返さないとね」

私は死体の首と胴を切り離した。

本当は全てを返してあげたいけどそれはなかなかの重労働だから首だけで我慢してもらおう。

胴は部屋の窓から外に捨てた。血まみれのドレスも一緒に。誰にも気づかれないよう細心の注意を払って外に出た後は胴を引きずって人があまり来ない庭の奥に行って死体を埋めた。

床も綺麗に掃除をして証拠隠滅完了。

目撃者がいなくて良かった。もしいたら片付けるゴミが増えてしまうからね。


◇◇◇


side.ヘラ


「きゃあっ!!」

「何よ、うるさいわねぇ」

馬鹿な侍女のバカでかい声で起こされた私の気分は最高潮に悪かった。

「何?何か変な匂いがする」

眠たい目をこすりながら起き上がると、ごろんと膝から何か重たいものが落ちたのが感触で分かった。

「何よ、一体?」

寝ぼけ眼で手を伸ばすとぬちゃと気持ち悪い感触がしたので慌てて手を見た。

「‥…血?」

眠気は一気に吹き飛んだ。

「きゃあっ!何よ、これっ」

ベッドの上に転がる三つの首。見覚えがあった。あの小生意気な娘を殺す為に雇った暗殺者だ。私に楯突くとどうなるか教えてやるために。

なのに、どうしてその死体がここに転がっているのよ。

殺したの?あの女が?どうやって?

手練れの護衛がついていないことは調査ずみだ。あの女は邸の使用人に嫌われているから邸の中ではいつも一人だった。殺すことなんて簡単なはずだ。

ただの令嬢に殺せるわけがない。仮に殺したとして警備の厳しい王宮にどうやって忍び込んだの?

特に側妃や王妃、王族の寝室は警備が厳しくなるしそこは王宮の最奥になる。王宮に忍び込むことでさえ至難の業なのにあまつさえ私の寝室に忍び込んで首を置いていったというの?

「こちらです」

「ヘラ様、ご無事ですか?」

「無事なわけないじゃないっ!早く何とかしなさいよ」

多分、朝叫んで部屋から飛び出していった侍女だろう。その侍女が護衛騎士と連れだって部屋にやって来た。

「ヘラ様、取り敢えず隣室へ」

侍女に促されるまま私はベッドから下りる。

「ひっ」

ごろりと転がって来た首が足に当たる。

「入浴の準備をしてっ!」

「は、はいっ。ただいま」

血で汚れたのは寝ぼけて触ってしまった手だけだ。それなのに体全体がベッドに転がる汚物に汚されたような錯覚を起こしてしまう。

「‥‥‥どうして、こんなことに‥‥‥」

私に楯突くことがどういうことか教えてやろうと思った。

あの小生意気なガキに世間の厳しさを教えてやろうと。実家の力を使って没落させてやろうとしたらなぜか流通がストップしてしまった。

側妃である私の実家よりもヴァイオレット公爵家の命令を聞く愚かな商人などこっちから縁を切ってしまえばいいのにお父様もお母様も「商人たちにそっぽを向かれてはドレスも宝石も買えなくなってしまう」と言って私のお願いを聞いてはくださらなかった。

「商人は信用が命。貴族様方が血筋や身分を大事にするように私どもは人との繋がりを大事にします。幾ら側妃様のご実家と言えど長い付き合いであるヴァイオレット公爵家に唾を吐くような真似はできません」と商人は言ったそうだ。そしてヴァイオレット公爵家に不利益を齎すつもりであるならば今後一切関わるつもりはないと言わんばかりに彼らはハイネンツ侯爵家に一切物を卸さなくなった。

訳が分からない。側妃である私の実家よりも公爵家とは名ばかりの落ちこぼれ貴族を選ぶなんて。

「側妃様、念のため聞きますが何かお心当たりがおありですか?」

「あるわけないでしょうっ!いいから早くそれを片付けなさいよ」

イライラする。

さっきの馬鹿な騎士の質問で更にイライラが増した。

「もうっ!何なのよっ!」

「側妃様、入浴の準備が、きゃっ」

侍女を押しのけて浴室へ向かう。

「ぼさっとしていないで、さっさと手伝いなさいよ」

「は、はいっ」


セレナ・ヴァイオレット。このままですむと思うなよ。


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