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「そなたとて誇り高き青い血筋の子。なればこそ、とるべき行動が分かるはず」
ああ面倒くさい。
エインリッヒがローズマリーを公の場で一方的に婚約破棄をしたことや私に明確な殺意を向けあまつさえ実行に移したことで沙汰が出るまで謹慎処分を言い渡され、ユリアーデンは地下牢に投獄されたのが昨日。
当然、黙って沙汰を待つことができないのが今私の目の前で優雅にお茶を飲んでいるこの人。
エインリッヒの母親、ヘラ・ハイネンツだ。
学校に行こうとしたらヘラの使者が来てすぐに王宮へ来るようにと言われた。連行されるように私はヘラの前に連れて来られたのだ。
舐めてるよね。
いくら側妃でもこんな無礼な呼び出しがあるか。しかもこちらの都合などないも同然の扱いでさ。きっと馬鹿王子と同じで自分の立場が分かっていないのだろう。ああ、なんて愚かなのだろうか。
「とるべき行動ですか?」
それってつまりエインリッヒに対する訴えを取り下げろってことだろうか。そんなの無理に決まっている。そんなことをすればこちらの面目丸つぶれだ。
「王家の顔に泥を塗るなど臣下たるもののするべきことではあるまい」
「何か誤解があるようですね」
「誤解だと?」
ヘラの眉間にしわが寄る。そんな凄まれても怖くもなんともない。権力を振りかざし、威圧すればこちらが怯えて下手に出るとでも思ったのだろうか。
自分以外は弱者だと捉え過ぎじゃないか。
「私は王家の顔に泥を塗ってなどいません」
「我が息子エインリッヒにあらぬ罪を着せておいてよくもぬけぬけと」
「あらぬ罪かどうかは陛下が判断されることです。側妃様がされることではございません。そういった進言は私ではなく陛下に仰ってください」
「その小生意気な口を閉じよっ!さすがは汚らわしい平民の娘などを身内に入れる家の娘。同じ青き血でも我らとは違うようだ。何と汚らわしい血か」
そう言ってヘラは大仰に扇子で口と鼻を隠す。まるでこちらから悪臭が漂ってくるとでも言いたげに。
「平民を公爵家の養女として迎え入れる奇特な家であることは認めましょう。ですが、越権行為を平然とやってのけるエインリッヒ殿下程ではございませんわ」
ピュンッ
ヘラが扇子を投げて来たので私は余裕で避けた。もちろん、それがヘラの気に障ることなど百も承知で。だからどうした?
ご機嫌取りをしてやる必要もわざわざ当たりに行って怪我をする必要もないだろう。
「公爵家とは名ばかりの落ちこぼれの家のくせに。良いのか?そのような態度をとって。そなたの家などハイネンツ家の力を以てすれば容易く潰せるぞ」
そんなわけないだろ。
確かにアマリリスはあまり社交をしないので貴族の人脈は薄いけど忘れていない?
ヴァイオレット公爵家は事業を手広く展開しているということを。この意味が分からないのかな?馬鹿だから。
事業を手広くしているということはそれだけ商人と繋がりがあるということ。
私たちの一声で商人のアストラ入りをストップすることはできるし、父である公爵は事業の為に各地を転々としているから意外にも他国の王侯貴族との繋がりは強いんだよ。
商人の出入りがなくなったらどうなる?流通がストップしても国は国として成り立つとでも?
ああ、でもそんなことを言っても分からないだろうね。そんな仕組みを理解できる頭なんてないだろうから。だから私は一切説明をせずに微笑んだ。
「それは楽しみですわ。側妃様が誇るハイネンツ侯爵家の手腕が見られることを楽しみにしております」
お宅、散財ばかりで借金まみれの家だけどね。
「それではお互い積もる話もありませんし、私はこれで失礼しますわね」
投げた扇子を侍女がヘラの前に差し出した。
去って行く私の背にはバキリと扇子をへし折る音が届いた。
相当お冠のようだ。





