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「その辺にしておきなさい」
学校ではローズマリーがエインリッヒに捨てられたと専らの噂だ。
けれど婚約破棄はまだされていない。エインリッヒの今回の相手はスラム育ちの子爵令嬢。
平民育ちだけど公爵令嬢であるローズマリーとは違い身分に差があり過ぎる上に側妃側にはなんのメリットもない。
ローズマリーとの婚約破棄もユリアーデンとの婚約も許可が下りないのだろう。
そのことが結果的に噂に拍車をかけている。
曰く、ローズマリーはお飾りの妻にしてユリアーデンを愛人に迎える。
これまでの傲慢で不遜なローズマリーの態度が災いして噂を面白おかしく広める人間はいても同情し、手を差し伸べる人間はいない。
誰もがいい気味だと思っている。
「お姉様もいい気味だと思ってるんでしょう。私を笑いに来たんでしょう」
ローズマリーの手にはビリビリに破かれたユリアーデンの教科書があった。
最近、ユリアーデンの私物が壊されたり、紛失したりしている。それだけではなく二階から汚い水が降ってきて、ユリアーデンがびしょ濡れになったこともあった。
全部、ローズマリーの仕業というわけではないだろう。
ユリアーデンを気に入らないと思っている人間がローズマリーの仕業に見せかけてやっているのだ。
最終的にはローズマリーは全ての罪を背負わされることになるだろう。
それにユリアーデンもなかなか強かな人間のようだ。
イジメを受ける度にエインリッヒに泣きついている。エインリッヒはこのことに激怒しているとか。
ローズマリーの行いはユリアーデンを精神的に追い詰めるどころかエインリッヒとユリアーデンの仲を進展させているのだ。無駄骨もいいところだ。
「いいえ。私はいい気味だと思ってはいないわ」
それ程あなたに関心があるわけでもないし。
「お姉様」
なぜかローズマリーが潤んだ瞳で私を見てくる。
「ただ自業自得だとは思っている。見目麗しい殿方を侍らせていたのは誰?自分はエインリッヒ殿下の婚約者だからと何をしても許されると思っていたのは誰?」
「それは、でも」
言い訳をしようとしても何も浮かばなかったのだろう。
ローズマリーは俯き、黙り込んだ。
「ローズマリー、あなたの周りには誰が残った?エインリッヒ殿下はあなたがそこまでする価値があるのかどうか、もう一度よく考えなさい」
「………………」
ついこの間までローズマリーの可愛さに惹かれて周囲をうろちょろしていた連中はローズマリーとエインリッヒの不仲説やローズマリーのユリアーデンを糾弾する態度を見て「思っていたのと違った」「もっと可憐な子かと思った」と言って離れていったり、側妃の子でも王子であることに変わりのないエインリッヒに嫌われたローズマリーの周囲にいて火の粉が自分に飛んでくることを恐れて全員離れていった。





