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「何の用かしら?」

ひそひそと話すことしかできない馬鹿が視界の隅に映る。それが当たり前の光景になっていくとさすがにため息が出る。

気晴らしに街の散策でもしようかと部屋を出ると騎士服を着た男が私の前に立ちはだかった。

確か、ローズマリーの護衛騎士ね。

「ローズマリー様は王族の婚約者だ」

言い方もそうだけど態度も随分と横柄ね。

「そのローズマリー様に不敬を働けば、ローズマリー様の義姉であろうと首が飛ぶぞ」

身を屈め、私に顔を寄せてくる。

これですごんでるつもりか?

だとしたら滑稽ね。

「その前にあなたの首が飛びそうね」

「何だと?」

ああ、何て頭の悪い男だろう。

ここは本当に平和だ。

ここが戦場であったのならすぐにでも殺してやるのに。

「主家の娘にそんな態度を取ることが許されると思っているの?」

私がそう言うと騎士はゲラゲラと声を荒らげて笑った。

周りに使用人がいるのに、本当なら護衛騎士のこんな態度は咎められるべきなのに誰も咎めない。

私が相手だからそれも許されると思っている。

それに助けてやる義理もないのだろう。

私は義妹を虐める悪女なのだから。

ローズマリーの護衛騎士に横柄な態度をとられても当然だと思っているのだろう。

「許されるんだよ。俺はローズマリー様の護衛騎士で、ローズマリー様は王族の、エインリッヒ殿下の婚約者だからな」

「そう。では、エインリッヒ殿下が婚約者やその護衛騎士でしかないあなたの言いなりになる傀儡であることを祈ることね」

「貴様、エインリッヒ殿下を愚弄する気かっ!」

唾を吐き散らし、怒鳴る騎士を見て今度は私が笑う番だった。

「何を言っている?貴公が言ったんじゃないか。自分やローズマリーの後ろにはエインリッヒ殿下がいると。歯向かえば、エインリッヒ殿下が罰を下すのでしょう。それってつまりはそういうことじゃない」

「っ」

護衛騎士は自分の失言を誤魔化す為に私を殴りつけた。

殴られた私の体は簡単に宙を舞い、壁に激突した。

「きゃあっ」と無関心を装いながら見物をしていた使用人たちの小さな悲鳴が聞こえた。

私は宙を舞いながら「この体は何と非力なのだろう」と思った。

前世よりも幼い体。鍛えられていない細い手足は何の役にも立たない飾りのようだ。

「これ以上、俺を愚弄するならただじゃおかないからな」

たかが騎士風情が公爵家の令嬢に手を上げるなんて。この国の身分に対する考え方はどうなっているのかしら。

私が前世でいた国ならその場で首を切られても文句を言えないわよ。

「ただじゃおかないのはこっちのセリフよ」

「あ゛ん?」

どこのごろつきだ。

凄む騎士、巻き込まれるのを恐れ自分たちは関係ないとばかりに逃げる使用人。本当に碌な奴がいない。

この男はどこまで耐えられるだろうか?

私は男に向かって殺気を飛ばした。もちろん、相手はひよっこ。飛ばす殺気は手加減してやった。

「ひっ」

すると騎士は顔を真っ青にしながら尻もちをついた。ガタガタと震える姿はとても滑稽だった。私はその男が腰から下げていた剣を抜き取る。

‥‥‥重いな。

まぁ、暗殺者だった私が主に使っていたのは短剣とかナイフだから剣は別に使えなくても問題ないか。

私は抜き取った剣を男目掛けて振り下ろす。振り下ろされた剣は男の横をすり抜けて床に突き刺さった。殺されると思ったのか男は涙を流して床に突き刺さった剣を見る。

「この程度の殺気にも耐えられないからてっきり玩具を腰から下げていると思ったが、どうやら本物だったようだな。しかし、扱えもしない物を常時、身に着けているとは面白い奴だな。そんなものを身に着けているから相手の力量も分からずに誰彼構わず吠え散らかすようになるんじゃないか?身の程を弁えることをお勧めするよ。でなければ、次は確実に息の根を止める。分かったな?」

少し殺気を強めて凄めば男は壊れた首振り人形のように何度も頷く。

私は剣を抜き、彼から離れた。なぜなら人がやって来る気配がしたからだ。

「お前、何をしてんだ?こんな所に座りこんで」

やって来たのは男と同じ隊服を着た人だった。彼も殿下が派遣したローズマリーの護衛のようだ。

「あなたもエインリッヒ殿下が寄越したローズマリーの護衛騎士ですか?」

「そうです」

私が聞くと彼は礼儀正しく答えた。そこでガタガタ震えている男よりかはまとものようだ。

「彼は公爵の娘である私に暴力を振るいました。私がローズマリーを虐げているという噂を聞いたと言うだけで」

私は体を震わせ、両腕で抱きしめる。

私はまだ六歳の子供だ。しかも血を見ることがない貴族の令嬢。怖がって見せた方が良いだろう。

騒ぎを聞きつけてやって来た騎士は床に転がっている剣に目をやる。私は何も言っていない。けれど、彼はこう思っただろう。この男がまだ六歳である私に対して剣先を向けたのだと。

「お前」

「ち、違います、先輩」

ほう。あの男は先輩になるのか。

「違うというのならなぜ非常時でもないのに剣を抜いた?その剣で公爵令嬢を脅したのではないのか?」

「‥…」

男は先輩騎士に言えなかった。

『脅されたんです』とは。当然だろう。そんな情けないことを言えるはずがない。それに言ったところで信じてはもらえないだろう。

誰が信じる?大人の騎士を六歳の子供が脅すなんて。

「セレナ嬢、申し訳ありません。お怪我はなさいませんでしたか?このことは上に報告し、この者には厳しい罰を処します」

「怪我はありませんわ。そちらで正しい処罰を下してくださるのなら私に否はございません。あなた方はエインリッヒ殿下の婚約者であるローズマリーの為に来た騎士です。あなた方の行いが殿下の評価に繋がることを常に念頭に置いて行動なさい。でなければ、殿下の顔に泥を塗ることになりましてよ」

「仰る通りでございます」

ふふ。ざまぁね。

私に暴力を振るった騎士は顔を青ざめ、自分に降りかかるであろう今後の未来に体を震わせていた。


◇◇◇


side.騎士


俺の名前はジョン・マルセル。

「まさか、公爵令嬢にそれも僅か六歳の幼子に剣先を向ける愚か者が騎士団にいたとは嘆かわしい」

今日、後輩の騎士がセレナ・ヴァイオレット公爵令嬢に暴力を振るった。可哀そうに彼女は怯えていた。

俺は今日のことを騎士団長に報告した。

ふと、思った。

『あなた方はエインリッヒ殿下の婚約者であるローズマリーの為に来た騎士です。あなた方の行いが殿下の評価に繋がることを常に念頭に置いて行動なさい。でなければ、殿下の顔に泥を塗ることになりましてよ』

凛とした佇まい。

あれは本当に六歳の女の子だろうか。どこかほの暗さを宿した目をしていたような気がする。それに奴はなぜあんなにも怯えていた?

俺に見つかって処罰に怯えた?いや、もっと前から怯えていた。

セレナ・ヴァイオレットに?

一介の騎士が?

「どうかしたのか?」

「いいえ、何でもありません。団長、処罰はどうされますか?」

「愚問だな。身分に関わらず子供に剣を向けるなどあり得ない。人の命を奪える武器を所持しているという自覚が足りない。マイケル・ド・エレオを解雇する」

「よろしいのですか?エインリッヒ殿下が反対される可能性があります。彼は」

「ジョン、騎士団の任命権を持つのは俺だ。王子殿下ではない。俺以外であるとしたら陛下のみ。もし殿下が口を出すようならそれは越権行為。俺たちと違って王族の越権行為は下手をすれば叛意ありと見做される。それだけ王族が持つ権威とは強力ということだ。たとえ子供であってもな」

‥‥‥子供であっても、か。

セレナ・ヴァイオレットは子供でもその実、中身は‥…いや、考えすぎか。

「荷物を速やかにまとめるように。もし、納得せずに留まるようなら投獄すると伝えておけ」

「はっ」

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