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第七話 一枚無料

 少女ことシリウスの名前も決まり、呼び出した二人は特に仕事を果たさなかった。

 来て喧嘩して、シリウスと少し仲良くなっただけである。


 どうしてかシリウスは俺以外に対して極端に人見知りになるが、受け答えに支障はなかったので顔見知り程度の友好関係は築けていると言って良いはずだ。

 そして、呼び出した用事を終わったので彼らは帰って行った。


 帰って行く……予定だった。

 呼び出した時刻は十時。さっさと帰らせないと昼飯を要求してきそうなので、名前が手っ取り早く決まったので、あとはコイツらを帰らせるだけだったんだ。


 だけだったのに……。


「どうしてお前らは昼飯まで食ってるんだよ!!!!」


 客を応対する役目である机の上にはピザが二枚。

 それ囲うように男二、女一、少女一。


 ピザは俺が取りに行ったので二枚目が無料だったから昼飯としては許容範囲内だが、本当のところ二枚目は夕食にするはずだった。

 一食分の食費で、昼夕の両方を済ましてしまおうという天才的な発想だったんだ。


 そんな俺の天才的な計画は、このふざけた野郎共に破壊されたわけだ。

 まあ、今回は大金が手に入ったばかりなので良いのだがな!


 ちなみに、大金の方は鍵のかからなくなった金庫にシリウスがしまってくれていた。

 良い子だよ。本当に。


「なんでって、お昼に人の家にいるのよ。ご飯ぐらい頂戴よ」


「そうだよ。僕らは急に呼ばれたんだ、これぐらいお礼として僕たちに送るべきだよ」


 と、二人の強欲な人間共は言いながらピザを頬張っている。

 焼きたてのチーズが伸びていて、美味しそうだ。


 そんな人の金でピザを頬張る最低な人間二人に対して、シリウスは一切れのピザをちまちまと食べている。

 小動物、例えるならばハムスターの食事シーンを見ているようで廃れていた心がほっこりする。


 俺の視界の正面と右側は映像が腐っていて見えないが、左側だけがとても鮮明に見える。

 ちまちまと食べながらも、一口一口美味しそうな顔をして食べるもんだから、ピザを食べているはずの腹が鳴り止まない。


「シリウスももっと食べて良いからな。欲しいのがあったら言ってくれ、コイツらからいくらでも奪い取るぞ」


「はあ? ふざけんじゃないわよ! 私たちだってお腹が減ってるのよ!」


「テメエらの食事じゃねえんだぞ! これはシリウスのための食事だ!」


 せっかくシリウスに話しかけているというの邪魔くさい奴らだ。

 お前らもかわいがる立場の人間だろ。


「淳平も麻音も落ち着いてよ。美味しいピザにつばが飛ぶよ」


「しれっとピザをもう一切れ取るんじゃない。お前何枚目だ、それ」


「なんだい。君は借金の返さないくせに、僕からピザを盗ろう─────」


「こっちのピザも食べたらどうだ! 美味しいぞ」


「手の平返すの速すぎでしょ」


 しょうがないだろ。

 いくら俺でも金には勝てん。


 今までの生活費の大半は時鬼からもらってるのだ。

 借金のことを出されては俺も頭が上がらん。


 これだけ借金してもまだ友達でいてくれることに感謝しなければならないし、今のところ一回も返してないにまだ金を貸してくれることにも感謝しなければ。

 でも、今回の臨時収入で今後一ヶ月は大丈夫そうだ。


 今まで一日の生活を小銭で済ませてきた人間だ。

 いつも通りに暮らせば、もしかしたら一年これだけで……。


「ふふふ……」


「急に笑い出さないでよ。気持ち悪い。シリウスちゃんもコイツの所が嫌だったら、すぐにうちに来て良いからね」


「僕の所も大丈夫だよ。この笑っている不審者よりかは良い生活だけは保障してできるから」


「い、いえ……私は淳平さんの家で過ごすので……」


 本当になんて心優しい少女だろうか。

 こんな悪魔のささやきにも負けることなく、俺の側にいたいと言ってくれる。


 ああ。

 涙がほろりと落ちてしまいそう。


「大丈夫? 脅されてない? 実は弱みとか嫌な事とかされて逃げ出せないとかない?」


「おい、そこ。なぜそこまで心配する」


「貴方ならやりかねないわ」


「俺に前科はないぞ」


 俺は法に従う国民だ。

 法を破るためにあるとかいう頭のおかしい発言をした過去すらない。至って純白な人間だ。


 そこら辺のコピー用紙よりも綺麗な自信があるぞ。


「麻音もそれぐらいにしてげなよ。シリウスちゃんも困ってるよ」


「そうね……でも、嫌な子とされたら言いなさい。私がコイツを完膚なきまでにボコボコにしてあげるわ」


「あさね……さん? はそんなに強いんですか」


 え。

 そこに興味持っちゃう? シリウス、裏切るのか!?


「あったりまえよ! 近接戦ならこんな奴に負けないわよ」


 シュシュと言いながら、シリウスの前で麻音はパンチをしている。

 そのパンチは子供に見せるようなお遊び的なそれではなく、ガチの威力を持ったパンチであった。


 彼女の正面に俺がいるもんだから、拳に殺意が混じっている。

 心なしか、その視線も拳の先も俺がいる気がするんだが。


「シリウスそんな教育に悪いモノ見ちゃいけません。しっしってしなさい。しっし」


 手で追い払うような動きをして、シリウスをこちらに抱き寄せる。

 こんなのの側にいたら、シリウスが危ない。主にこの天使のような性格に麻音の成分というよどみが入ってしまう。


 麻音が二人もいるなんて考えただけで最悪だ。

 一人いるだけでこれほど大変だというのに、二人もいられたらもうどうしようもできない。


 酒を飲んだ時なんて本当に悲惨だ。

 泣き上戸のくせに、絡み酒に派生するもんだから手が付けられないったらありゃしない。そのくせ満足したら寝やがる。


 こんなのが二人もいてみろ。

 俺はもう二度と飲みの席には行かんぞ。


「母親みたいなこと言うんじゃないわよ。それにいつまで抱いてるのよ。シリウスだって嫌がって……」


 おっと、これはうっかりしていた。

 麻音という酒乱からかわいいシリウスを逃がそうと、ずっと抱きついたままだった。


「大丈夫か?」


「はい……少しぽかぽかするだけです」


「心なしか嬉しそうに見えるね。そう思わないかい、麻音」


「まあ、そうね」


 シリウスの様子を静かに見ていた時鬼の言葉に、麻音は落ち着きを取り戻す。

 心がぽかぽかするそうだ。


 良いこと? なのだろうか。

 取りあえず、四人で昼食をして良かったと。


 このとき初めて思った。

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